Ⅰ はじめに<BR> モータリゼーションの進展により,乗合バス事業をめぐる環境が厳しさを増している.乗合バスの利用者数は1960年代をピークに減少を続けており,乗合バス事業者が経営を維持するために赤字路線から撤退し,路線廃止に至るケースも出てきている.<BR> このような状況の中で,自治体が公共交通に取り組む例が存在する.
廃止代替バス
やコミュニティバスと呼ばれるものである.
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やコミュニティバスは,自治体が主体となって公共交通の運行に関わるため,運行方式,路線の設定等,それぞれの地域の実情や公共交通に対する問題に応じた運行形態が取られていると考えられる.<BR> そこで本研究では,自治体が供給する公共交通を運行形態について類型化し,地域の状況とどのような関係がみられるのか都道府県レベルで検討し,それぞれの類型における特徴や課題を明らかにすることを目的とする.そのことで,自治体が公共交通を運行するにあたって,同様の地域条件を持つ自治体の事例についてその特徴や注意点を参考とすることができるようになることから,意義があると思われる.<BR>
Ⅱ 研究対象と研究方法<BR> 研究対象は埼玉県内の47事例とした.埼玉県は,東京都区部に隣接するベッドタウンとしての市街地から農村地域,山間部までの多様な地理的条件を持っている.また,小鹿野町やときがわ町等では1970年代から自治体による
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が運行されるなど公共交通対策において先進的な事例もみられるほか,さいたま市や秩父市等2000年代に入ってから運行を開始した事例もあり,運行開始時期についても約40年の幅がある.<BR> 自治体が供給する公共交通について,運行形態によってどのような特徴で分けられるのか探るために,主成分分析とクラスター分析による類型化を行った.主成分分析に用いたデータは,埼玉県「市町村バス運行状況調査集計」および各市町村ホームページ上に公開されている情報,各市町村担当課へのアンケート調査により入手した情報を使用した.<BR> その後,各類型に該当する市町村ごとの,都市,人口,交通面の属性データの平均値と照合し,各類型についての考察を行った.<BR>
Ⅲ 研究結果<BR> クラスター分析の結果,埼玉県内の自治体が供給する公共交通の事例は①施設アクセス向上,②既存事業者による運行,③大規模な運行,④既存事業者に依らない運行,⑤福祉バス,⑥
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の6類型に分けることができた.<BR> また,類型ごとの自治体の特徴は,類型1は,東京都に隣接する自治体が多く,人口密度,DID面積比率は各類型中最も高い.需要の絶対量が多い地域のため運行目的を達成していなくても一定の実績を挙げてしまう可能性があると考えられる.<BR> 類型2は,類型1に次いで人口が集住しているが,急速に高齢化が進行している.通勤通学需要を取り込むことで,利用者の増加につなげられると考えられる.<BR> 類型3は,人口,DID面積が大きく,東京都心から30km圏外に分布することから,地方中心都市といえる.面積が広い自治体が多く,全域をカバーしようとすると冗長な運行形態となってしまう可能性がある.<BR> 類型4と類型5は,ともに人口密度,DID面積比率が低かった.そのため,多くの集落をカバーしようとすると,複雑なルート設定になりやすいと考えられる.<BR> 類型6は,山間部に位置し,人口密度は低く高齢化率は高い.
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であっても,従前の運行形態を維持するだけでなく,利用者にとってわかりやすい運行形態を目指して修正を行っていくことが,利用促進につながると考えられる.
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