2022 年 22 巻 5 号 p. 211-217
アップコンバージョン(UC)蛍光材料の研究は,UC蛍光を示す材料の登場とその合成プロセスの開発に密接にかかわっているほか,近年注目される近赤外光を励起光とするバイオフォトニクス開拓のきっかけとなっている。蛍光体の設計の基本は,与えられた励起エネルギーを,いかに熱に変えずに光として放出するかということに尽きる。UC蛍光材料からバイオフォトニクスへの展開にはフッ化物ナノ粒子の合成方法の確立が大きな影響を及ぼしており,ひとたび安定したナノ粒子の合成方法が確立すると,これを用いた有機無機複合体の設計,合成とバイオフォトニクス応用が盛んになる。この際に重要な指針は再び,いかに熱を出さないか,ということである。そこにはこれまで議論されてこなかった有機分子がセラミックスナノ粒子中の希土類イオンの熱失活に及ぼす影響の考察が不可欠であった。本稿ではこれら一連のUC蛍光材料の研究に端を発するバイオフォトニクスへの展開を紹介するとともに,有機分子系が無機ナノ粒子中の希土類イオンに与える影響の考え方を示す。