抄録
食品中あるいは生体中での脂質は水と共存することが多いため, 水系での脂質酸化に関する研究は, 食品および生体での脂質過酸化と抗酸化を知る上で重要である。そこで, 代表的な高度不飽和脂肪酸の水系での酸化安定性について比較検討したところ, バルク系や有機溶媒中とは異なることが明らかになった。ミセルでは, 高度不飽和脂肪酸の酸化安定性は不飽和度の増大に伴い向上した。この結果はバルク系や有機溶媒中のそれとはまったく逆であった。また, エマルション中でも条件によってはミセル中と同様の傾向を示すことも分かった。高度不飽和脂肪酸が水系で示した特徴ある酸化安定性については, NMR解析などによりその理由が明らかにされた。NMRでの各不飽和脂肪酸プロトンの緩和時問の比較より, 不飽和度の高いものほど, 二重結合部分を含む疎水性部分の運動性が高くなり, これにより水分子が二重結合のごく近傍に存在しやすくなることが分かった。酸化反応は二重結合にはさまれたビスアリル位からの水素の引き抜きにより開始される。不飽和度が高くなると水分子によるこうした立体障害がより起こりやすくなるため, 不飽和度の高い脂肪酸の方が, ミセル中では酸化安定性がより高くなったものと考えられた。また, 各高度不飽和脂肪酸の立体構造や運動性は, リボソームや培養細胞膜脂質のこれら脂肪酸の酸化にも大きく影響を及ぼし, これらの系では, リノール酸, アラキドン酸, ドコサヘキサンエン酸の酸化安定性に大きな差は見られなかった。