観光研究
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特集号: 観光研究
34 巻, 3 号
Vol.34 特集号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
論文
  • ―ヨーク市の英国国立鉄道博物館と観光アトラクションを事例に―
    藤井 秀登
    2022 年 34 巻 3 号 p. 1-10
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/06/23
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は、歴史都市におけるヘリテージ・ツーリズムをテーマ空間と行為の動機の視点から考察する。まず、博物 館や観光空間を単なるヘリテージではなく、場所の文化とクロノトポスから成るテーマ環境やテーマ化された 景観と捉える。続いて、テーマ環境やテーマ化された景観すなわちテーマ空間に組み込まれたエンターテインメ ントが観光者にモデル化された行為を促す構造を劇学の観点から検討する。最後に、観光政策、テーマ空間、動 機のカテゴリーとしての場面や行為、および観光者の関係を明らかにする。ヘリテージ・ツーリズムにおけるテ ーマ空間と行為の動機を実証するために、事例として英国のヨークを取り上げる。
  • ―IR整備法成立以前における大阪府議会の会議録を資料として―
    鶴田 一, 十代田 朗, 津々見 崇
    2022 年 34 巻 3 号 p. 11-20
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/06/23
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は大阪府の IR 整備法に基づく一連の施策とそこに至る議論を明らかにしようとしている。具体的には大阪府議会会議録を基にキーワード抽出し、分類毎に出現頻度を分析することでどのような時期にどのような議論が盛んに行われたのか、同時に特徴的な施策を明らかにすることを目的としている。その結果大阪府では独立した IR 推進局を創設し、「普及」施策では府市民の窓口としてセミナーを開催しており、「都市計画」施策では、府市と民のシームレスな連携を行っており、「依存症」対策では府依存症治療拠点機関と専門医療機関の指定を全国に先駆けて行っており、「治安」施策では警察機関との連携を行っていることが明らかになった。
  • ―経営形態と外部アクターの役割に注目して―
    和栗 隆史
    2022 年 34 巻 3 号 p. 21-28
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/06/23
    ジャーナル オープンアクセス
    全国各地で宿坊開設の動きがあり、コロナ禍でも継続している。歴史的に宿坊は、土地と建物を所有する寺院が宗教活動の一環として参詣者に宿泊の供給を行ってきたが、近年の新しい宿坊にはこれまでとは異なる経営形態が生じていると推測される。本研究は、近年開業した施設ならびに観光庁が推進している「寺泊」事業が支援している施設に着目し、新しい宿坊の事業主体と経営形態に焦点を当てその特徴と役割を整理した。その結果、ホテル経営において所有と経営・運営の機能分化が生じていることが知られているように、宿坊においても、多様な外部アクターが参画し、経営形態の多層化と機能分化が生じていることが確認された。
  • 中野 文彦, 吉谷 地裕, 山田 雄一
    2022 年 34 巻 3 号 p. 29-37
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/06/23
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では、宿泊観光地に着目し、観光経済の集積が地方自治体財政に与える影響について、宿泊業就業者数を指標として比較分析を行った。結果、人口 5 万人未満の市町村では、観光経済の集積度と税収には一定の相関があること、特に入湯税等の法定目的税収、市町村民税および固定資産税を増大させる傾向や、地方交付税配分額の根拠となる人口に影響が大きい若年層の流出を抑える傾向があること確認された。一方、人口 5 万人以上の市町村については、観光経済の集積する地域では観光経済による税収効果が低く、観光経済の集積度が高まっても財政指標の悪化や若年層の人口流出が進む傾向が見られ、より効果的な観光地経営戦略が必要と考えられる。
  • 古屋 秀樹, 安本 達式, 近藤 千恵子
    2022 年 34 巻 3 号 p. 39-48
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/06/23
