特定の料理・食品に対する嗜好が食生活の総合的背景を反映するという仮説に基づき, 食嗜好傾向と健康に関する身体的指標との関係を明らかにする目的で, 我々は半日人間ドックを受診した中年男女517人を対象に, “好き・嫌い”が著しい特殊な料理・食品17品目に対する嗜好傾向と検査成績との関係を検討し, 次の結果を得た。
1) 質問に挙げた料理・食品中で, 男性・女性ともに好きと答えた料理・食品は, さしみ・うなぎの
蒲焼
き・とろろ汁であった。
2) 男性は, 生がき・キムチ・レバーなどくせや刺激の強い傾向のある動物性の料理・食品を好む傾向がみられた。
3) 女性は, 山菜の煮物・白和えなど食物繊維を多く含む植物性の料理・食品を好む傾向がみられた。
4) 男性のほうが女性に比べ検査成績と嗜好傾向との関係が顕著であった。
5) さしみ・たこの酢の物・白和え及び生がきを好む食生活には飲酒傾向が関係しており, 直接的にはアルコールの摂取習慣が検査成績に反映された可能性が推察された。特に生がき嗜好にその傾向が顕著であった。
6) アルコールや年齢による影響を除いても, (1) 血清トリグリセリド値・尿酸値・最小血圧値におけるうなぎの
蒲焼
き嗜好, (2) 血清総コレステロール値・尿酸値におけるなまこ嗜好, (3) 血清トリグリセリド値におけるとろろ汁嗜好, (4) 血清総コレステロール値におけるレバー嗜好については,“好き”と答えた者の平均値が“嫌い”と答えた者の平均値よりも高く, 有意の差が認められた。中でもうなぎの
蒲焼
き嗜好及びなまこ嗜好にその傾向が顕著であった。
以上により, 今回検討の対象となった少なくとも一部の料理・食品に対する嗜好傾向は,恐らくその背景となる食生活習慣の反映として, 成人病の危険因子レベルと関連をもつものと考えた。
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