日本森林学会大会発表データベース
第131回日本森林学会大会
選択された号の論文の872件中101~150を表示しています
学術講演集原稿
  • 髙橋 正義, 原山 尚徳, 佐々木 尚三, 山田 健, 天野 智将, 古家 直行, 長澤 俊光, 藤本 清彦, 山本 敏夫, 斎藤 丈寛
    セッションID: D21
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    初期成長に優れ、萌芽更新が可能なヤナギは、木質バイオマス生産に適した種とされ、欧米では、3年程度の成長と収穫を繰り返す施業が実用化されている。 森林総合研究所と北海道下川町は、2007年から協同研究協定等を締結し、ヤナギの栽培システムの確立、低コスト有効利用技術の開発を目的とした「木質バイオマス資源作物の生産促進技術の開発」を実施している。その一環として、下川町内で栽培したヤナギを農業機械や林業機械など既存の技術による収穫、運搬、チップ化の実証試験を行った。収穫に用いた機械は、ケーン(サトウキビ)ハーベスタとフェリングヘッド付きフォワーダ、運搬はダンプトラック、チップ化には3種のチップ化処理機械を用いた。実証実験の結果得られた作業時間や費用から、超短伐期ヤナギの新たな収穫・運搬手法とチップ化のコストについて実証的に試算した。先行研究等で試算されたコストと比較すると共に、収穫、運搬、チップ化工程の低コスト化に関する方策を検討したので、報告する。

  • 國崎 貴嗣
    セッションID: D22
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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     収量比数が1.0に達した過密なスギ若齢人工林を対象に、胸高帯のみかけの低下に及ぼす傾斜度と立木サイズの影響を調べた。林齢12年時の1997年、胸高帯を地上高1.20mにペンキで付し、数年おきに補修して現在まで維持した。林齢34年時の2019年9月、平均傾斜度が異なる4区域(4、17、22、26度)の計637本を対象に、胸高帯の地上高をメジャーポールにより1 cm単位で測定した。また、立木サイズの指標として、2018年10月の調査データから幹材積を計算した。胸高帯のみかけの低下量を応答変数、区域と2018年の幹材積を説明変数とする線形モデルで解析すると、交互作用を含めて説明変数の係数はすべて有意であった。また、AICによる総当たり法でモデル選択をすると、フルモデルが最良モデルであった。平均傾斜度が4度の区域では第3四分位数が0 cm、平均が0.4 cmであり、みかけの低下量は小さかった。一方、全体的な特徴として、平均傾斜度が急になるほど、幹材積が高いほど、みかけの低下量は大きかった。ゆえに、表層土壌の移動による根元の埋没だけでなく、自重による根元の沈み込みも生じていると推察される。

  • 江草 智弘, 熊谷 朝臣, 白石 則彦
    セッションID: D23
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    森林の炭素蓄積量を国家スケールで正確に推定することは、地球温暖化シナリオを予測し、CO2排出削減計画を策定する上で重要である。その目的のために最も確実な手法は、国家スケールの森林インベントリ調査によって得られた幹材積量を炭素蓄積量に換算することである。日本には2種類の森林インベントリ調査、すなわち(1)現在の野外観測(2)過去の野外観測から作られた収穫表による推定が存在している。ここで、現在の野外観測に基づく幹材積量とそれより計算された炭素蓄積量はより正確であると考えられるが、既存の学術的な研究や、森林資源の現況などの林野庁の統計資料には、収穫表より得られた幹材積量が使用されている。従って、我々は現在の野外観測から求められた幹材積量を用いて、正確な日本の森林の炭素蓄積量を算出することを目的にした。2009–2013の野外調査にもとづく日本の森林の炭素蓄積量は2716–3027 TgCであり、2012年の収穫表による1750 TgC を大きく上回った。両者の差は、過去に作られた収穫表が、現在の森林の実態を表現できていないためと考えられる。将来的には、日本の森林の高いCO2吸収能力を有効活用するために適切な森林管理計画が必要である。

  • 鷹尾 元, 八巻 一成, 宮沢 一正
    セッションID: D24
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    我が国では、森林の有する多面的機能のうち、物質生産機能のみが「木材等生産機能」と称され、その他の機能はまとめて「公益的機能」と総称されてきた。しかし、公益的機能の中には、保養や学習・教育など、社会一般に対してではなく来訪者に対してのみ林内での体験として発揮されるものが含まれている。これらは森林管理者が生産または整備し来訪者が消費する森林の無形の価値である。そこで、これらの無形の価値を「無形林産物」と呼び、物質生産機能による木材や特用林産物などの有形の生産物と同様に、林業の生産物として扱うことを提案する。「森林サービス産業」とは主に無形林産物を供給する林業の一形態と言える。無形林産物の供給を含む持続的森林管理のために、その背後にある森林の保健・レク機能や文化機能の理解と可視化、無形林産物生産・整備のための施業法、無形林産物と他の機能や地域の社会経済との調和を図る計画手法などが求められる。無形林産物も供給する林業は、山村振興・地域創生や、環境・社会に配慮した企業経営による、森林管理への関与を促進し、多面的機能を発揮する森林の整備保全に貢献すると期待される。

  • 鹿又 秀聡, 髙橋 正義
    セッションID: D25
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    平成31年4月に施行された森林経営管理制度では,「市町村を介して林業経営の意欲の低い森林所有者の経営を意欲と能力のある林業経営者につなぐことで林業経営の集積・集約化を図ること」を目的の1つとしている。その中、市町村が実施する林分集積業務には森林GISが重要な役割を果たすと想定される。ただし、情報の活用が求められている市町村における森林GISの導入状況や運用体制等については、全国を網羅的に報告した事例は殆どないことから、未知な点が多い。今回は、林野庁が実施してきた都道府県・市町村における森林GIS導入状況調査資料(平成27-29年度分)を分析したところ、平成30年3月現在、都道府県にはすべて森林GISが導入されているが、市町村には回答のあった1615市町村の65%(1056件)にとどまっていること、森林GISのクラウド化の影響もあり、今後2年間に461市町村が新規導入・更新の予定があること等が明らかとなった。森林学会では、1)地方行政機関の森林GIS導入状況、2)将来の導入予定、3)GISの種類・システム形態等について、分析を行った結果を報告する。

  • 真砂 陽太郎, 前田 佳子, 今井 靖晃, 林 勇次, 高主 知佳, 中村 幹広, 竹田 慎二
    セッションID: D26
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    令和元年度より森林環境譲与税が導入され,全国の市町村では,森林所有者への意向調査を始めとして様々な取り組みが進められている。こうした中,航空機LiDARにより森林資源量や路網整備のための地形データの解析を行う市町村の大半がスギやヒノキ等の針葉樹人工林の利用に着目した取り組みであり,国内森林の過半数を占める広葉樹に特化した取り組みは確認できない。他方,岐阜県飛騨市では,森林環境譲与税制度の開始に先駆け,同市の特色である広葉樹資源の豊かさに着目した森林資源調査(2016年度)が行われている。そこで本研究では,飛騨市の調査事例を踏まえつつ,航空機LiDARを用いた広葉樹資源量の解析に関する推定手法について検討を行うこととした。

     LiDARデータから材積を推定する場合、単木レベルで抽出して解析する場合と、エリアベースでLiDARデータ由来の統計量から推定する場合の2通りの方法がある。一般的に広葉樹林においてはエリアベースでの手法が有利であると言われているが,推定精度が単木レベルの手法に比べ低いという問題がある。そこで,LiDARデータから得られる,様々な統計量を利用し,飛騨市の広葉樹林に最も適した資源量推定手法を検討した。

