【研究目的】 院内感染の多くは細菌が医療従事者の手指を媒介して起こっているといわれており、手洗いはその院内感染予防に重要な役割を果たしている。
院内の中でもICUには感染に対してハイリスクな患者が多い。ICUで感染症を発症させると新たな病原体の定着の機会が増え、患者本人だけでなくほかの患者への伝播の機会も増えることになる。日常的に患者と接することが多いのは看護師である。看護師による細菌の媒介を予防するには、看護ケア後の手指付着菌を除去する必然性を明確にしなければならないと考えた。そこで本研究は、各種ケアと手指付着菌の関係について示し、看護ケア後の有効な手洗いの時期を明らかにすることを目的に取り組んだ。
【研究方法】 平成16年9月から12月に当院ICUに勤務する看護師19名を対象とした。事前に研究目的・データ管理に関して口頭と文書で説明し、同意を得た。被験者にはICUで頻繁に行われている、
気管内吸引
(n=10)、検温(n=10)、清拭(全身清拭n=9、陰部洗浄n=9)を実施してもらった。各ケアは当院で実施している方法に準じて行ない、方法・手順を統一し被験者間で差異がでないように配慮した。ケアの実施前に30秒間衛生的手洗いを実施し、ついで速乾性消毒剤を用いて手指消毒を行なう。ケアの前後に寒天培地に両手掌部を押し付け、37℃で24時間細菌培養した。後にそれぞれのコロニー数をカウントし、これを手指汚染の程度の指標とした。手洗い前後および左右の差にはpaired-t検定を、ケアごとの比較には分散分析を用いた。
【結果】 各ケア開始前のコロニー数の平均値は、2個未満であった。各ケア後の平均コロニー数は、両手掌で
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6個、検温95個、清拭387個であった。検温と清拭では、ケア前と比べてケア後の方が有意にコロニー数の増加がみられた(p<0.05)。
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においては前後の有意な差はみられなかった。各ケア後のコロニー数を比較すると、
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よりも、検温と清拭のほうが有意にコロニー数は増加していた(p<0.05)。また清拭を全身清拭と陰部洗浄で分けてコロニー数を比較すると有意な差はみられなかった。
【考察】 ICUで頻繁に行なわれる3つのケアについて手指汚染の程度を比較した。3つのケア前後で比較すると、検温および清拭後のコロニー数は有意に増加していたが、
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では前後のコロニー数に有意な差はみられなかった。
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ではビニール手袋を装着して施行するのに対し、検温と清拭では直接素手で行なったことが影響していると考えられる。また
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は吸引チューブや挿管チューブ、患者の顔面周囲に接触範囲が限定されているが、検温と清拭では患者の全身とベッドサイドの物品に多く接触し、
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よりも接触範囲が広いためと考えられる。
次に3つのケア後のコロニー数を比較すると、
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後に比べ検温、清拭後のコロニー数が有意に増加した。なかでも清拭後が最も増加した。これは素手で蒸しタオルを使用したことにより、直接患者の身体に触れ、汗などの体液が手指に付着した可能性が考えられる。
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と陰部洗浄で装着するビニール手袋は同じ規格の手袋を使用しているが、
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後より清拭後に有意なコロニー数の増加がみられた。これは陰部洗浄時に微温湯と蒸しタオルを使用したことによって手指とビニール手袋内に熱が生じ細菌が繁殖しやすい環境になったのではないかと推測される。ビニール手袋は、リーク率が高いといわれており、陰部洗浄中にリークが起こりそこから手指が汚染された可能性があるため、同じビニール手袋を使用してもコロニー数に差が現れたのではないかと考えられる。
【結論】今回、ICUで頻度の高い3つのケアと手指付着菌の関連性について検討した。感染に対してハイリスクな患者が多いICUでは、看護師は数ある看護ケアの中で検温後と清拭後には確実な手洗いをしなければならないことが示唆された。感染予防や手指衛生の教育が進む一方で、基本的な手洗いができていない現状もある。そのため今後は手荒れのケアや、刺激性の少ない手指消毒薬の選択、手洗い方法の検討を課題としたい。
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