オレオサイエンス
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6 巻, 12 号
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学会賞受賞論文
  • 宮下 和夫
    2006 年6 巻12 号 p. 585-591
    発行日: 2006/12/01
    公開日: 2013/06/01
    ジャーナル フリー
    食品中あるいは生体中での脂質は水と共存することが多いため, 水系での脂質酸化に関する研究は, 食品および生体での脂質過酸化と抗酸化を知る上で重要である。そこで, 代表的な高度不飽和脂肪酸の水系での酸化安定性について比較検討したところ, バルク系や有機溶媒中とは異なることが明らかになった。ミセルでは, 高度不飽和脂肪酸の酸化安定性は不飽和度の増大に伴い向上した。この結果はバルク系や有機溶媒中のそれとはまったく逆であった。また, エマルション中でも条件によってはミセル中と同様の傾向を示すことも分かった。高度不飽和脂肪酸が水系で示した特徴ある酸化安定性については, NMR解析などによりその理由が明らかにされた。NMRでの各不飽和脂肪酸プロトンの緩和時問の比較より, 不飽和度の高いものほど, 二重結合部分を含む疎水性部分の運動性が高くなり, これにより水分子が二重結合のごく近傍に存在しやすくなることが分かった。酸化反応は二重結合にはさまれたビスアリル位からの水素の引き抜きにより開始される。不飽和度が高くなると水分子によるこうした立体障害がより起こりやすくなるため, 不飽和度の高い脂肪酸の方が, ミセル中では酸化安定性がより高くなったものと考えられた。また, 各高度不飽和脂肪酸の立体構造や運動性は, リボソームや培養細胞膜脂質のこれら脂肪酸の酸化にも大きく影響を及ぼし, これらの系では, リノール酸, アラキドン酸, ドコサヘキサンエン酸の酸化安定性に大きな差は見られなかった。
  • HPLCによる魚油TG分子種分析を中心として
    和田 俊
    2006 年6 巻12 号 p. 593-605
    発行日: 2006/12/01
    公開日: 2013/06/01
    ジャーナル フリー
    天然の脂質分子種組成に関する研究では, まず天然脂質のTG分子種分析について逆相系カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー (HPLC) で行い, その分離がTGのアシル基の総炭素数と二重結合数に起因するパーティションナンバー (PN) によることを明らかにした。この概念において, 現在, HPLCはその各種検出器と定量性の関連についての検討が加わり, 脂質のTG分子種分析を始め, ジグリセリドおよびリン脂質の分析などで常用されている。PNは世界の共通語として使用され, HPLC-質量分析 (LC-MS) などの脂質機器分析への応用展開に活用され, 脂質の機能性を詳細に知る上での必須分析事項となっている。さらに, 生理機能を有するイコサペンタエン酸 (EPA) やドコサヘキサエン酸 (DHA) の劣化は食品中で容易に起こることから, その分析の精度および迅速性が重要である。HPLCに加えて, 核磁気共鳴 (NMR) 法により, n-6系脂肪酸とn-3系脂肪酸の存在比率およびTG内のEPAとDHAの結合位置を容易に分析する方法を確立し, これを日本油化学会 (JOCS) 油脂基準分析法として公定化した。ところで, 脂質分子種組成の概念は, とくに生理活性機能を発揮するTGのβ位にDHAや特定脂肪酸を結合させるなど, いわゆる脂質栄養学における「構造脂質」の根幹になっている。魚油に多存するEPAやDHAは, 生活習慣病予防の観点から, 現在大きな注目を浴びているが, 食品としての利用では酸化劣化が難点になっている。そこで, 天然脂質の機能性と食品脂質の劣化保全に関する研究では, 天然抗酸化性物質, とくに, ローズマリーとトコフェロールの併用混合系では, 魚油に対する抗酸化相乗作用を実証した。天然脂質の季節変動や脂質成分の機能性などについて, TG分子種分析を基盤とした多岐にわたる総合的研究により, 各種魚類脂質の組成および蓄積性の特性や推移を明らかにし, 基礎的および応用的諸問題の多くの解明をはかり, 脂質の機能性保全の進展に寄与した。
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