  • 鶴崎 幸, 細田 和男
    セッションID: D27
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    【目的】福岡県では、主伐による県産材の供給力強化に取組んでいる。主伐する林地は、収益性向上のため地位が高い等、経営に有利な林地を選定する必要がある。現在、県で使用している林地生産力分布図(以降、Pm)は、1967年に1/5万地形図上で500m区画毎に判読された地形因子から、地位指数を間接推定したものである。一方、近年、LiDARにより樹高を広域で精密に計測することが可能となり、直接広域の地位指数を得られるようになった。本研究では、LiDARデータを用いてPmの精度を検証し、今後の森林管理に求められる林地生産力分布図を検討した。【方法】LiDARから得られた樹頂点データについて、森林計画図を用いてスギ林のみ抽出し、Pmと同一の500m区画毎に平均樹高を算出した。さらに森林簿の林齢データと併せて地位指数を算出した。この地位指数とPmの地位指数を比較するため、相関係数rを求めた。【結果】r=0.43(p<0.01)であり、Pmは地位指数の分布を捉えていた。一方、区画内部の標準偏差は1~5mに分布し、ばらつきが大きかった。ばらつきを小さくし精度の高い林地生産力分布図の作成には、より細密な区画を用いる必要がある。発表では最適区画サイズについても言及する。

  • 加藤 顕, 龍原 哲
    セッションID: D28
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    最新データで森林計画を効率良く行うために無人航空機(ドローン)を導入し、3次元データの取得が急速に進んでいる。森林の3次元データ取得が進んでもデータが蓄積するだけで、データの解析は十分に行われていない。本研究では、Google Earth EngineやArcGIS onlineをベースとした無料ウェブ解析ツールを開発した。ドローンで得られる3次元データは主に森林の表面形状(DSM)だけであり、樹木計測に必要な地盤高データ(DTM)が必要である。DTMの作成には無償公開している国土地理院の航空機データを利用して作成し、ドローンで得られるDSMのデータの差分から材積を推定するツールを作成した。その結果を利用し、ドローンデータだけから材積推定できるモデルを作成し、大面積林地を詳細に材積推定できる。3次元データを解析するツールを無料で提供することで、全国でデータ整備が進んでいない大規模林地の材積(現存量)を無料で推定できる。データ整備が遅れている地域で、ドローンによる3次元データを取得するだけで本研究の解析ツールにより材積を推定できる方法を紹介する。

  • 渡邉 仁志, 茂木 靖和
    セッションID: E1
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    コンテナ苗を通年植栽した場合,伸長成長が停滞する現象がしばしば報告されている。この原因としては,必要以上の期間をコンテナ内に据え置くことによる苗木品質の低下(比較苗高が高くなり徒長すること)が挙げられている。そこで本研究では,山出し時期から逆算して稚苗を移植することによって,各時期に適したヒノキ2年生コンテナ苗が育成できるかを検討した。育苗は,岐阜県富加町の灌水施設のある露地栽培施設で,2017年~2018年,2018年~2019年の2反復行った。各年4月(春:通常の方法),6~7月(夏),10月(秋)に1年生稚苗をマルチキャビティコンテナ(JFA-150)に移植して成長経過を調査し,約1年後に得苗率を算出した。その結果,どの時期に移植した苗木も成長や根鉢形成が認められ,想定した出荷時期に得苗可能な状態になった。特に,春移植の両回,夏移植の1年目および秋移植の2年目は得苗率が高かった。一方,夏移植の2年目と秋移植の1年目には枯死や成長不良が発生し,得苗率が非常に低くなった。露地栽培では環境条件の制御が困難なことから,苗木の成長や得苗率に気象条件(1年目冬季の寒冷や2年目夏季の高温寡雨)が影響したと考えられる。

  • 図子 光太郎
    セッションID: E2
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    近年,急速に導入が進んでいるコンテナ苗について,積雪に起因する各種被害の発生状況ならびにこうした被害が植栽木の初期成長に及ぼす影響を調査した。2014年11月に富山県内の3箇所にスギのコンテナ苗と裸苗を植栽した。その後2018年まで成長量および積雪による被害の発生状況について調査を行った。樹高成長率を苗種別に比較すると,2015年と2016年は裸苗の成長率がコンテナ苗を上回り,2017年には有意な差が認められず,2018年にはコンテナ苗の成長率が裸苗を上回った。積雪による植栽木の倒伏角度を測定したところ,2015~2017年にかけてコンテナ苗の倒伏角度が裸苗よりも大きくなる傾向があり,2018年には有意な差は認められなかった。苗種や倒伏角度が樹高成長に及ぼす影響を明らかにするため,樹高成長率を目的変数とし,苗種および倒伏角度を説明変数とする一般化線形混合モデルを用いて解析を行った。その結果,コンテナ苗は裸苗より生長が良いとする効果が認められ,倒伏角度は成長に対し負の効果を示した。多雪地帯では,コンテナ苗は裸苗よりも積雪による倒伏被害を受けやすく,これにより生育が抑制され,結果的に裸苗よりも成長面で劣ることが示された。

  • 野宮 治人, 永井 純一
    セッションID: E3
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    主伐再造林の動きが活発な九州地域では下刈の作業量が年々増加しており下刈作業の省力化が求められている。下刈省略にはシカ被害を軽減する効果が期待される一方で植栽木の被圧や下刈再開時の誤伐が問題となる。そのため、熊本県人吉市の西浦国有林の低コストモデル実証団地において、刈払いの高さを50~80cm程度にした高下刈を3年間実施して作業効率などを調査した。2017年2月にスギ(平均苗高60cm)1200本を植栽して毎夏1回下刈を実施した。普通下刈および高下刈実施後の平均植生高は、スギの周囲半径1mで最大高を測定してそれぞれ35~47cmと54~69cmであった。高下刈の作業効率(ha/hr)は普通下刈に比べて1.15~1.82倍であった。再生植生の発達とともに作業効率そのものは毎年低下する傾向にあった。高下刈では誤伐による損傷も普通下刈に比べて軽い傾向にあった。翌年の下刈直前の植生高は高下刈区と普通下刈区で有意差は無かった。高下刈区と無下刈区での植栽1年目のシカ被害は普通下刈区に比べて半分程度であった。高下刈による作業の効率化(省力化)は期待できそうであるが実施例が少ないので、異なる条件下での試験実施や作業性について検討が必要である。

  • 陶山 大志, 松永 拓海, 山中 啓介, 千原 敬也
    セッションID: E4
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    苗木に目印となるテープを巻き付けて植栽木の視認性を高めることによって、下刈り時の作業時間の短縮と誤伐防止に効果があるか検討した。2019年3月、浜田市内の伐採跡地において、テープ区と対照区のプロット(10m×25m)を設置した。両プロットは地形と植生がほぼ同一となるように配置した。同年6月上旬,スギ1年生コンテナ苗を1500本/haの密度で、各区とも40本植栽した。テープはピンク色の生分解性樹脂で幅3cm、長さ40cmにカットしたものを植栽前に巻き付けた。9月下旬、下刈り経験9年の作業者に依頼し下刈りを行った。下刈り時にはササが旺盛に繁茂しており、植栽木はこれら草本類に完全に被覆されていた。下刈り作業をビデオカメラで撮影し、両区の作業時間を計測した。下刈り後に、両区の誤伐本数をカウントし、誤伐木の誤伐高を計測した。

     調査の結果、対照区では45分を要したのに対し、テープ区では37分であり、17%短縮された。誤伐本数は対照区では13本と多かったのに対し、テープ区で4本と少なく、有意な差が認められた。苗木へのテーピングは、植栽木の視認性を高め、下刈り時間を短縮し、誤伐防止に効果があることが確認された。

