伊豆沼・内沼研究報告
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12 巻
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
  • 速水 裕樹, 藤本 泰文
    2018 年 12 巻 p. 1-8
    発行日: 2018/10/24
    公開日: 2018/10/24
    ジャーナル フリー

    伊豆沼・内沼に分布する主要な抽水植物の現存量を評価するため,その被度(C)と自然高(H)を乗じた乗算優占度を用いて地上部現存量を推定する方法を検討した.湖岸や隣接水域において純群落を形成していたアシカキ,ショウブ,ヒメガマ,マコモを対象に,単位面積中の被度と自然高を測定し乗算優占度を算出した.また,計測後に調査区内の株について,地上部を刈取り,乾燥重量を測定した.測定結果から得られた乗算優占度を説明変数,乾燥重量を目的変数とした回帰分析を行ったところ,修正済み決定係数は0.60から0.91であり,当てはまりは良好であった.現在,伊豆沼・内沼では失われた抽水植物帯の復元事業が実施されている.復元事業で植栽した植物の現存量を測定する際,今回作成した回帰式を用いれば,非破壊的に現存量の推定を行うことが可能である.

  • 上田 紘司, 芦澤 淳, 藤本 泰文
    2018 年 12 巻 p. 9-16
    発行日: 2018/10/24
    公開日: 2018/10/24
    ジャーナル フリー

    宮城県北部の伊豆沼・内沼およびその周辺水域において2014 年5 月~10 月にトンボ目の成虫の種組成および個体数の調査を行った.調査期間中に10 科35 種6,802 個体のトンボ目成虫が確認された.伊豆沼・内沼のトンボ類の種数と個体数は6 月から9 月に多く,7 月にピークを示した.優占種は,6 月から7 月にかけてはコフキトンボやセスジイトトンボ,8 月から10 月にかけては,ノシメトンボやアキアカネであった.また,出現頻度が高かった4 種(コフキトンボ,セスジイトトンボ,ノシメトンボ,アジアイトトンボ)が,確認総個体数の73.7%を占めた.一方,オオセスジイトトンボといった環境省レッドデータブック掲載種の個体数は減少しており,保全活動の重要性が改めて示された.

  • 高橋 佑亮, 藤本 泰文
    2018 年 12 巻 p. 17-25
    発行日: 2018/10/24
    公開日: 2018/10/24
    ジャーナル フリー

    宮城県北部に位置する伊豆沼・内沼では,自然再生事業などさまざまな環境保全活動が実施されている。その基礎資料となる水面の情報としては,1968 年や1981 年,2001 年に測量された国土地理院1/25,000 地形図が使われてきた。しかし,さまざまな要因で沼の変化が生じており,保全活動の有効性を評価するためにも,現況に則した情報が求められる。そこで本研究では,最新の航空写真(2007 年11 月撮影)を用いて,伊豆沼・内沼における精細な水面の作成と面積の算出を行った.その結果,水面面積は伊豆沼が357 ha,内沼119 ha,浄土川2 ha と算出された.作成した水面と,1981 年に測量された1/25,000 地形図の水面を重ねて差分を求めた結果,1981 年から2007 年の26 年間で,伊豆沼では10 %,内沼では13 %,水面が拡大したことが明らかになった.また,環境省1/50,000 植生図(1985 年度調査)と重ねて植生区分別に面積を集計した結果,水面が拡大した区域の88 %がヨシPhragmites australis やマコモZizania latifolia が優占するヨシクラスであり,これらの湖岸の湿性植物群落の消失によって水面の拡大が生じたことが明らかになった.

  • 萩原 富司, 田中 利勝, 鈴木 盛智, 古川 大恭, 森 晃
    2018 年 12 巻 p. 27-35
    発行日: 2018/10/24
    公開日: 2018/10/24
    ジャーナル フリー

    関東地方にはかつて利根川の氾濫原を中心に多くの河川・池沼が点在し,カラスガイ,イシガイ,ドブガイ類が生息していた.しかし近年,特にカラスガイの生息数の減少が顕著であり,各県のレッドリストにおいて,絶滅危惧種に指定されており,地域個体群の絶滅が危惧されている.2017 年3 月11 日に,渡良瀬遊水地内の水路においてカラスガイを採集した.カラスガイの殻長は180–300mm の範囲であり,同所的に生息するドブガイ類と異なり小型個体は見られなかった.カラスガイは新規加入がほとんどなく老齢個体だけが生き残っている状態と思われる.本種の分布や生息地に関する報告が非常に少ない現在,既報に記載された生息地の再確認を行うとともに,関東地方には過去に琵琶湖産二枚貝類の移植に伴ってカラスガイが持ち込まれた可能性もあるため,自然分布域の遺伝子を分析して地域ごとの遺伝子型を調べておくことが急がれる.

