三重項―三重項消滅機構によるフォトン・アップコンバージョン(TTA-UC)は,太陽光を高度活用するための方法論として期待されている。TTA-UCは歴史的に有機溶媒中における分子の拡散・衝突を利用してきたが,筆者らはTTA-UCと分子組織化の概念を融合し,エネルギーマイグレーション型TTA-UCの化学を拓いてきた。本稿では,溶液系の分子組織体から固体材料化にむけた研究展開について述べる。
重希土類ドープアップコンバージョン蛍光体は980 nm付近の近赤外光を照射することで多光子多段階励起を引き起こし,励起光よりもエネルギーの高い青緑赤の可視光を発光することができる材料である。980nmの近赤外光の吸収にはYb3+が用いられ,そのエネルギーは発光を担うHo3+,Er3+,Tm3+へ と移動する。一般にf電子の励起状態は寿命が長く,発光を担うイオンはYb3+から再度のエネルギー移動 によって再び励起される。このプロセスにより多光子多段階励起した発光イオン中のf電子が輻射緩和することで,励起光よりもエネルギーの大きい可視光を発光する。極めて特殊な発光現象であることから,セキュ リティインキなどとして利用されている。励起に用いられる赤外線の生体透過性が高いことからバイオイメージングへの応用が研究され,太陽電池と組合せて発電に利用できない赤外線を可視光に変換することによる発電効率の向上が期待されている。
アップコンバージョン(UC)蛍光材料の研究は,UC蛍光を示す材料の登場とその合成プロセスの開発に密接にかかわっているほか,近年注目される近赤外光を励起光とするバイオフォトニクス開拓のきっかけとなっている。蛍光体の設計の基本は,与えられた励起エネルギーを,いかに熱に変えずに光として放出するかということに尽きる。UC蛍光材料からバイオフォトニクスへの展開にはフッ化物ナノ粒子の合成方法の確立が大きな影響を及ぼしており,ひとたび安定したナノ粒子の合成方法が確立すると,これを用いた有機無機複合体の設計,合成とバイオフォトニクス応用が盛んになる。この際に重要な指針は再び,いかに熱を出さないか,ということである。そこにはこれまで議論されてこなかった有機分子がセラミックスナノ粒子中の希土類イオンの熱失活に及ぼす影響の考察が不可欠であった。本稿ではこれら一連のUC蛍光材料の研究に端を発するバイオフォトニクスへの展開を紹介するとともに,有機分子系が無機ナノ粒子中の希土類イオンに与える影響の考え方を示す。
Aerosol OT(以下,AOTという)と助界面活性剤と鉱物油の混合系における水の可溶化を検討した。可溶化水の状態を簡便かつ有効に評価する方法として濁度法が有用であった。鉱物油には炭素数10~12の長鎖炭化水素が適していた。長鎖炭化水素は逆ミセルの単分子層に浸透し難いために,単分子層の実効体積が増加せず,ミセルサイズは維持されると考えられる。また,助界面活性剤にはソルビタントリオレエート(以下,Span 85という)とソルビタンモノラウレート(以下,Span 20という)が適しており,両者では可溶化水量を増やす機構が異なると考えられた。Span 85はAOT分子の親油基に作用して逆ミセルの単分子層を厚くして鉱物油の浸透を抑えることによって,他方,Span 20はAOT分子と混合ミセルを形成してAOT分子の親水基間の静電的相互作用を弱めることによって,逆ミセルを大きく,かつ,安定化していると考えられる。