【目的】スポーツ障害の予防として、痛みが生じやすい動作と痛みの部位について分析することは重要である。前回の2008年度大阪国際車いすテニストーナメント(以下OSAKA OPEN)メディカルサポート(以下MS)の報告では障害部位について明らかにした。さらに詳細な分析を行うために、今回、2009年10月1日から4日に開催された2009年度OSAKA OPENにおいて、車いすテニス選手の痛みが生じやすい動作と痛みの部位の関係について検討したので報告する。
【方法】対象者はMSを利用した選手53名のうち痛みを訴える選手27名(平均年齢41.0±9.3歳、男性19名 女性8名)とした。分析にはMS初回利用時のデータを使用し、理学療法士が記載したMS記録から集計を行った。プレイ時の動作をサーブ、フォアハンドストローク、バックハンドストローク、車いす駆動に分類した。さらに、痛みが生じる時期を明確にするために、それぞれの動作を以下の要素に分けた。サーブ(テイクバック・最大外旋時・インパクト・フォロースルー)、フォアハンドストローク(テイクバック・インパクト・フォロースルー)、バックハンドストローク(テイクバック・インパクト・フォロースルー)、車いす駆動(急発進・急ブレーキ・駆動期・振り戻し期)とした。この分類に基づき、選手から聞き取りを行い、痛みが生じる動作・時期を特定した。
【説明と同意】本研究は、MS利用前に対象者へ研究データとして利用することを個別に説明し、自筆にて同意を得たものである。また本研究は大阪府立大学研究倫理委員会の承認を得たものである。
【結果】どのような動作において痛みが発現するかに関して、サーブ時に痛みを訴えることが最も多く13件であった。次いで、バックハンドストローク時5件、車いす駆動時4件、フォアハンドストローク時2件、その他8件という結果であった。それらの動作を各時期に分類した場合、サーブインパクト時5件、最大外旋時3件、フォロースルー時3件、バックハンドストロークインパクト時5件、車いす駆動急発進時3件、フォアハンドストロークインパクト時2件であった。各動作時の痛みの部位に関して、サーブ時肩関節8件、肘関節2件、前腕2件、腰部1件であった。バックハンドストローク時肘関節3件、前腕2件、車いす駆動時肩関節1件、肩甲帯1件、肘関節2件、フォアハンドストローク肘関節1件、前腕1件であった。なお、上肢の痛みの部位はすべてラケット把持側であった。
【考察】痛みが生じやすい動作としては、サーブが最も多く、痛みの部位はラケット把持側の肩関節に多くみられた。各動作を時期に分類した場合、サーブでは、各時期において痛みを生じており、特に最大外旋時からインパクト、いわゆるコッキング期に多く認められた。次いで、バックハンドストロークが多く、インパクト時に把持側肘関節・前腕部に痛みが認められた。昨年度の報告において、車いすテニス選手では、一般のテニス選手に比較し、肩の障害が多くみられたが、本研究では、対象は少ないものの、サーブ時に肩関節の痛みが生じることが示唆された。この要因として、原疾患による体幹機能低下や下肢が固定された状態での車いすテニス特有のサーブ動作、一般テニスと同様のネットを使用することによるサーブの
打ち上げ角
度の違いが影響していると考えられる。今後はなぜサーブ時に肩の痛みが多いのかについて、サーブ時のバイオメカニクスや個々の症例における要因を詳細に検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】スポーツ障害予防の考え方として、van Mechelenらの提唱した4段階モデルが主に用いられる。4段階とは、第1段階として、そのスポーツ障害の発生頻度や重症度を調査し、問題として認識を行うこと、第2段階として、スポーツ障害のメカニズムやリスクファクターの解明を行うこと、第3段階として、そのリスクファクターに対して予防的介入を行うこと、そして、第4段階として介入効果を検証し、再び第1段階に戻るというものである。
本研究は第1から第2段階にあり、痛みが生じやすい動作と痛みの部位の関係について調査を行った。車いすテニスの公式大会では、MSの設置が義務づけられており、理学療法士もMSスタッフとして参加し、各競技大会に関する報告が行われている。それらの報告は、障害部位や治療の報告が多く、痛みが生じやすい動作と痛みの部位の関係について調査したものはない。本研究は、障害が起りうるメカニズムやリスクファクターを見極める上で有用であり、理学療法学分野における車いすテニス選手のスポーツ障害に関するエビデンス構築の一助になると考える。
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