近年,敗血症性臓器不全の成因として血管内皮機能変化や凝固・線溶機能異常が強調されている。すなわち,好中球-血管内皮相互作用の変化や凝固線溶亢進抑制による両者のアンバランスなどである。われわれは,このような障害に対してアンチトロンビンIII (AT-III)を用いた治療を行い,敗血症ラットにおける用量依存的な効果を確認してきた。目的:本研究の目的はAT-IIIの作用機序を明かにすることである。また,AT-IIIはとくにsupranormal levelにおいて内皮機能調節作用が期待されることから,この検証も試みた。方法:敗血症モデルはWistar系ラットに微量のエンドトキシンを4時間持続投与して作製した。そして同時に生理食塩水のみ投与を行う無治療群(U群)と,AT-III 2.5IU/kg/hrを同時投与する少量投与群(L群), AT-III 10.0IU/kg/hrを同時投与する大量投与群(H群)を設定した。そして投与終了時における肝微小循環動態を生体顕微鏡下に観察した。結果:類洞血流速度はU群で0.38±0.15μm/sec, L群で0.39±0.13μm/sec, H群で059±0.29μm/secと,大量投与群においてのみU群と比較して1.5倍以上の有意な血流速度の増加がみられた(p<0.01)。一方,類洞径はL群とH群がともにU群よりも高値を示した(各々p<0.05, 0.01)。内皮機能変化の指標として観察した1視野90秒間あたりの好中球接着頻度は,U群の0.88±1.12に対しH群では0.25±0.43であり,AT-IIIの大量投与により接着頻度が有意に減少していた(p<0.01)。まとめ:エンドトキシン投与ラットにおいてAT-IIIは,血流速度の低下を改善し,類洞径の縮小を抑制することによって微小循環を維持し,臓器保護的に働いているものと考えられた。また,大量投与を行った場合には血管内皮への好中球接着も抑制され,AT-IIIは内皮機能調節作用も有するものと考えた。
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