醤油の塩味増強効果を利用した減塩パンの開発を最終目標に検討を行った.官能評価における塩味を指標とした予備試験により,うすくち醤油を6 %添加することによりパン生地への食塩量を通常の食塩添加量2 %から1.4 %(醤油由来食塩0.75 %, 食塩0.65 %)に低減(30 %減)できることが明らかになった.次に,製パンへの影響を検証するため,通常食塩添加濃度(2 %)の対照(C),食塩添加濃度(1.4 %)を減塩した区(L),醤油6 %添加で食塩添加濃度(1.4 %)を減塩した区(S1.4),S1.4の生地を最適短時間焼成した区(S1.4 S)の4種の生地からパンを製造し,詳細な生地の製パン性とパン品質の評価を行った.
その結果,S1.4とS1.4 Sの生地のGPは発酵3時間でCとLに比べ高くなったが,そのGRDは有意に低く,また,SLVは低い値(S1.4 Sでは有意)を示した.S1.4とS1.4 Sのパンのボリュームとその外観の色相はCとLに比べそれぞれ小さく,劣っていた.しかし,S1.4 Sの外観の色相はCにかなり近い値を示した.また,クラムの色相もCとLに比べS1.4とS1.4 Sでは有意に劣っていた.その主な理由は,醤油の添加に伴いパンのクラムが薄い褐色を示したためであった.S1.4とS1.4 Sのパンは,CとLに比べ速い老化と低い凝集性を示した.しかし,S1.4 Sのパンは,他のパンに比べ高い水分含量を示し,S1.4に比べその老化はかなり抑制された.4種のパン間で各種糖類含量に大きな差異はなかったが,CとLに比べS1.4とS1.4 Sでは,その総遊離アミノ酸含量は有意に非常に高い値を示した.また,食品塩分計による食塩濃度の測定結果から,Cと比べその他の3種のパンの食塩濃度は添加食塩量と一致する約70 %の値を示した.4種のパンの官能評価から,S1.4とS1.4 Sのパンは,Cに比べ総合的外観,クラム評価はやや劣るが,S1.4 Sでは外観の色相とクラムの形状と色相がかなり改善された.塩味はCと同等の評価であり,旨みは有意に高い値であった.これらの結果から,パンの減塩のため食塩の代替として適当量の醤油を添加し,超強力粉を用いて製パン性を向上させ,主にクラストの色相を改善するために最適短時間焼成で製パンを行うことによって,パンの品質を大きく低下させることなく,減塩パンを開発することが可能であることが示唆された.