リハビリテーションの技術は進歩しているが,リハビリテーションに使うことができる用具は限られている。例えば歩行練習に必須の機器としては平行棒,座位保持や立ち上がり,座りなどの練習ではプラットフォームなど,以前から使用されている用具が長年使用されている。ロボットなどの最新のリハビリテーション機器を導入している病院も増えてきてるが,高価であるため多くの病院で使用されるには時間を要する。
私はバイオメカニクス,人間工学の専門家として約17年間理学療法士の教育に携わってきた。社会人大学院生やセミナーや学会等で知り合った理学療法士の方々から臨床で必要とされる機器について多くのヒントを得ることができた。まず着目したのは「体幹」に対してアプローチをする機器の開発であった。理学療法士の多くが体幹へのアプローチの重要性を認識しているものの,より効率的,効果的にアプローチする機器は存在していなかった。Trunk Solution®(以下TS)は胸部に継手による抗力を与えつつ,機械的に骨盤を前傾させることで良姿勢を保持しつつ,腹部のインナーマッスルを賦活化させることを目的とした新しい装着型機器である。学術論文にて装着による効果のエビデンスが報告されている。超音波画像診断装置による評価により,装着することで腹横筋の筋厚が増加することがわかっている。また,三次元動作分析装置による評価から,高齢者の腹筋によるモーメントを増加させつつ背筋によるモーメントを軽減することができることや脳卒中片麻痺者等の歩行パフォーマンスを改善させる効果があることが示されている。価格もロボットに比べると安価であることから,多くの回復期リハビリテーション病院,整形クリニック,デイサービス,デイケアなどで導入され,学会発表等での報告も増えている。
また,理学療法士が常備している測定機器はストップウォッチとゴニオメーター等の簡便な機器が多く,視診に頼らざるを得ないケースが多い現状である。モーションキャプチャーや筋電計など高価な評価機器を備えている病院もあるが,費用対効果の面からすべての病院に普及させるというのは非常にハードルが高い。そこで,大手企業の協力を得て高精度かつ安価で計測が可能な筋電センサーのTS-MYOの開発を試みた。TSMYOはiPadやiPhoneなど
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以上がインストールされている端末であれば,制限なく使用することができる画期的な機器である。他の筋電計と比べると安価であり,病院の消耗品として購入できる価格に抑えられている。アプリケーションについては無料で配布されている。2チャンネルまでしかつながらないという制限はあるものの,サンプリング周波数は1000Hzであり,フィルタリング処理やRMS等の解析を行うことができる。演者らはTSを理学療法士の第三の手の役割を果たす機器として,TS-MYOを筋活動の見える化を助ける第三の眼となる機器として普及を進め,本邦のリハビリテーションに変革をもたらし海外に発信していくことを目指している。
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