【目的】現在の臨床実習(以下,実習)において,学生評定が指導者の主観や実習地の特性に左右されるという問題に対し,実習とは学生の成長を促す場という視点から実習中の伸び幅,つまり
形成的評価
を行うことは学生指導を行う上でも有効だと考えられ,このことは実習指導の手引き第5版でも述べられている.また,医師や看護教育においても
形成的評価
の重要性は指摘され,客観的に行う取り組みがなされている.しかし理学療法実習において
形成的評価
をどのようにして行うのか,その具体的な方法論はまだ確立されていない.そこで今回,学生が実習中に体験したことに対する「気づき」に着目し,当院の特性を活かした実習の中から学生がどのようなことに着眼点を持ったのか,実習後の感想文から分析し考察を行った.
【方法】当院は急性期,回復期病棟および介護系施設を有しており,理学療法の職域の広さや多様性に「気づく」との仮説のもと,長期実習開始後3週間は担当症例を持たず,医療および介護領域の理学療法を2,3日ごと指導者の下で体験する形式を行っている(以下,体験実習).今回,平成20年8月から平成21年10月まで当院で実習を受けた学生9名が,体験実習後に作成した感想文185文のうち,実習の感想とは関係ない文を除外した,残りの177文を分析対象とした.情報抽出にはテキストマイニングの手法を採用し,茶筌2.1を用いて形態素解析を行った.得られた形態素に対し同義語を統一し,変数の数および種類をできるだけ減らすことで成分の抽出を容易にするため,解釈不能な単語と出現頻度2以下の単語を削除した.その後,SPSS17.0を用いて主成分分析を行い,構成要素の類型化を試みた.
【説明と同意】学生には事前に口頭にて実習成績に影響しないこと,自分の考えや感想を素直に記載することを説明し,紙面にて同意を得た.また説明に関しては,実習指導者以外の者が行った.養成校には,実習地訪問の際に当院の実習形態および取り組みについて説明を行った.
【結果】抽出された総形態素数5483語のうち名詞に関するものを抽出した後,単語の統一および削除を行い1040語,52種類を変数とし,得られた変数に対して主成分分析を行った.主成分は固有値が1以上となる成分を求め,3以上の変数で構成される成分を抽出した結果,5成分が抽出された(累積寄与率80.4%).第1成分を構成する変数は「医療介護職」「患者」「家庭や家族」「チーム連携」などであり「患者の生活を考えたチーム医療」という因子に属するものと考えられた.第2成分は「理学療法」「多様性」「共通点」「病期」「共感や感情」など「理学療法の多様性と共通点」という因子に属するものと考えられた.第3成分は「技術」「理学療法評価」「臨床や仕事」など「理学療法の職能」という因子に属するものと考えられた.第4成分は「体験や経験」「ゴールや予後予測」「イメージや視点」など「体験を通して見えてきたゴール設定」という因子に属するものと考えられた.第5成分は「QOL」「サービスや援助」「個人」など「他者理解に基づいたサービスや援助」という因子に属するものと考えられた.
【考察】今回得られた「理学療法の多様性と共通点」という因子は,当院の体験実習の目的に即しており予測できるものであった.加えてそれ以外に,「患者生活」や「理学療法の職能」,「ゴール設定」,「他者理解」といった4つの因子が抽出されたが,これは学生が多様な体験の中から,多くの「気づき」を得ているということを反映するものと考えられた.このことから,指導者が学生の「気づき」に着目することは,
形成的評価
や学生指導を行うための指標の1つになる可能性があると考える.今後は学生数を増やし,実習内容の違いによる「気づき」の差や,得られた「気づき」がその後の実習展開にどのように影響を与えるかを検証していくことがこれからの課題である.
【理学療法学研究としての意義】学生自身が自己を振り返り,指導者は学生の自己評価をモニタリングするという
形成的評価
を行うためには,評価の視点を他者評価から学生の自己評価主体へと変えていく必要がある.理学療法実習における学生評価で,
形成的評価
について学生の「気づき」を客観的に評価することに着目した研究はまだなく,今後,本研究を展開していくことで新たな学生を評価する指標を作ることにもつながると考える.
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