  • 大塚 次郎, 鵜川 信, 森山 央陽, 後藤 誠也, 栗田 学, 久保田 正裕, 近藤 禎二, 生方 正俊
    セッションID: E5
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    【目的】新たな早生造林樹種として期待が高まっているコウヨウザンは、主に西日本地域で試験的な植栽が進められているがその多くで野兎害が報告されている。このため、コウヨウザンの野兎害対策手法について複数の方法の試験を実施して検討を行った。【方法】鹿児島県霧島市のコウヨウザン野兎被害が多発している国有林において、2018年4月に新たにコウヨウザンを植栽し、3種類の忌避剤散布後の被害状況を調査した。また2019年5月に同じ試験地及び熊本県玉東町の熊本県有林内において、忌避剤、ネットによる単木保護、生分解性不織布で苗木を被覆したのちに忌避剤を散布する方法での試験を行い、その後の被害状況を調査した。【結果】3種類のいずれの忌避剤散布1ヶ月後では野兎被害は見られなかったが、3ヶ月後には多くの植栽で被害が生じ、半年後にはほぼ全ての植栽木で被害が発生した。ネットによる単木保護は設置に時間がかかり、被害の発生は防げたが生育阻害を生じる場合が多く見られた。生分解性不織布と忌避剤の組合せはネットよりも容易に設置ができ、半年後でも主幹の被害が生じなかった植栽木も複数見られ、被害の軽減効果が期待できた。

  • 孫 鵬程, 柴田 昌三
    セッションID: E6
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    本研究は,鹿児島県の管理モウソウチク林の生産と林分構造の現状を明らかにすることを目的とした。姶良市とさつま町に位置する2箇所の管理モウソウチク林における林分調査,竹林管理者に対する聞き取り調査を行った。その結果,管理者の高齢化に伴い竹林での重労働が困難になっている一方で,林分調査の結果(平均稈密度3,916.7本/ha,平均胸高直径12㎝,新竹率30.55%,稈の一様分布)と竹林施業の現状から,対象竹林における管理は現在も維持されていることが推察された。一方で,国内需要の低迷,管理者高齢化の進展などの影響から,竹材・タケノコの生産量は10年前と比べて顕著に低減している。このことは調査林分における稈密度が過去より著しく増加したことと一致していると考えられた。今後,竹林の林分維持また委託管理など新たな管理主体により管理し続ける場合,今まで集積されてきた竹林管理技術,竹林動態などを有用な参考情報として整理・記録する必要があると考えられる。また,竹林作業の持続化と省力化を検討する際,作業がしやすい低密度かつ一様分布という林分特徴を示す管理竹林を対象とした林業機械の開発と導入が有効であると考えられた。

  • 松下 通也, 平岡 裕一郎, 田中 一成, 小野田 雄介
    セッションID: E7
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    日本の代表的造林樹種であるスギは、その形質においても系統間で変異が存在することが知られており、育種的観点では樹高や直径、材積など主に成長の良し悪しの違いが評価されてきた。その一方で、植栽個体の混み合い度の増加に伴う個体間競争等の環境的ヘテロ性に対する成長応答性の系統間差は十分に明らかにされていない。そこで、スギ精英樹の挿し木クローンを植栽した競争試験地における樹高および直径の追跡調査データをもとに、個体間競争や樹齢に伴う成長応答性の違いを明らかにすることを目的として本研究を実施した。その結果、個体周辺の混合い度に対する樹高と直径における成長応答は、若齢時には混合いの増加に伴い樹高が細長くなる傾向であったが、より樹齢が進むと混合いの増加による影響は直径成長において顕著であった。周辺混合い度に対する直径成長の感受性に系統間で違いが認められ、混合い度が増加しても成長が鈍化しにくい系統や、著しく成長が鈍化する系統が存在することが明らかとなった。本研究の結果は、植栽密度を変化させるような施業におけるスギ系統の成長のばらつきを理解する上でも有益な知見と考えられる。

  • 飯田 玲奈
    セッションID: E8
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    群馬県では、「ぐんま緑の県民税事業」において、立地等の条件が不利であることにより林業経営が成り立たず放置された過密人工林について間伐を実施している。間伐後の森林の公益的機能を向上させるためには、間伐時に気象害へのリスクの高い個体等を優先的に伐採する等、適切な選木方法が必要であり、指標として、形状比、樹冠長率、樹冠幅等が活用できる。選木については、曲がり等の形質及び被圧木については誰でも比較的容易に選ぶことができるが、間伐後の成長が期待できる個体を残すためには、樹冠の状況も判断して選木することが必要である。しかし、その明確な方法を定義したものは少ない。そこで今回、県内のスギ及びヒノキの過密人工林において樹冠長率及び樹冠幅の計測を行い、両者を用いて5段階の評価指標を定め、新たな選木方法を検討したので報告する。

  • 水永 博己, 西山 友紀乃
    セッションID: E9
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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     伐採跡地に出現する藪の群落高と植栽木高との相対関係は下刈りの要否を決める便利な経験的指標である.しかし,より粗放的に,例えば先駆性樹木とともに(あるいはその下に)植栽木を育てるなど,藪と植栽木の柔軟な関係の構築は非現実的だろうか?このような多様な藪と植栽木のあり方の実行可能性を考える際に,ギャップ生成後の藪の発達と植栽木の成長や生存への影響をプロセスモデル的に考えることは有効であろう.藪群落内の光環境は,単に群落の高さや生物量だけでなく,種特有の吸光係数や種が混交することによる構造の複雑さの影響を受けるため,人工林のギャップ内に発達する藪の種組成や植生量の空間分布を知ることと,種組成が藪群落内の光環境に及ぼす影響を知る必要がある.

     本発表では,異なるギャップ配置状態での藪の種組成と生物量の経時変化について報告し,地形を考慮したギャップと藪群落の発達過程を評価する.さらに,藪群落内の光減衰に及ぼす種組成の影響について報告し,これらの情報を組み合わせて,地形環境ごとにギャップ配置が藪と植栽木との競争関係に及ぼす影響について評価する.

  • 中西 敦史, 伊東 宏樹, 石橋 靖幸, 山嵜 孝一, 谷村 亮
    セッションID: E10
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    アカネズミ類は森林環境を好むため、それらの貯食行動による皆伐地への種子散布は、皆伐地の森林発達にともない増加していくと予想される。この仮説を検証することを目的に、ミズナラが高密度に混交するトドマツ人工林(1956年植栽)を対象に研究を行った。胸高直径5cm以上のミズナラの年輪解析を実施した結果、ミズナラの侵入時期の頻度分布は、1955年の地拵えからおよそ20年後にピークを持つことが示された。このことから、ミズナラの多くは、皆伐・地拵え直後ではなく、トドマツ植栽木がある程度成長してから定着したことが明らかになった。また、これらのミズナラのマイクロサテライト座の遺伝子型を解析した結果、弱い空間遺伝構造が検出されたことから、ミズナラ種子の長距離散布が示唆された。次にミズナラ種子をトドマツ林内に設置し、自動撮影装置により撮影することで、種子を持ち去った動物種を観察した。その結果、ほとんどの種子がアカネズミおよびヒメネズミにより持ち去られたことから、これらのアカネズミ類がミズナラの種子散布に大きく貢献していることがわかった。

  • 吉田 俊也, 山崎 遥, 宮本 敏澄, 秋津 裕志
    セッションID: E11
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    北海道においては、重機を用いた搔き起こしが、ササ地を対象とした天然更新補助作業として行われてきた。施工後は高い確率でカンバ林が成林するが、平均DBHが40年生で10cm程度と、先駆種であるカンバ類の成長ポテンシャルを十分に引き出せていない。また、多くの場合、下層にはササが再侵入し、カンバ類の単層林が成林するにとどまっている。この発表では、いったん剥いだ表層土壌を再度施工地に敷き戻す作業(表土戻し)の事例を紹介する。5年生時点で、ダケカンバの稚樹数・成長に及ぼす正の効果は明らかであった(胸高以上の稚樹数は通常0.2、表土戻し9.5本/m2;Aoyamaら 2009 JFR)。20年生時点で再測したところ、表土戻しでは平均DBHが8.2cmに達し(通常5.2cm)、10cmを超える個体が2000本/ha以上あった。また、通常施工地では林床のササの被覆率が80%であったのに対して、表土戻しでは3%で、より多様な樹種からなる、本数で2倍以上(4.7万本/ha)の稚樹層が形成されていた。このように、表土戻しは、①更新木の成長を著しく促す、②高木樹種の下層での再発達を促す作業方法といえる。