  • 久岡 知輝, 西野 大輝, 山田 智行, 奥井 啓介, 北野 大輔
    2018 年 12 巻 p. 37-44
    発行日: 2018/10/24
    公開日: 2018/10/24
    ジャーナル フリー

    河川改修などの人為的環境改変によって,河川の魚類相は変遷してきた.河川改修前の魚類の生息状況の把握を目的に,滋賀県彦根市の琵琶湖北湖に流入する野瀬川で2017 年4 月から11 月にかけて魚類相の調査を実施した.その結果,17 種の在来魚と1 種の外来魚が採集された.調査の後,野瀬川では河川改修工事が行われたため、この魚類相の記録は,2018 年の河川改修工事の直前における野瀬川の魚類相に関する貴重な知見となるだろう.

  • 長谷川 政智
    2018 年 12 巻 p. 45-51
    発行日: 2018/10/24
    公開日: 2018/10/24
    ジャーナル フリー

    要旨 ミヤケミズムシXenocorixa vittipennisは,本州,四国,九州に分布し,水生植物が豊富な池沼に高密度に生息するが産地は局所的とされている.また,環境省の準絶滅危惧に指定されているがその生活史についての報告は少なく,交尾や産卵行動についての報告はない.本稿では,宮城県の溜池で,繁殖と思われる行動を観察したので報告する.また,幼虫の成長過程を2015 年4 月から2018 年6 月にかけて観察したので報告する.

  • 畠 佐代子, 新野 聡, 富樫 悦夫, 上野山 雅子, 澤邊 久美子
    2018 年 12 巻 p. 53-62
    発行日: 2018/10/24
    公開日: 2018/10/24
    ジャーナル フリー

    宮城県仙台市若林区内において,カヤネズミMicromys minutusの新産地を3ヶ所発見した.新産地のうち,広瀬川左岸河川敷で発見された生息地は,国内における本種の分布の北限として知られる坪沼よりも北に位置しており,新たな北限となる.新産地の周辺は圃場整備や護岸工事が進み, それぞれの生息地が孤立した状態であると推察されることから,生息環境の早急な保全が求められる.

  • 石崎 大介, 淀 太我
    2018 年 12 巻 p. 63-71
    発行日: 2018/10/24
    公開日: 2018/10/24
    ジャーナル フリー

    感潮域に生息するニゴイ類が塩分環境を経験しているのかを明らかにするため,三重県宮川の感潮域で採捕したニゴイ類を用いて耳石微量元素分析を実施した.分析した成魚7 個体のうち1 個体は,耳石中心から縁辺部まで一貫して低い耳石Sr: Ca 比を示したことから,一生を淡水環境で生活したと考えられた.他の6 個体は,耳石中心から縁辺部までの間で耳石Sr: Ca 比が上昇し,変動したことから,塩分環境を経験したと考えられた.いずれの個体も,中心付近は低い耳石Sr: Ca比を示したことから,孵化後しばらく淡水域で生活した後,塩分のある水域に降下したものと推察される.また,縁辺部のみ高い耳石Sr: Ca比を示した個体,耳石中心から縁辺部までの中ほどで耳石Sr: Ca比が上昇し縁辺部まで高い値を維持した個体,1 度耳石Sr: Ca 比が上昇したが再び縁辺部では低い値を示した個体が存在した.このように耳石Sr: Ca 比の変動パターンは個体によって様々であったことから,個体によって塩分環境利用様式が異なることが推察されるほか,成魚も塩分のある水域で生活していると考えられた.本研究によりニゴイ類が塩分のある環境で生息することが明らかになった.

  • 三内 悠吾
    2018 年 12 巻 p. 73-78
    発行日: 2018/10/24
    公開日: 2018/10/24
    ジャーナル フリー

    ヒガシシマドジョウCobitis sp. BIWAE type C の生活史には未解明な部分が多く,産卵環境や仔魚・稚魚の育成環境についても同様である.著者は河川内の浅い水域において本種の卵を採集・確認したので報告する.

  • 藤本 泰文, 速水 裕樹
    2018 年 12 巻 p. 79-83
    発行日: 2018/10/24
    公開日: 2018/10/24
    ジャーナル フリー

    宮城県北部に位置する伊豆沼・内沼(38˚43’N,141˚07’E)で,2018 年7 月24 日にタナゴAcheilognathus melanogaster を捕獲した.2006 年以来12 年ぶりの再確認であった.タナゴは東日本の太平 洋側を分布域とする在来種で,宮城県では絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)に選定されており(宮城県環境生活部自然保護課 2016),それぞれの地域個体群の保全が重要となっている(Nagata et al. 2018).伊豆沼・内沼では防除活動によるオオクチバスの減少にともない,魚類相の回復が始まっており,今回の再確認は防除活動の成果の一つだと考えられることから,その状況について報告する.

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