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、都道府県単位での観光の経済波及効果分析に関するメタ分析を行い、各地域での観光の特徴やその果たす役割を明確にすることを目的とする。そのために、まず観光関連産業の就業者数ならびに GRP を把握した。次に、観光入込客数ならびに消費額に基づいた観光消費総額並びに経済波及効果のメタ分析を行い、地域ごとの特徴を明らかにした。分析の結果、経済波及効果/観光消費総額は、東京都(1.96)、三重県(1.70)が高いのに対して、千葉県(0.95)、福島県(0.81)は低かった。雇用者比率は、観光 GRP の県内 GRP 比率に比べて小さく、人件費の占める割合が高い労働集約型産業であることや観光関連産業の所得や雇用形態などが原因として考えられた。
  • 外山 昌樹
    2022 年 34 巻 3 号 p. 49-57
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/06/23
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、1960 年代の海外旅行市場における消費者の意識を定量的に明らかにすることを目的に実施した。1967年に内閣官房広報室が実施した「国民の海外旅行に関する世論調査」の個票データを分析した結果、海外旅行意向を持つ確率が最も高かった属性は 20 代であることが明らかになった。また、海外旅行で見て来たいものや、行ってみたい国についても分析したところ、性別や年代別で異なる傾向が見られた。
  • 杉浦 佳奈, 十代田 朗
    2022 年 34 巻 3 号 p. 59-68
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/06/23
    ジャーナル オープンアクセス
    近年、我が国ではアウトドアブームが再来し、キャンプ場とホテルの両方の利点を持つグランピングは特に開発が盛んである。一方で、本来のグランピングのあるべき姿からずれが生じている施設も見受けられる。本研究では、グランピングとはどのような特徴を持つのか知るために、英・米・日におけるグランピングの歴史や現在の施設の特徴を明らかにした。そして、豪華さ・地域振興・環境配慮のバランスのとれた施設を理想のグランピング施設と考え、計 578 施設を6つのタイプに分類した。各タイプにどのような特徴があるのかを明らかにしたところ、日本では〔豪華さ重視型〕と〔大型キャンプ場型〕といった贅沢志向の傾向が強いと言える。
  • ―新型コロナウイルス感染拡大前後の比較を含めて―
    鈴木 祥平
    2022 年 34 巻 3 号 p. 69-78
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/06/23
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は新型コロナウイルス感染症の影響が深刻な観光産業において、新たな資金調達の手段として注目されるクラウドファンディングの成功要因を分析したものである。対象を日本の観光関連プロジェクトに限定した分析の結果、目標金額や説明文、活動報告など、他の国や分野と同様に成功へ影響を与える要因と、募集期間や動画など、他の国や分野とは異なる要因が明らかになった。また、既存の価値を維持するためのプロジェクトが成功しやすいなど新たな要因も導出された。さらに、コロナ前後の比較を通じて、新型コロナウイルス感染拡大後はプロジェクトの規模が拡大傾向にあり、成功要因が一部変化していることが示唆された。
  • ―事業者の認識ならびに実践に着目して―
    彭 暄, 木村 竜也, 羽生 冬佳
    2022 年 34 巻 3 号 p. 79-87
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/06/23
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は和歌山県田辺市を対象に、地域で実践されている着地型観光の実態について中間組織ならびに事業者に着目して明らかにするものである。研究は文献調査、ならびに現地の関係者へのヒアリング調査に基づき行った。結果、事業者は着地型観光への理解が十分ではないが、地域の課題に応じて着地型観光と判断される多様な事業が認められた。また、中間組織 KTB の活動については、コンセプトに沿った活動の成果は認められるものの、地域の観光推進体制の変化までには至っていないことが明らかになった。
  • 小川 怜, 十代田 朗, 津々見 崇
    2022 年 34 巻 3 号 p. 89-98
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/06/23
