真核生物の光合成器官である葉緑体の誕生は、光合成細菌を起源とする共生説により説明される。元来、光合成細菌ゲノムにコードされていた遺伝子の多くは進化の過程において核ゲノムへと移行したとされている。従って葉緑体機能は核ゲノムにより支配されていると言える。その一方で、核および葉緑体ゲノムにおける協調的な遺伝子発現制御や環境変化に対応するために、葉緑体もシグナル (plastid signal) を送り核遺伝子の発現を調節していることが知られている。
葉緑体タンパク質透過装置であるToc159タンパク質が欠失した変異体 (
ppi2変異体) では、核遺伝子発現の変化が観察されている。すなわち、タンパク質輸送の欠損により葉緑体での代謝状態が変化し、何らかのシグナルが核に送られていると予想される。そこで、
ppi2におけるタンパク質蓄積と遺伝子発現の変化を詳細に解析した。その結果、
ppi2では光合成および光誘導性タンパク質の蓄積が特異的に減少し、さらにそれらをコードする核遺伝子の発現も低下していた。これに対して、フラボノイド合成系遺伝子は
ppi2において発現が上昇していた。また、非光合成遺伝子の多くは影響を受けていなかった。以上のことから、
ppi2では核にコードされている光合成遺伝子の発現を制御するplastid signalが特異的に活性化あるいは不活化していることが考えられた。現在、それらのシグナル伝達に関与する因子の探索を行っており、あわせて報告する。
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