2018 年 18 巻 10 号 p. 491-498
歴史資料を修復する際にもっとも心がけなければならないことは,手を加えすぎず必要最小限の処置にとどめるということである。なるべく見た目が変わらないように現状維持するのが,日本を含めた世界の文化財修復の基本方針である。年代を経た資料を現代の我々が今にある材料を使って修復する際に,伝統的な技法をできるだけ引き継ぎながら,作業効率をよくするために便利な道具や新しい技術を組み合わせることを積極的に検討するのは望ましいことである。ただし,新しい材料や薬品を使用する際には,長期的な視野で,資料に悪い影響を与えないものかどうかを慎重に判断しなければならない。また,修復技法の選択肢が増えた場合に,どの資料をどのような技法で修復するか,判断の基準を明確にする必要がある。修復が完了すると,修復記録は重要な財産となり,後世に引き継がれる大切な資料の履歴となる。