抄録
火星マントルの化学進化の解明には、火星マントルの溶融液を起源とするシャーゴッタイト隕石を用いた地球化学的研究が最も有効である。本研究では、火星隕石Tissintに5段階の酸処理を行うことによって、5つの抽出液(L1-5)と残留物を得た。それらの初生Pb同位体組成に関し、火成作用後期に晶出するリン酸塩鉱物を多く含む抽出液(L3)が、初期に晶出するカンラン石・輝石からなる残留物と比較して多くの放射性鉛成分を含むことが明らかとなった。このことは、火成作用の後期に地球化学的に富む特徴を持つ火星地殻成分が混入したことを示す。以上から、枯渇した地球化学的特徴を持つTissint隕石でさえ、地殻同化作用を経験していることが明らかとなり、シャーゴッタイトを用いた火星マントルの議論を行う際には、本研究で用いたような段階的酸処理法により、純粋な火星マントル成分を抽出することが必要不可欠であると言える。