  • 杉田 久志, 高橋 利彦, 酒井 敦, 八木橋 勉, 櫃間 岳, 高橋 和規, 大谷 達也
    セッションID: E12
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    1970、80年代にブナ天然更新施業が行われ、とくに保安林など伐採率が制限されるところでは択伐天然下種更新が広く採用されたが、その更新の実態は明らかにされていない。本研究は択伐天然更新施業が実施されたブナ林の構造変化を伐採30年後までモニタリングした。調査地は岩手県雫石町国見地区、1989年に材積で30%程度の伐採が行われたが、部分的にはもっと高率のところもあった。林床ではチシマザサが密生するが、刈払いなど更新補助作業は行われなかった。伐採9年後の1998年に強度伐採区(保残木被覆率6%)、弱度伐採区(54%)、対照区(91%)にそれぞれ50m×30mプロットを設置して毎木調査、実生・ササ調査を行い、伐採20年後、30年後にも測定した。対照区では高さ30cmに達する前にブナ稚樹が消滅していた。弱度伐採区ではブナ幼樹(伐採少し前に発生したものが主体)が多いL字型の直径階分布を示し、適度の伐採がブナ稚樹の定着を促進したことが示唆される。強度伐採区ではブナの優占度が低く、ブナ天然更新施業としては成功といえないが、ホオノキ、ダケカンバ、コシアブラ、ハウチワカエデなどが林地の全面を覆う高木林を成立させることができた。

  • 沼宮内 信之, 白旗 学, 山田 竜輝
    セッションID: E13
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    母樹保残法及び更新伐を行ったコナラ天然下種更新試験地において,伐採21年後の林分構成を調査,比較した。母樹となるコナラを前者では63本/ha,後者では308本/ha残し伐採した。試験地に存在する胸高直径1cm以上の木本類の胸高直径と樹高構成,位置を測定し,GISソフトを利用して記録した。伐採した高木は林内作業車で運び出し,その後,草刈り機で丁寧に低木及び草本を刈り払った。試験地から北西に320m離れた同様なコナラ二次林の1996年及び1997年の種子落下量は,200個/m2,50個/m2が記録されていた。コナラ更新木は母樹保残法で215本/ha,更新伐で2本/haであった。そのため,コナラ実生による更新を行う場合、母樹は少ない方が多数の更新木が期待できると考えられた。母樹保残法ではコナラの更新木よりも,ホオノキ,ミズキ,クリ,キタコブシ等のコナラ林に生育する高木性木本の更新木が多数存在していた。現在の林分構造が維持されるとすればコナラが優占する森林になる可能性は低いと考えられる。もし、コナラ林に誘導するのであれば伐採後10数年の時点で刈り出し作業等が必要である。

  • 三木 直子, 浅野 仁, 前田 紹吾, 廣部 宗, 坂本 圭児
    セッションID: E14
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    本研究では二次林の再生過程の一つである萌芽更新に着目し、西日本の大径木化した落葉広葉樹の二次林において、主要な構成種であるコナラとアベマキの伐採後2年間の萌芽枝の発生消長に切株属性や環境条件が与える影響を評価した。その結果、伐採後1年目において、コナラは萌芽枝無し個体の割合が高く、萌芽枝数も少なかった。一方、アベマキは有り個体の割合が高く、萌芽枝数も多かった。また、コナラは切株直径が小さいほど萌芽枝有り個体や萌芽枝数が多い傾向があり、アベマキは土壌含水比や開空率が高いほど萌芽枝数が多かった。伐採後2年目には両種ともサイズの小さい萌芽枝ほど枯死しており、コナラで枯死率が高かった。以上より、伐採後1年目の萌芽枝の発生の有無や萌芽枝の発生本数は、コナラでは切株直径などの切株に属する内的な要因が、アベマキでは土壌水分などの切株の置かれた環境条件が影響しており、2年目の生死には1年目の萌芽枝サイズが影響していることが明らかとなった。コナラは大径木化すると萌芽枝の発生が低下し、枯死率が高いのに対して、アベマキは萌芽枝の発生が低下せず生存率が高く、大径木化の影響が種間で異なることが明らかとなった。

  • 酒井 敦, 安藤 暁子, 奈良 一秀
    セッションID: E15
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    絶滅危惧樹木トガサワラの保全に資するためトガサワラ個体群の8年間の動態を調査した。高知県馬路村の安田川山トガサワラ希少個体群保護林(面積4.3 ha)は1912年にスギ、ヒノキ人工林として造成されたが、トガサワラが多く成立したため1973年に保護林に指定された。保護林は傾斜35~45度の急傾斜地にあり、局所的に地すべりが発生する。ここで2011年と2019年に毎木調査(胸高直径)を行った。2019年にはサイズの異なる35本の立木(胸高直径12.9 ~ 86.5 cm)から成長錘コアを採取した。2011年には395本の生立木があり、2019年は352本だった。2011年と2019年の直径階分布はどちらも20~30 cmにピークがあったが、8年間に10~20 cmの径級は半分まで本数が減り、50 cm以上の径級では本数が増加していた。このことから新規加入個体はなく、径級の小さい個体が枯死していることが示唆された。成長錘コアを分析したところ、トガサワラの齢は50年から95年以上であり、80年生を中心にピークがあるが、それより若い個体も断続的に加入していたことが示唆された。80年前は造成した人工林が27年生であるが、その時期に地すべりが発生しトガサワラの侵入が促されたと考えられた。

  • 後藤 晋, 大森 良弘, 内山 憲太郎, 種子田 春彦
    セッションID: F1
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    トドマツ高標高×低標高の分離集団を対象にRAD-seqによるSNPデータを用いて連鎖地図を作成し、2018年と2019年に針葉を採取し、乾燥サンプルを用いてIC-MSを用いたイオノーム解析を行った。針葉に含まれる22種類の元素について、2018年と2019年を比較した結果、平均含有量に大きな違いはなかった。また、2018年には、カリウム、ニッケル、銅などはシュート伸長量と正の、MnとSrは負の相関が認められた。2019年には、FeとRbなどの含有量とシュートの伸長量には正の相関が認められた。両年の22元素について、それぞれQTL解析を行ったところ、2018年にはLi、Co、Srなど、2019年にはAs、Csなどで有意なQTLが検出された。一部のQTLと連鎖するSNPマーカーを含んだ塩基配列をトドマツのトランスクリプトーム・データベースで調べたところ、特定イオンの結合に関連するアノテーションを持つ遺伝子と相同性が高いことが示された。

  • 加藤 朱音, 湯本 景将, 齊藤 陽子, Michael P Nobis, 津田 吉晃
    セッションID: F2
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    地球温暖化により森林樹木は水平方向(緯度・経度)あるいは垂直方向(標高)に分布移動すると考えられる。しかし、実際の分布移動動態のメカニズムは不明な点が多い。そこで本研究では温暖化影響評価のモデル樹種として冷温帯~亜高山帯の主要構成種であり、国内では約3000mの標高差で分布するダケカンバ(Betula ermanii)に着目し、現在の遺伝構造や過去の集団動態を明らかにすることを目的とした。まず四国~北海道の計55地点のダケカンバ集団を対象とし、18地点では標高別の集団も採取し、葉緑体DNAおよび核DNAの多型を用いて集団遺伝学的解析を行った。さらにこれらデータをユーラシア大陸のカバノキ属種を対象とした先行研究(Tsuda et al. 2017)とも統合し詳細に解析した。加えて移住率を考慮した種分布予測モデル(Nobis and Normand 2014)をさらに改変し、ダケカンバを含む複数のカバノキ属種について過去の分布復元および将来の気候変動下での分布を予測した。以上の結果を統合し、近縁種ウダイカンバ(B. maximowicziana)の先行研究(Tsuda et al. 2015)の再解析や結果の比較も踏まえ幅広い時空間スケールでカバノキ属種の歴史や今後の分布適応動態について議論する。

