前報において, 東北地区農山村地域(東目屋・北津軽・松尾・宮守・中川の5地区)の小学校学童(1〜6年生)1,888名についての永久歯う蝕罹患状況(1976年検診)を報告した。今回, 同資料にもとづいて, 歯種別および歯群別についての萌出歯率, DMF歯率および処置歯率の分析結果を考察した。5地区のうち, 北津軽はフッ素地区(天然フッ素含有飲料水地区)であり, フッ素濃度は0.3〜3.2ppmの範囲にある。他の4地区は0.1ppm以下の飲料水地区である。
萌出歯率については, 1年生時の新学期(5〜6月)において, 第1大臼歯は上顎が61.0%, 下顎: 83.5 %, 中切歯は上顎:34.6%, 下顎: 77.2%, 側切歯は上顎7.1%, 下顎: 35.3%であり, その他の歯種は1%以下であった。上顎切歯群の萌出状況は3年生時で中切歯: 99.4%, 側切歯: 71.9%, 5年生時でほぼ100%に達する。歯種別および歯群別のDMF歯率で特異的なことは, この上顎切歯群罹患であり, 2年生時で中切歯: 2.0%, 側切歯: 2.4%であるが, 4〜5年生時から急激な上昇を示して, 6年生時には中切歯: 23 .2%, 側切歯:26.2%に達する。
従来, 大臼歯群の保護にのみ重点がおかれたきらいがあるが, 著老らは, むしろ学童期における上顎切歯群の異常な高罹患状況を指摘したい。それは処置歯率の分析結果から考察されるように, 上顎中切歯の保存修復を学童期に行なうことは適切でなく, この歯群こそ Cariesfree (う蝕ゼロ) として保護することが容易に可能であり, う蝕の断面観察分析の資料から緊急のう蝕予防の焦点が上顎切歯群であることを強調する。
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