目的 医学教育において,医学生に死生観の形成の場を提供することが必要であるが,終末期や死に関する授業が医学生の死生観にどのような影響を与えているかはいまだ明らかではない.本研究は,終末期医療・看護の授業の有無と医学生の死生観との関連を明らかにすることを目的としている.
方法 2004年3月に,全国の医学科79校の教育責任者宛てに,5年生もしくは6年生全員に対する終末期医療・看護に関するアンケート調査の依頼状と調査票を送付した.調査時期は2004年4月から2006年3月までとし,実施方法は各校に任された.調査内容は,学生の属性,家族との同居の有無,信仰している宗教の有無,家族の信仰している宗教の有無,ペットの死の経験,家族の死の経験,親しい友人の死の経験,近親者の終末期に立ち会った経験,大学入学前に死に関する学習をした経験,平井らの開発した死生観尺度,であった.さらに,終末期医療・看護に関する授業と学生の死生観との関係を検討するため,入学後に選択・必修を問わず授業を受けた学生とそうでない学生との2群に分け,比較を行った.
結果 調査協力の承諾が得られたのは16校(20.3%)で,協力校の入学定員合計は1,510人であった.その67.4%にあたる1,017人の学生から回答を得た.授業を受けた学生は受けていない学生に比べて【死後の世界観】・【死への関心】・【寿命観】の得点が高い傾向がみられた.授業の有無を従属変数としたロジスティック回帰分析を行った結果,それらの傾向はみられなくなり,【死への不安・恐怖】のみ授業を受けた群で得点が高い傾向がみられた.
結論 死への不安の増加は死に対する認識が深まった結果と解釈できるが,医学科で行われている終末期医療・看護に関する授業が医学生の死生観形成に十分に影響を与えているとは必ずしもいえない.
抄録全体を表示