  • 久本 洋子, 伊原 徳子, 種子田 春彦, 平尾 聡秀, 後藤 晋
    セッションID: F3
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    2015年5月に北海道富良野で育苗したトドマツ、アカエゾマツ、エゾマツの3年生苗を自生地である富良野、やや温暖な秩父、温暖な千葉に移植し、2017年8月に生残と成長を調べた研究により、トドマツが温暖地でも生育可能だったのに対し、エゾマツが最も温暖化ストレスを受けていた。本研究では温暖条件下でこれら個体がどのようなストレス応答関連遺伝子を発現しており、樹種によって発現パターンが異なるかを調べた。2017年8月に富良野と千葉で3種から1個体ずつ選び、葉からRNAを抽出しRNA-seqを行った。リードをDe novo assemblyした後、リファレンスを作成してマッピングした。マッピングされたリード数に基づき遺伝子発現パターンを比較した結果、植栽地よりも樹種によってクラスタリングされた。最も生存率、成長量が低かったエゾマツについて千葉と富良野で遺伝子発現量を比較したところ、有意に発現量が異なる752遺伝子が認められた。シロイヌナズナとの相同性検索を行った結果、水ストレスや菌抵抗性に関連する機能をもつ遺伝子が推定され、自生地と移植地の気温の差だけでなく他の環境の違いによる影響も示唆された。

  • 岩泉 正和, 河合 慶恵, 宮本 尚子, 那須 仁弥, 久保田 正裕, Aziz Akbar Mukasyaf, 田村 美帆, 渡辺 敦史
    セッションID: F4
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    クロマツはマツ材線虫病により天然資源がほぼ滅失し、現在は有名松原等の植栽林(人工林)を残すのみとなった。これら集団毎の遺伝的変異の保全には、種子採取から種苗植栽という人為的維持更新の上で現存する遺伝的変異をいかに適正に次世代(種子プール)に保全できるかが課題である。本研究では、採種母樹の選定基準や適正な採種母樹集団サイズ等を含めたクロマツ林の遺伝子保存戦略の検討に取り組んだ。福岡市の有名松原「生の松原」において、現存する成木集団から約280個体を選定して核SSRマーカーに基づきDNA分析を行うとともに、うち70個体から球果を採取し、約1,620種子(母樹あたり最大24種子)を対象として同様にDNA分析を行った。その結果、母樹毎の種子の遺伝的多様性は、母樹の胸高直径と有意な負の相関関係が認められ、小径な母樹ほど種子の遺伝的多様性が高かった。また、種子プールの遺伝的多様性は、採種母樹数が10(遺伝子多様度)~30(対立遺伝子の有効数)以上でそれぞれ頭打ちとなる傾向が見られ、集団内の次世代の遺伝子プールをカバーするためには概ね30母樹以上の種子プールが必要なことが示唆された。

  • 上野 真義, 長谷川 陽一, 魏 甫錦, 松本 麻子, 内山 憲太郎, 伊原 徳子, 袴田 哲司, 藤野 健, 笠原 雅弘, 尾納 隆大, ...
    セッションID: F5
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    無花粉スギは、花粉を飛散しないため花粉症対策に利用されている。無花粉スギでは、変異型アレルがホモ接合となるため雄性不稔となるが、野生型アレルとのヘテロ接合体は正常な花粉発生を示すため、外観から判別できない。雄性不稔遺伝子を同定し、その多様性を明らかにすることで、無花粉スギ育種素材のマーカー選抜が容易になる。本研究では、雄花で発現する遺伝子を網羅的に解析し、雄性不稔の候補遺伝子を同定した。候補遺伝子は連鎖地図上のMS1から0 cMに位置し、無花粉スギ系統ではタンパク質のコード領域に変異(塩基の欠失)があるため、機能が失われると推定された。候補遺伝子のほぼ全長の塩基配列を雄性不稔系統と全国の天然林に由来するスギの合計83個体で解析したところ、雄性不稔を引き起こす変異には少なくとも2種類あることが明らかになった。これらの変異はいずれも広く分布する共通のハプロタイプから派生したものと推定された。さらにPCR法とLAMP法によるマーカー開発を行った。今後はゲノム編集により雄性不稔の原因遺伝子を確定させるとともに、マーカー選抜により多様な無花粉スギ育種素材の探索を行う予定である。

  • 武津 英太郎, 平尾 知士, 三浦 真弘, 栗田 学, 井城 泰一, 宮原 文彦, 佐藤 太一郎, 江島 淳, 横尾 謙一郎, 上杉 基, ...
    セッションID: F6
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    九州ではさし木造林が繰り返される中で特徴的なスギ在来品種群が成立している。これらは精英樹とともに九州の造林・林木育種の基礎となる遺伝的リソースである。従来在来品種は表現型や植栽履歴等に基づいてラベリングされてきたが、必ずしもその分類方法は統一されておらず、ラベリングミスや同名異遺伝子型や異名同遺伝子型が存在すると考えられる。また、表現型に基づいて在来品種を分類できる篤林家も少なくなってきている。このような状況で、これまでにDNAマーカーによる分類が試みられてきた。しかし九州全体の材料を対象に包括的にDNAマーカーを使って在来品種を整理した事例はほとんどない。本発表では、福岡県・佐賀県・大分県・熊本県・宮崎県・鹿児島県の林業研究機関および九州育種場に保存されている在来品種の個体の大部分をSSRマーカーを用いてタイピングを行い、ラベル名と遺伝子型との関係を整理し、さらに九州外の個体も加え、ランダムプライマーを用いたアンプリコンシークエンスによる個体間距離に基づきクラスタリングし遺伝的関係を求めた結果について報告する。

  • 栗田 学, 久保田 正裕, 渡辺 敦史, 大塚 次郎, 松永 孝治, 倉原 雄二, 倉本 哲嗣
    セッションID: F7
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    九州地域の多くのスギ人工林は主伐期を迎えて伐出が進んでおり、再造林用の苗木として森林施業の省力化が期待される、成長に優れた品種の活用が求められている。現在、スギさし木苗の安定的な生産が課題となっており、簡便・低コストで、かつ需要量に応じた安定的なスギさし木苗生産手法の確立が求められている。

     この課題に対し、我々は用土を用いない空中さし木法を開発しており、その実用化研究を進めている。この技術はさし穂をさしつける際に用土を用いないため、さし木苗生産において業務量が大きい苗畑の維持管理やさし床の準備、発根後の穂の掘り取り作業等において大幅な労力の軽減が期待される。また、それに伴う人件費の削減についても効果が期待される。本発表では空中さし木法の概要や空中さし木法で安定的にスギのさし穂を発根させるための最適な散水条件の検討結果を報告する。さらに、本技術による特定母樹や少花粉品種のさし木苗生産への適用手法についても議論を行う。

     なお本研究の一部は、農研機構生研支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業」の支援を受けて行った。

  • 福島 成樹
    セッションID: F8
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

     千葉県ではスギ花粉飛散量を予測するため、県内45か所のスギ林の雄花着生状況を11~12月に観察し、その着花指数(0~4,000)から雄花生産量を予測している。各調査林の着花指数の変動は概ね同じであるが、調査林ごとにみると全体が同じように変動する年と個別に変動する年がある。そこで、このような年次変動を起こす要因を明らかにすることを目的に、各調査林の着花指数と、雄花生産量との相関が高い前年夏の日照時間との関係について調べた。25年間の調査林45か所の平均着花指数は、最大が3,338(2004年)、最小が798(1998年)、平均が2,133と年次変動が大きく、概ね隔年で増減する傾向が認められた。前年との比較で着花指数が一斉に減少、翌年に増加、翌々年に減少するというパターンが24年間の間に1998~2000年、2003~2005年、2009~2011年の3回あり、その中の増加した年は花粉の大量飛散年に当たっていた。また、一斉に変動するパターンに挟まれた数年間は個別に変動していた。一斉に変動するパターンは、県内アメダスの7~8月の日照時間の平均値が300時間以下、その翌年が350時間以上となった時で、この変動が一斉変動のトリガーとなっていると考えられた。

