コミュニケーション障害学
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20 巻, 1 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
  • 城本 修
    2003 年 20 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2003/04/30
    公開日: 2009/11/19
    ジャーナル フリー
    近年,音声・喉頭科学の分野では,めざましい発展が認められた.音声治療は,これらの諸科学の発展を基盤に急速に変わりつつある.本報告では,新しい音声治療の理論的枠組みとして,アメリカの国立音声言語研究所(NCVS)のTitze博士らによって研究されてきたコンピュータによる発声の数式モデルを音声治療に適用し,これまでの音声治療技法の整理を試みた.加えて,指導原理としての運動学習理論を紹介する.運動学習とは,練習によって,熟練した活動(たとえば発声)を形成するスキルを比較的永続した変化に導く過程であるとされ,Schmidt博士によって研究されてきた.音声治療を発声という運動の再学習であると考えて,運動学習理論の応用の可能性を考えた.
  • 構文検査(斉藤私案)と状況絵を用いて
    斉藤 佐和子
    2003 年 20 巻 1 号 p. 8-15
    発行日: 2003/04/30
    公開日: 2009/11/19
    ジャーナル フリー
    ダウン症児者は言語表出に特異な障害をもつと述べる先行研究が多い.しかし,わが国の構文発達についての研究はわずかである.本研究では独自に開発した構文検査と,状況絵の説明によって文を表出させる方法を用いて,ダウン症児者の構文表出能力を検討した.対象は11歳4ヵ月~19歳10ヵ月のダウン症児者20名で,6種の格助詞,2種の態,表出の長さ,文法形態素出現比率について検査した.その結果,ダウン症児者は格助詞,態とも同精神年齢に該当する健常児より習得が遅れ,格助詞の誤りが多かった.表出の長さはMA6歳前半以前では健常児と同等であった.文法形態素出現比率はMA5歳後半以降,健常児と同値で,各自立語に1文法形態素を付加していた.これらの結果から,ダウン症児者は文法形態素を自立語に付加して表出しているものの,個々の文法形態素の習得が遅れ,習得しても不適切に使用する傾向があることが示唆された.
  • 山澤 秀子, 竹内 愛子, 飯高 京子
    2003 年 20 巻 1 号 p. 16-23
    発行日: 2003/04/30
    公開日: 2009/11/19
    ジャーナル フリー
    失語症者の慣用句理解を右半球損傷者と比較し,慣用句の種類・親密度が理解に及ぼす影響ならびに非言語能力との相関を検討した.対象は失語症者27名,右半球損傷者9名,健常者15名で,慣用句課題と非言語課題(WAIS-R絵画配列)を実施した.使用した慣用句は身体部位名を含む高親密度,低親密度,身体部位名を含まないものの3種類で,それぞれを原義が併存するものとしないものに細別した.パソコン画面に慣用句を含む刺激文を音声とともに提示し,慣用句の意味を説明する句を4個の選択肢から選ばせた.主な結果は,(1)脳損傷2群は健常者に比べて低い成績であるが,失語症者と右半球損傷者の間には差がない,(2)失語症者は親密度の高い慣用句のほうが低いものより理解しやすい,(3)原義併存による理解促進効果はみられない,(4)失語症者は身体部位名を含む慣用句の理解が悪い,(5)右半球損傷者では慣用句課題と非言語課題の相関傾向がみられる,であった.
  • 飯高 京子
    2003 年 20 巻 1 号 p. 24
    発行日: 2003/04/30
    公開日: 2009/11/19
    ジャーナル フリー
  • 吉田 研作
    2003 年 20 巻 1 号 p. 25-29
    発行日: 2003/04/30
    公開日: 2009/11/19
    ジャーナル フリー
    235人の中高生を対象に,「帰国子女」のアイデンティティ形成にみられる要因を調査した.その結果,滞在年数や友達の数,そして言語能力が影響していることが明らかになった.しかし,言語能力といっても外国語と日本語では,話す,聞く,読む,書くの4技能やコミュニケーション能力の影響はそれぞれ異なっていた.外国語の場合は,4技能の中でも特に聞き取りと話す能力,すなわち相手の話を理解し,自分の意図を正しく伝えるというコミュニケーション能力の重要性が示された.日本語の場合は,特に読み書き能力が日本人としてのアイデンティティと高い相関を示した.また,2つのアイデンティティ(外国人として,日本人として)とその差との観点から「帰国子女」が自分のアイデンティティを考えるとき,外国人度の判断より日本人度の判断に関して個人差がみられ,その背景に潜む彼らの心の葛藤を示唆している点も注目すべきであると考えられた.
  • 松浦 紀子
    2003 年 20 巻 1 号 p. 30-33
    発行日: 2003/04/30
    公開日: 2009/11/19
    ジャーナル フリー
    ネパールは多言語社会の国で,しかもその識字率は低く,識字教育の必要性が要望されている.この論文では,筆者が行っているネパールの一方言であるカーリング語の識字教育の取り組みについて紹介し,母語方言に対する住民の考え方の調査,識字教育のための教科書の作成,それに識字教育を補助する地域アシスタントの養成の活動について述べた.ネパールにおける母国語教育の困難性から考えるに,教育者だけでなく言語学者からの支援も不可欠であることを強調したい.
  • 上野 直子
    2003 年 20 巻 1 号 p. 34-39
    発行日: 2003/04/30
    公開日: 2009/11/19
    ジャーナル フリー
    在日外国人幼児へのコミュニケーション援助のあり方を事例をとおして検討した.彼らの言語獲得に影響を及ぼす要因の主なものとしては,(1)家庭での言語環境,(2)保育園(家族以外)の言語環境,(3)在日の形態,(4)両親の考え方,(5)子どもの会話能力などが挙げられる.在日外国人幼児は,日本語と親の母語,それぞれの言語の背景に潜む文化や価値観が複雑に絡み合った環境の中で,常に混沌と混乱にさらされて生活している.一方,家族は,子どもの日本語獲得を目の当たりにして,自分の母語に裏付けられた価値観を否定されたような感傷に見舞われる.そこで,子どもへの直接的なアプローチだけでなく,家族への援助が重要だと考えられる.家族への援助に際しては,(1)家族への来談動機の確かめ,(2)環境調整をする際の家族の意志決定の尊重,(3)子どもの主たる養育者を誰と考えるか,が重要な鍵となる.
  • 角山 富雄
    2003 年 20 巻 1 号 p. 40-44
    発行日: 2003/04/30
    公開日: 2009/11/19
    ジャーナル フリー
    本稿では,海外帰国子女のアイデンティティと使用言語の関係を論じた吉田氏の発表,ネパールにおける識字教育と母語についての松浦氏の発表,在日外国人家族に生まれた障害児の言語習得を論じた上野氏の発表についてコメントしながら,多言語生活がもたらすバイリンガル言語摩擦や文化摩擦など,世界のグローバル化にともなうさまざまな問題について考えてみたい.多言語が併在する環境は,我々のボーダーレス感覚をあおり,方言や病気,障害,死など,日常感覚の境界を越えた向こう側のものごとをいっそう浮彫にさせる.それは,言語生活に内在する人間学的意味,つまり,ことばによる意味価値の構築や交信,とりわけ,ことばによる支配と深く絡むのではないだろうか.多言語生活をよりよく生き抜くためには,我々が自分とは異なるものたちとの折合いだけでなく,自分自身との折合いをつけることが肝要なのである.
  • 2003 年 20 巻 1 号 p. 53
    発行日: 2003年
    公開日: 2009/11/19
    ジャーナル フリー
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