    ジャーナル オープンアクセス
    近年、新たな地域再生の形として「生物文化多様性」が提唱され、自然保護を担保しつつ自然資源を活用し地域振興を目指す制度であるユネスコエコパークの登録がこの 10 年程で活発化してきた。しかし、エコパークの理念に沿った地域づくりが現場レベルまで行われているのかは分かっていない。そこで本研究ではわが国 10 カ所のエコパークを通して中山間地域の地域振興に向けた示唆を得ることを目的とし、まず、各エコパークの計画書を用いエコパークの理念を検討した。次に自治体の計画と申請書とを地域別・分野別に比較し地域振興の取組の特徴を明らかにした。最後にケーススタディを行いエコパークの地域振興への効果と課題を考察した。
  • ―大川小学校事件を巡る異なる記憶―
    齋藤 千恵
    2022 年 34 巻 3 号 p. 99-108
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/06/23
    ジャーナル オープンアクセス
    大川小学校は、東日本大震災で多くの死者・行方不明者を出した学校である。震災当時にここで起きたことは証言によって再構成され、それを異なる語り手が異なるストーリーとして語ってきた。本論では、大川小学校を巡る災害に関する展示や語りを集合的記憶の表現として捉え、一つの出来事に対して複数の集合的記憶があること、それぞれの語りや集合的記憶が、特定の社会的な立場から形成されていること、そして、語りの中には、曖昧な部分や語られない部分、間違っていたり矛盾する情報などが含まれるため、多声的で対話的であることを示す。こうした集合的記憶を伴う震災遺構への訪問は、ダイナミックで対話的な学びの機会を提供する。
  • 森下 俊一郎
    2022 年 34 巻 3 号 p. 109-115
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/06/23
    ジャーナル オープンアクセス
    新型コロナウイルス蔓延前に急増していた訪日外国人観光客受け入れのため、宿泊業では多言語対応や ICT 化など様々な取り組みがなされてきた。それらは外国人客の不満の逓減にはなったが、感動や満足度向上に寄与するとは言い難い。本研究では Tripadvisor の「外国人に人気の日本の旅館」の上位 20 軒の宿泊客から投稿された日本語と英語の口コミを比較・分析することで、外国人客にとっての旅館の経験価値を論考した。日本人は温泉や広い部屋と風呂など宿内での非日常体験に価値を感じる一方、外国人客は、旅館滞在を含め、宿までのアクセスや周辺の散策といった一連の異文化体験に価値を感じることが分かった。
  • ―台湾と香港で販売されるテーマ旅行“主題旅遊”を対象として―
    柿島 あかね
    2022 年 34 巻 3 号 p. 117-126
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/06/23
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、訪日パッケージツアーの旅程における地方部での観光活動の特徴を明らかにすることを目的として、台湾と香港で販売されている訪日パッケージツアーのうち特定の観光活動を主目的としたテーマ旅行(主題旅遊)の旅程を分析した。その結果、地方部では三大都市圏に比べ、テーマ型観光活動の種類が多様であること、テーマ型観光活動は、「見学型」と「体験型」に分類されること、テーマ型観光活動別の実施場所(地域ブロック単位)等が明らかになった。以上の結果を踏まえ、地方部における観光活動の現状と課題等について考察した。
  • ―デジタルとの棲み分けの観点からの検討―
    永石 尚子
    2022 年 34 巻 3 号 p. 127-136
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/06/23
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では、ホスピタリティ・ツーリズム産業におけるフロントラインスタッフによる人的サービスの価値を、デジタルとの棲み分けの観点から検討することを目的としている。対面コミュニケーションによるサービスへのデジタルの代替が加速する中で、日本の強みである人的な顧客接点のサービスの位置づけを、先行研究のレビュー、及び、旅館の定型業務と非定型業務の比較をもとに検討した。その結果、二つの可能性が示された。一つ目は、デジタルにはないパーソナライズされたサービスの品質が差別化を生むこと、二つ目は、デジタルと人的サービスは相互に利点を活かしつつ、統合が進むことである。最後に、今後の研究の方向性と課題を示す。
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