2019 年 19 巻 3 号 p. 109-116
核磁気共鳴(NMR)法とは,静磁場中におかれた試料にラジオ波を照射し,観測されるNMR信号を解析することで,試料に含まれる成分の化学構造や運動状態などを調べる手法である。メタボロミクス(成分の一斉分析)で得られるNMRスペクトルには試料から抽出された多成分の複合的な情報が含まれ,多彩な試料の特性が表現される。また,NMRイメージング(磁気共鳴画像法,MRI)では,磁場強度に勾配をかけることによってNMR信号に位置の情報を与え,試料内部の情報,つまり形態や水分子の分布と運動性などを画像化することができる。筆者らのグループでは,こうしたNMRデータを活用し,農産物・食品試料の成分や品質の特性を捉えようと試みている。
本稿では,NMRメタボロミクスによる農作物の解析およびMRIによる食品の解析例を紹介し,当該分野の動向や将来展望について議論する。