【目的】先に我々は,プレコンディショニングとして温熱負荷を行うと,ギプス固定後の再荷重で起こるラットヒラメ筋の筋線維損傷の発生が抑えられること,ならびにその作用機序にHeat Shock Protein(HSP)70の発現が関与していることを報告してきた.しかし,これまでは再荷重3日目までの検討であり,その後の経過については不明であった.そこで本研究では,再荷重後の経過をさらに延長し,プレコンディショニングとしての温熱負荷が筋線維損傷の発生におよぼす影響を検討した.
【方法】8週齢Wistar系雄性ラットを対照群と実験群に分け,実験群は両側足関節を最大底屈位で4週間ギプス固定し,その後再荷重する再荷重群とギプス固定終了の2日前に41°Cの全身温熱負荷を60分間行い,固定期間終了後に再荷重する温熱群を設定した.検索時期は再荷重開始から0,1,3,5日目とし,採取したヒラメ筋の一部からWestern blot法によるHSP70含有量の計測を行った.また,試料の一部から作製した凍結横断切片をH&E染色し,筋線維横断面積と総筋線維数に対する壊死線維数の割合を計測した.なお,本実験は星城大学研究倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】HSP70含有量は0日目のみ温熱群が再荷重群より有意に高値で,他の検索時期は群間に有意差を認めなかった.次に,全ての検索時期とも対照群に比し再荷重群と温熱群は筋線維横断面積が減少し,壊死線維数の割合には増加を認めた.また,筋線維横断面積の分布を再荷重群と温熱群で比較すると,0,1,5日目は大差なく,両群とも1500~4000μm
2に分布し,温熱群の3日目も同様であった.しかし,再荷重群の3日目は2500μm
2付近と4500μm
2付近を頂点とする二峰性の分布で,特に4000~6000μm
2付近の分布が増加していた.さらに,壊死線維数の割合をみると,温熱群は各検索時期とも1%未満であったが,再荷重群は3日目のみ3.5%と増加し,これは他の検索時期や温熱群との比較でも有意差を認めた.
【考察】今回の結果から,ギプス固定後の再荷重で起こる筋線維損傷は再荷重3日目が顕著で,これに準拠するように一部の筋線維は横断面積に拡大を認め,これは浮腫が影響していると思われる.また,その後の経過をみると筋線維損傷は回復する傾向にある.一方,温熱群は各検索時期で壊死線維数の割合や筋線維横断面積の分布に違いはみられず,加えて,再荷重3日目の壊死線維数の割合は再荷重群より有意に低値であった.そして,再荷重前(0日目)のHSP70含有量は温熱群が再荷重群より有意に高値で,これはプレコンディショニングとして温熱負荷を行ったことで筋細胞内にHSP70が発現したことを示している.つまり,HSP70の発現により荷重ストレスに対する交叉耐性が獲得され,筋線維損傷の発生が抑えられたと推察される.
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