Presurgical Nasoalveolar Molding治療(NAM)後の初回口唇鼻形成手術時にMillard type Gingivoperiosteoplasty(GPP)を行った当チームにおける日本人第一症例の12年予後について報告する。
症例:左側完全唇顎口蓋裂女児,初診時年齢2週,顎裂幅13mm,生後3週にNAM治療を開始した。約4ヶ月間の治療後,顎裂幅1mmにて初回口唇鼻形成手術(Millard 法+小三角弁)およびGPPを施行した。その後生後1歳3ヶ月に口蓋形成手術(Furlow法変法)を行った。
長期経過観察後の4歳7ヶ月に第一期矯正診断を行った。上顎前歯の舌側傾斜を伴う前歯部反対咬合を示し,軽度骨格性下顎前突症と診断された。顎裂部は骨架橋の形成を認め早期の第二次骨移植は不要と判断された。第一期矯正治療時,反対咬合の改善に上顎前方牽引装置を4ヶ月間使用した。また上顎中切歯萌出後,マルチブラケット法にて捻転の改善を5ヶ月間行ったのち経過観察となった。10歳3ヶ月から2年間両親の転勤に伴い渡米,受診を一時中断した。渡米中12歳0ヶ月に上顎右側犬歯の萌出障害を認めたためニューヨーク大学医科センター形成外科にて開窓牽引処置を行った。帰国後の再評価時年齢12歳6ヶ月,軽度の左右非対称はあるが良好な口唇鼻形態とストレートな顔貌を示した。口腔内所見から垂直被蓋+2.0mm,水平被蓋+4.0mmと叢生が観察された。セファロ分析から骨格性Ⅲ級傾向と診断された。顎裂部には良好な骨化架橋を認め二期矯正治療にあたり骨移植は不要と診断,GPP施行により完全唇顎口蓋裂患者の二次歯槽骨移植の回避が可能であることがわかった。なお裂部側切歯は欠損していた。現在,審美・言語とも良好な結果を示している。二期矯正治療の必要性を認めるが骨切り手術については現時点では不明である。乳児期から思春期にかけて,本治療は形成,言語,矯正において結果が良好であるだけなく,頻繁な受診を伴わない効率的な治療であった。成長終了後に口唇鼻修正手術を検討している。
以上より日本人にもNAM治療およびGPPは審美,言語,口腔形態ともに良好な結果をもたらす可能性が示唆された。今後の思春期成長にあたり,顎発育形態に注意していく予定である。
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