天然の脂質分子種組成に関する研究では, まず天然脂質のTG分子種分析について逆相系カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー (HPLC) で行い, その分離がTGのアシル基の総炭素数と二重結合数に起因するパーティションナンバー (PN) によることを明らかにした。この概念において, 現在, HPLCはその各種検出器と定量性の関連についての検討が加わり, 脂質のTG分子種分析を始め, ジグリセリドおよびリン脂質の分析などで常用されている。PNは世界の共通語として使用され, HPLC-質量分析 (LC-MS) などの脂質機器分析への応用展開に活用され, 脂質の機能性を詳細に知る上での必須分析事項となっている。さらに, 生理機能を有するイコサペンタエン酸 (EPA) やドコサヘキサエン酸 (DHA) の劣化は食品中で容易に起こることから, その分析の精度および迅速性が重要である。HPLCに加えて, 核磁気共鳴 (NMR) 法により, n-6系脂肪酸とn-3系脂肪酸の存在比率およびTG内のEPAとDHAの結合位置を容易に分析する方法を確立し, これを日本油化学会 (JOCS) 油脂基準分析法として公定化した。ところで, 脂質分子種組成の概念は, とくに生理活性機能を発揮するTGのβ位にDHAや特定脂肪酸を結合させるなど, いわゆる脂質栄養学における「構造脂質」の根幹になっている。魚油に多存するEPAやDHAは, 生活習慣病予防の観点から, 現在大きな注目を浴びているが, 食品としての利用では酸化劣化が難点になっている。そこで, 天然脂質の機能性と食品脂質の劣化保全に関する研究では, 天然抗酸化性物質, とくに, ローズマリーとトコフェロールの併用混合系では, 魚油に対する抗酸化相乗作用を実証した。天然脂質の季節変動や脂質成分の機能性などについて, TG分子種分析を基盤とした多岐にわたる総合的研究により, 各種魚類脂質の組成および蓄積性の特性や推移を明らかにし, 基礎的および応用的諸問題の多くの解明をはかり, 脂質の機能性保全の進展に寄与した。
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