  • 石塚 航, 今 博計, 来田 和人, 黒丸 亮, 後藤 晋
    セッションID: F9
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    より効果的に、早期に林木育種を進めるための重要な課題として、若齢段階でいかに精度よく次代検定できるか、が挙げられる。それには、①検定材料の遺伝的背景(交配親)を正しく把握した上で、②育種対象形質を代替できる若齢段階の表現型を測定し、③表現型から精度よく遺伝パラメータを推定する、という手続きが行われることが望ましい。本研究では、とくに3点目について、表現型から環境効果を取り除けるか検討することを目的として、グイマツ雑種F1遺伝試験林の若齢時の形質を解析した。

    東京大学北海道演習林の試験林に植栽された、単一母樹型のグイマツ雑種F1採種園産の次代を対象とし、10年目樹高・幹直径を扱った。隣接林分や斜面の影響が現地調査時に予想され、空間情報を用いた統計モデルにより、両形質値に空間構造があることが確認された。そこで、空間的自己相関を加味した育種価の解析を試みたところ、隣接林分に近いか、斜面下部で成長が劣るという環境効果を分離することができた。空間構造を考慮しない解析と比べて遺伝率は高くなり、育種価の推定精度が向上することが示唆された。

  • 香川 聡
    セッションID: G1
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    樹木をはじめとする植物は、葉の表面から液体の水を吸収することが近年明らかにされている(Foliar water uptake, Berry et al. 2018)。本研究の目的は、長期間雨が降り続く梅雨期における樹木の葉面吸収水の挙動を明らかにすることである。曇天下でスギ苗木の葉面から重水を梅雨期に2日間暴露吸収させた後、葉および細根を経時的にサンプリングし、葉内水および根内水の同位体比を分析して重水の樹体内での移動を調べた。葉面吸収された重水は樹幹内を逆流し、根でも検出された。このことから、スギの葉面吸収水は根まで逆流しうることが確認できた。同様の現象は、他樹種でも観測されている(Eller et al. 2013, 今田省吾ら2019)。また、暴露直後に採取した葉内水のうち3割が重水に置換されており、雨水からの葉面吸収水量は根吸収水に比べても無視できない量であることも分かった。放射量の少ない降雨期間中は、根に比べて表面が濡れた葉のほうで水ポテンシャルが高くなり、吸収された葉面吸収水が葉から根まで逆流する一方、放射量の大きい晴れた日にはポテンシャル勾配が逆転し、水の流れの方向が根から葉の方向に変化したと考察された。

  • 小林 正樹, Kevin Kit Siong Ng, Soon Leong Lee, Norwati Muhammad, 谷 尚樹
    セッションID: G2
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    東南アジア熱帯地域では、気候変動の結果として、これまでよりも強い乾燥が、より高い頻度で起こる可能性が懸念されている。そのため、東南アジア地域における木材の安定供給を考える上で、林業樹種の乾燥に対する影響を評価し、施業へと応用していくことが必要である。本研究では、この地域に優占するフタバガキ科林業樹種に注目し、乾燥応答および乾燥耐性について評価を行った。東南アジアには、赤道に近く明瞭な乾季のない非季節性熱帯と、赤道から離れ明瞭な乾季を有する季節性熱帯が存在し、両地域には異なるフタバガキ科樹種が分布している。もしもこれらの種の分布が乾燥耐性の違いにより制限されているのであれば、季節性熱帯に分布する種は、非季節性熱帯に分布する種に比べ、より強い乾燥耐性を持つことが予想され、将来強い乾燥の頻度が増加することが予想される非季節性熱帯において、乾燥に強い有用樹種として林業に利用できる可能性が期待できる。そこで、季節性熱帯と非季節性熱帯をそれぞれ主な分布域にもつフタバガキ科林業樹種を2種ずつ選び、これらの苗木を対象に乾燥実験を行うことで上記の仮説を検証した。本発表では、その結果について報告したい。

  • 辻 祥子, 中静 透, 蔵治 光一郎, 久米 篤, 半場 祐子
    セッションID: G3
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    日中の大気飽差(VPD)の変化に伴う気孔コンダクタンス(Gs)と葉の水分特性の関係について、マレーシア湿潤熱帯雨林の林冠樹種9種について樹冠クレーンを利用して調査した。日中のVPD変化に対するGs変化の関係性を明らかにするために、葉の水分特性やGsおよび気象データの日内変動を測定し、VPDに対する気孔の感受性への木材の解剖学的特性の影響を評価した。いずれの種でも、葉周辺の大気飽差(VPDleaf)とGsの間に負の相関があり、VPDleafが1.2-5.9 kPaの範囲におけるGsの応答が得られた。また、平均道管直径の大きい種ほどVPDleafに対するGsの反応性が高く、わずかなVPDleafの変化に対して気孔が素早く応答していた。一方で、葉の萎れ点での相対含水率(RWCtlp)と葉の萎れ点での水ポテンシャル(Ψtlp)については、種間で有意な差が得られたが、これらの葉の水分特性とVPDleafに対する気孔の応答性には相関がみられなかった。以上より、対象樹種においては日中のVPDleafの変化が気孔に対する主要な刺激要因であり、大きな道管径の樹木は、日中のVPDleaf変化に対して気孔の応答性が高く、これにより日中の日射やVPD変化に対する葉の水分状態を維持出来ていると考察した。

  • 楢本 正明, 片渕 幸菜
    セッションID: G4
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    CO2吸収は同化器官である葉で主に行われるが、非同化器官である枝や幹においても光合成色素のクロロフィルが存在し、CO2吸収が確認されている。本研究では、ブナを対象に異なる高さにおける非同化器官での光利用効率とガス交換特性について検討する。

    静岡大学農学部圃場に生育するブナを対象に異なる高さの非同化器官におけるクロロフィル蛍光およびガス交換の測定を行った。クロロフィル蛍光の測定には携帯型クロロフィル蛍光測定器Mini-PAM(WALZ)を用い、ガス交換の測定には多点通気および閉鎖型測定システムを用いた。同時に、気温等の基礎的な環境要因に加えて、樹体温度、樹体内部のCO2濃度、樹液流速度、幹表面での光量子束密度を測定し、種々の要因とガス交換特性および光利用効率の変化について解析する。

  • 谷口 真吾
    セッションID: G5
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    【研究目的】リュウキュウコクタン(Diospyros ferrea)の繁殖枝に蓄積された炭素量、窒素量の多少が翌年の果実数、果実サイズに及ぼす影響を考察した。【方法】供試木は樹高5.0m、胸高直径18cmの40年生雌株2個体である。2018年5月中旬、開花期の繁殖枝に環状剥皮を施し(剥皮区、無剥皮区)、同時に摘葉処理(摘葉しない0%摘葉区、葉数の50%摘葉区、葉面積の50%摘葉区、100%摘葉区)した8処理区を設けた。幼果実期の7月上旬、果実成熟期の7月下旬、落下期の8月下旬の3期に繁殖枝を処理区別に採取し、炭素量と窒素量を定量した。さらに翌年の7月中旬、同じ繁殖枝内の果実を採取し果実数とサイズ、重量を計測した。【結果と考察】繁殖枝の炭素量、窒素量は、各処理区とも剥皮区が無剥皮区よりも高い傾向であった。処理区ごとの繁殖枝では、果実落下期の8月下旬の炭素含有量が高いと翌年の果実数が多くなる傾向であった。繁殖枝の窒素含有量は摘葉しない処理区で高いが、翌年の果実数の多少との関係性は見いだせなかった。この結果、果実成熟期以降の繁殖枝に貯蔵蓄積された高い炭素含有量は、翌年の果実数を高めることが示唆された。

