重症先天性心疾患の1つである純型肺動脈閉鎖症は,肺動脈弁が完全に閉鎖しており,二心室をもち,心室中隔に欠損がなく,さらに動脈管が開存している比較的まれな先天性心疾患である.
先天性心疾患児なかでも重度のチアノーゼ性心疾患児は乳幼児期から心臓にかかる負担を軽減するため運動制限がはじまり,また泣くこと,暴れることなど子供本来の動きが抑制される.そのため,保護者は過保護に陥る傾向にある.さらに,重症心疾患児では乳幼児期より再三の入退院を繰り返したりして種々の医療行為がなされるので精神情緒面からも多くの問題点を含んでいる.
歯科治療の面からみて先天性心疾患児の全身麻酔下歯科治療の適否に関しては種々議論のあるところであるが,歯科治療によって患児にもたらされる効果と,麻酔に対する侵襲の危険性の両面から,十分に検討する必要がある.そして,全身麻酔を用いることが,患児の精神的,身体的負担を軽減し,歯科治療が無理なく,しかも安全に行いうる場合のみ実施するようにしなければならない.
今回, E 疼痛を主訴として歯科外来を受診した純型肺動脈閉鎖症を有する4歳4カ月の女児に全身麻酔を用いて歯科治療を行った.
全身麻酔にあたって,内服しているジゴキシンは術前24時間に投与を中止し,また,抜歯処置を予定していたため,術後の細菌性心内膜炎の発症を予防する目的で,術24時間前よりペニシリン系坑生物質の投与を行った.手術室に入室後は各種モニターを装置し,特にパルスオキシメーターにより,低酸素状態を慎重に監視して全身麻酔を行った.麻酔はケタミン, セルシンを用いたN . L . A . 変法によって行った.術中, 循環系, その他に異常なく1時間15分で歯科治療を終了した.麻酔時間は1時間45分であった.
麻酔終了後はしばらくの間,酸素テントを使用したが,呼吸,循環系に著変はなく,術後の経過も良好で術翌日に無事退院した.
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