1.はじめに
近年, 百名山ブームや健康ブームに伴い中高年を中心に山岳利用が活発になっている. その一方で,
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の過度な利用が進み, 全国各地で
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の荒廃が報告されている.
これまでに
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の荒廃に関して多くの研究がなされ, 特に
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の荒廃を抑制するため, その要因が探られてきた. しかし, こうした既存研究のほとんどは高山帯を対象としており, 森林に覆われた亜高山帯より低所の山における研究例はあまりない. 特に利用者が多い大都市周辺の山における研究は少なく,
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の保全を考える上で, こうした地域の
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荒廃の実態も明らかにする必要がある (中村 2000). また,
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の侵食パターンには山毎に異なる地域的な特徴が影響する (依田・小野 1991). これまでに山毎の侵食パターンについて比較検討した研究はほとんどなく, そのため山毎に卓越する侵食パターンに対応した適切な施策の必要性を提示できてこなかった (渡辺 2008).
そこで本研究では, 利用者の多い首都圏周辺に位置する3つの山 (丹沢山地の塔ヶ岳, 箱根山地の金時山, 奥多摩地域の大岳山) において, それぞれにおける
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の侵食パターンを示し, その要因を明らかにすることを目的とする. そして, 山毎に異なることが予想される
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の侵食パターンやその要因に応じた施策の必要性について言及する.
2.調査地と方法
本研究では首都圏から日帰りで登山が可能な丹沢山地の塔ヶ岳, 箱根山地の金時山, および奥多摩地域の大岳山の三ヶ所を調査地とした. また, それぞれ現地調査は調査対象とした
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に一定の標高ごと (塔ヶ岳 - 50m毎, 金時山・大岳山 - 25m毎) に設けた調査地点で行った.
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で観察される土壌侵食のパターンを明らかにするために, 各調査地点において
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の侵食幅, 侵食深, および侵食量を計測した. また,
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の侵食パターンに影響する要因を明らかにするため, 周辺環境である傾斜角, 土壌硬度, リターの厚さ, そして周辺植生について調査した. 解析には重回帰分析を用いた.
3.結果と考察
侵食パターンは山毎に差異がみられた(図1). 塔ヶ岳では侵食幅が拡大する侵食パターン, 金時山では侵食深が深くなる侵食パターン, そして大岳山では総じて侵食が抑制されるパターンをそれぞれ示した. 重回帰分析の結果から, 侵食パターンに関わる共通の要因として,
登山道の傾斜角と登山道
内におけるリターの厚さが抽出できた. それぞれの侵食パターン毎では, 塔ヶ岳でみられたような
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の拡幅化が目立つ侵食パターンには, 共通要因に加え周辺植生タイプおよび
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外におけるリターの厚さが関わっており, 金時山で顕著に生じていた侵食深が目立つ侵食パターンには土壌硬度と周辺植生タイプが形成要因となっていた.
これらのことから,
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の土壌侵食に関わる要因の地域的な差異が山毎の侵食パターンの違いを生じさせていると推察できる.したがって,それぞれの地域に卓越する侵食パターンおよびその形成要因に合致するような対策の実施の必要であると考えられた.
4.引用文献
中村洋介. 2000. 丹沢における
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荒廃の過程とその要因. 地域学研究 13: 25-48.
依田明美・小野有五. 1991.
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の侵食について. (第二報) . 地形 12: 76-77.
渡辺悌二. 2008. 国内外にみられる既存のおもな
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整備工法. 渡辺悌二編著『
登山道
の保全と管理』古今書院.
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