  • 檀浦 正子, Daniel Epron, Alexandre Bosc
    セッションID: G6
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    主に糖とデンプンからなる非構造性炭水化物は樹木の生理的活動のもとになる多用途重要な役割を持っており、光合成のできない夜間には蓄積しておいた炭素を使い活動を継続する。樹種による非構造性炭水化物動態の違いを明らかにするために、マツ(Pinus pinaster)とブナ(Fagus sylvatica)において、朝と夕方に13Cパルスラベリングを実施し、数時間おきに葉をサンプリングし、可溶性炭素とデンプンを抽出し、それぞれの画分に含まれる炭素安定同位体比を分析した。

    マツでは、朝の光合成で固定された炭素のほとんどすべてが可溶性炭素に配分され、デンプンには時間経過とともに徐々に配分されたが、夕方には光合成産物の約67%が可溶性炭素に、約6%はデンプンへと配分されていた。ブナでは、朝の光合成で固定された炭素の約60%が可溶性炭素に配分され、マツとは異なりデンプンにも約17%が配分されていた。夕方には、光合成産物の約30%が可溶性炭素、それよりも大きい約37%がデンプンに配分されており、その後、夜間にデンプンから糖へと変換され利用されていた。

  • 西口 満, 宮澤 真一
    セッションID: G7
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    ゲノム編集は標的遺伝子のみを改変する技術として、動物、植物、微生物の遺伝子研究や品種改良に利用されている。一方、ゲノム編集技術を利用した遺伝子改変がどのような影響をもたらすかについては、科学的な側面と実用的な側面から関心が高く、様々な生物種で研究が進められている。本研究では、ゲノム編集によるポプラへの影響を明らかにするため、花成、成長特性、光合成、アミノ酸代謝、遺伝子発現の解析を行った。CRISPR/Cas9法で花成抑制遺伝子を破壊し機能欠損させたゲノム編集ポプラは、2016年に早期花成が観察され、その後、挿し木を繰り返しても3年以上早期花成の性質を維持していた。ゲノム編集ポプラの葉および茎の乾燥重量は普通のポプラよりも減少したが、これは早期花成により節間の短縮や葉の縮小が起こるためと推測された。ゲノム編集ポプラと普通のポプラの光合成能に差はなかった。葉中のアミノ酸含量については、ゲノム編集ポプラではグルタミン酸が多い傾向が見られた。他の遺伝子への影響として、ゲノム編集ポプラでは花芽分裂組織決定遺伝子の一つであるAPETALA1-2遺伝子の発現が高く、早期花成の引き金となっていることが示唆された。

  • 斎藤 秀之, 神村 章子
    セッションID: G8
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
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    大気汚染物質が森林樹木の一斉開花現象に与える影響を評価するため、ブナ天然林のブナ樹冠において酸性雨を組成する硫酸と硝酸の曝露実験を行い、花成ホルモンをコードする遺伝子(FT)の発現調節に与える影響を調べた。硫酸(pH2.5)と硝酸(pH2.5)はそれぞれFT遺伝子の発現を低下させた。さらに硫酸+硝酸の混合(pH2.5)によるFT遺伝子の発現低下量は、硫酸と硝酸のそれぞれによる低下量と比べて加算的であった。FT遺伝子の発現調節において、日長経路の転写因子であるCO遺伝子の発現は、硫酸の影響を受けず、硝酸のみで発現量を低下させた。これらの結果から、硫酸と硝酸のFT遺伝子に対する作用経路は異なり独立であると考えられた。またFT遺伝子の低下をもたらす原因物質は、プロトンではなく、硫酸イオンと硝酸イオンであると考えられた。以上から、酸性雨がブナ林の着花に及ぼす影響は、硫酸と硝酸のそれぞれが抑制的に作用すると考えられた。

  • 片畑 伸一郎, 山田 晋也, 向井 譲
    セッションID: G9
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    スギなどの針葉樹の着花促進を目的に使用されているジベレリン3(GA3)に対して、ヒノキの花成応答性は極めて低い。そのため、ヒノキにおいてGA3に代わる簡便で効果的な着花技術の開発が求められている。昨年度までの結果、GA4/7(GA4とGA7の混合)に対してヒノキは花成応答するものの、その応答性には系統間差があることが明らかになった。なぜヒノキはGA3ではなくGA4/7に強い花成応答を示すのだろうか?また、GA4/7に対する花成応答性の系統間差の原因は何なのだろうか?これらの問いに答え、効果的な着花促進技術を開発するためには、ヒノキの花成応答のメカニズムを理解することが重要である。そこで我々は、ジベレリンに対するヒノキの花成応答のメカニズムを理解することを目的に遺伝子発現解析を進めている。本研究では、6月~8月にかけてジベレリン水溶液を葉面散布し、これによって誘導される花成関連遺伝子の発現量と着花量との関係について解析した。

  • 楠本 大, カロリナ アンネ
    セッションID: G10
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    樹木の樹脂滲出や傷害樹脂道形成には植物ホルモンのエチレンやジャスモン酸が関わっている。昨年度の日本森林学会大会では、我々は広葉樹3種にエスレル(ET)とジャスモン酸メチル(MJ)の処理を行い、ET処理によってのみ傷害樹脂道が形成されることを報告した。今年度、針葉樹のアカマツに同様の処理を行ったところ、ETとMJともに傷害樹脂道を誘導する結果となり、MJに対する反応が針葉樹と広葉樹で異なる可能性が示された。ジャスモン酸系の遺伝子応答は、MJが脱メチル化してジャスモン酸(JA)となり、さらにイソロイシンと結合してジャスモン酸イソロイシン結合体(JA-Ile)となることで活性を示す。針葉樹と広葉樹でのMJ応答の違いは、植物内でのMJ代謝に由来するのではないかと考え、MJ処理したアカマツとソメイヨシノの枝に含まれるJAとJA-Ileの含有量を測定した。その結果、アカマツでは処理後JAとJA-Ileとも増加したのに対し、ソメイヨシノではJAのみ増加し、JA-Ileは処理前後で変化しなかった。このことから、MJに対する反応性の違いは、MJをJA-Ileまで代謝する活性の違いが原因であると示唆された。

  • 山ノ下 卓, 伊東 瑠実子, 則定 真利子, 小島 克己
    セッションID: G11
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    フェニルアラニン-アンモニアリアーゼ(PAL)は芳香族代謝中の酵素であり、植物ではリグニンなどの細胞壁構成物質や、昆虫や病原菌への防御物質生成に重要な役割を果たしている。湛水などの低酸素環境下で植物の根はエネルギー不足となるため、ATP生産に直接寄与せず、またATPや酸素分子を消費する経路が多い芳香族代謝は抑制された方がエネルギー収支上よいと考えられる。しかし、長期的には芳香族代謝は生育に必須である。本研究では、低酸素ストレス耐性の異なる熱帯フトモモ科4種(Melaleuca cajuputiEucalyptus camaldulensisSyzygium cinereumS. grande)を主な材料として、低酸素環境が熱帯樹木の根のPAL活性に与える影響を明らかにした。低酸素処理4日目には全ての種の低酸素区でPAL活性が低下したが、M. cajuputiでは処理後14日目にはPAL活性が回復しており、S. cinereumでも回復した個体が見られた。E. camaldulensisS. grandeではPAL活性の低下は回復しなかった。低酸素ストレス耐性によらず低酸素環境下でPAL活性が低下するが、耐性の高いM. cajuputiS. cinereumでは活性が回復することが分かった。

