2022 年 69 巻 10 号 p. 481-489
野生動物肉の調理における無機元素濃度変化のデータの取得, および無機元素と放射性セシウムの挙動の比較を目的として, 放射性セシウムを分析した後のニホンジカ肉とイノシシ肉の調理試験試料を使ってK等無機元素を定量した. 回収率の多くが0.90-1.10の範囲となったK, Na, MgおよびPでは, 焼き調理後の肉の残存割合Frの平均はそれぞれ0.8, 0.9, 0.9, 0.9, ゆで調理は0.6, 0.6, 0.7, 0.7, 蒸し調理は0.5, 0.5, 0.7, 0.7で, いずれの調理法においても, これら4元素は調理によって減少し, 焼き調理より水を使用するゆで調理と蒸し調理のほうがより減少した. K, Na, MgおよびPの焼き調理における加工係数Pfの平均は, 1.2, 1.2, 1.2, 1.2, ゆで調理は0.8, 0.8, 1.0, 1.0, 蒸し調理は 0.8, 0.8, 1.1, 1.1で, 焼き調理ではすべて調理後の肉の濃度が高くなり, 加工係数Pfは1より大きくなった. 放射性セシウムの残存割合Frおよび加工係数Pfとの比較から, 放射性セシウムとKは調理による挙動が類似しており, 本報告の結果からも, 放射性セシウムデータがない場合の肉類の調理における放射性セシウムの除去率や残存割合Frなどを求める際の代替として, Kのデータの利用が可能と判断された.