  • 田原 恒, 鈴木 勝一, 西口 満, 橋田 光, 伊東 秀之
    セッションID: G12
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    Eucalyptus camaldulensis(ユーカリ)は、酸性土壌で問題となるアルミニウム(Al)過剰害に強い耐性を持つ。演者らは、ユーカリがAl無毒化物質として加水分解性タンニン(以下、タンニン)oenothein Bを含むことを見出している。本研究は、ユーカリが含むoenothein B以外のタンニンも同定し、それらのAl無毒化能を評価することを目的とする。ユーカリの葉と根に含まれる化合物を含水アセトンで抽出し、順次、エーテル、酢酸エチル、ブタノールで液液抽出を行った。各抽出画分のAl無毒化能を、Al感受性植物シロイヌナズナを用いた生物検定で評価したところ、葉と根の両方で、ブタノール画分が高いAl無毒化能を示した。ブタノール画分からは、5種類のタンニンがカラムクロマトグラフィーによって単離され、NMRと質量分析によって1,6-digalloyl glucose、strictinin、tellimagrandin I、pedunculagin、oenothein Bと同定された。同定された化合物のいくつかは、oenothein Bと同様にAl無毒化能を示した。以上の結果から、oenothein Bだけでなく、他のタンニンもユーカリでAlの無毒化に寄与していると考えられる。

  • Chaofeng Li, Jinli Pei, Xin Yan, Chunlan Lian
    セッションID: G13
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    UV‐B radiation and low temperature promote the accumulation of anthocyanins, which help higher plants respond to biotic and abiotic stresses. Although BBX proteins have been characterized in the pathway, however, their functions in woody plants remain largely unknown. Here, a total of 45 genes containing BBR domains were identified and characterized in the Populus trichocarpa genome. Microarray analysis showed that 18 BBX genes have high expression levels in young leaves and the seedlings induced by photoperiod changes. Transcriptomic analysis showed that most of the PtrBBX genes were induced by biotic and abiotic treatments, including 20 BBX genes induced by UV‐B radiation and low temperature. Combing the results, 10 identical BBX genes were selected for qRT-PCR, and 5 of them had the similar expression patterns with the genes which participated in anthocyanin synthesis.

  • 高島 有哉, 能勢 美峰, 永野 聡一郎, 松下 通也, 平尾 知士, 三嶋 賢太郎, 平岡 裕一郎, 高橋 誠
    セッションID: G14
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    気候変動による気温の上昇が、樹木の成長や健全性に及ぼす影響が懸念されている。高温ストレスは、一般的に、光化学系IIの活性低下、呼吸速度の増大などを引き起こし、炭素収支の悪化の要因となる。さらに、暗所での高温状態は、光存在下よりも光化学系IIへ障害を与えることが報告されている。しかしながら、樹木におけるこれらの詳細な知見は得られていない。そこで我々は、昼または夜の高温がスギの成長および電子伝達速度(ETR)に及ぼす影響をモデル系統4クローンについて調査した。さらに、モデル系統での試験結果に基づいて温度や試験期間等を設定し、多数系統による高温ストレス試験を行った。

  • 春木 雅寛, 星野 フサ, 東 三郎
    セッションID: H1
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    北海道東部、阿寒湖畔で深度12mのボーリングコアを入手し、約1万年前から現在までの花粉分析を行った。 (1)コアは全般的に火山灰、軽石、火山ガラスなどテフラから成り立っており、樹木花粉組成から、12科、20属が認められた。中でもブナ、スギ、シデ属など温帯性樹種の出現は特筆すべきものであった。とくに、ブナはこれまで最終氷期最寒期の約2万年前には本州の東北地方南部にまで後退したと言われてきたが、上述した温帯性樹種が、さらに北に位置する網走湖畔を含む道東に出現したことから、再考が必要となる。

    (2)道東地方は古くから植生地理学的に亜寒帯性あるいは北方常緑針葉樹林帯と言われたが、年代による花粉組成の変化から、トウヒ属やモミ属の常緑針葉樹とカバノキ属、ハンノキ属、コナラ属、クルミ属などの落葉広葉樹の多い時期が交互にみられた時期がある。このことから必ずしも常緑針葉樹林が優占し続けて、永続的な常緑針葉樹林帯が維持されてきたとはいえないのではないかと思われた。(3)また、種子散布様式からはコナラ亜属、オニグルミなどの動物散布種が半数を占めており、旧く1万年前から動物関与の樹林があったことが推定された。

  • 清野 達之, 和田 直也, Chulabush Khatancharoen, TranDinh Tung, 露木 聡, 杉浦 幸之助, Se ...
    セッションID: H2
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

     極東ロシア・アムール州に位置するゼーヤ自然保護区と近接する森林の更新と地上部バイオマスを比較検証することで,自然保護区設定によって森林生態系と地域資源の保全に与える正の意義を明らかにすることを目的に調査を行なった.ゼーヤ自然保護区内に11箇所,自然保護区外との緩衝帯に6箇所,自然保護区外に6箇所の100 m2のプロットを2016年から2018年に設置し,樹高と胸高直径を測定した.期首と期末に胸高直径の再測を行なった.アロメトリー式から地上部バイオマスを推定した.

     その結果,自然保護区内は緩衝帯と保護区外と比較して,樹高も最大胸高直径,胸高断面積のいずれも大きく,森林構造が発達していた.地上部バイオマスも森林構造と同様の傾向がみられた.

     以上の結果から,自然保護区は比較的撹乱の影響が少なく,この地域を代表する森林植生が高いバイオマスで現存していることが判明した.一方,緩衝帯と保護区外は撹乱の影響を受けてはいるが,自然保護区と比較して先駆種の更新による旺盛な更新が行われていることも明らかになった.

  • 崎尾 均, 増澤 武弘
    セッションID: H3
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    森林限界では樹木が低温や強風,乾燥などにさらされ厳しい生存競争を行なっている.このような環境に分布する樹木は極域と同様に温暖化などの気候変動の影響を受けやすい.そのため長期間における森林限界の植生動態を把握することは,気候変動が植生に与える影響を把握する上で効果的である.富士山は1707年に最後の噴火をした活火山で南東斜面の森林限界は標高2400mに位置している.森林限界の優占樹種はカラマツで,ミヤマヤナギやミヤマハンノキ低木が限界線を形成している.1978年に森林限界上部からシラビソやトウヒが優占する亜高山帯林上部まで幅10m,長さ220mのベルトトランセクトを設置し毎木調査を行った.その後,1999年と2018年にその再調査を行なって,森林限界の植生の動態を明らかにした.その結果,40年間の間に,森林限界は大きく上昇を示した.森林限界上部の Kampfzone のカラマツは著しい樹高成長を示し,テーブル状の個体の幹が直立した.また,Kampfzone 上部の Krummholz limit 周辺には多くのカラマツ実生が侵入してテーブル状化することなく樹高成長を行なっていた.以上の結果から,森林限界の上昇には気候変動が影響している可能性が示唆された.

  • 直江 将司
    セッションID: H4
    発行日: 2020/05/25
    公開日: 2020/07/27
    会議録・要旨集 フリー

    今日では地球温暖化が急激に進んでおり、動植物への影響が懸念されている。特に、森林を構成する樹木への影響に注目が集まっている。樹木が温暖化から逃れる最も簡単で有力な手段は、種子散布によって気温の低い高標高の場所へ移動することである。これまで我々は種子の酸素同位体比が種子の生産される標高と負の相関を示すことを利用して、哺乳類・鳥類による液果樹木の標高方向の種子散布を評価してきた。一連の研究から、夏に結実するカスミザクラではクマのような果実食動物に高標高へ種子散布されること、一方で秋に結実するウワミズザクラ、サルナシでは低標高へ種子散布されていることを明らかにした。このような結実期による散布の方向性の違いは、春夏には山麓から山頂方向へ、秋冬には山頂から山麓方向へ進む餌植物のフェノロジーを追いかけて果実食動物が移動していることなどが原因と考えられる。このような種子散布の方向性は、樹木の気候変動下での移動にどのような意味を持つだろうか?本発表では堅果樹木であるハイマツとブナの結果も交えて、動物による標高方向の種子散布が果たす役割を議論する。

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