Journal of Kanagawa Sport and Health Science
Online ISSN : 2436-7249
最新号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
原著論文
  • ──和道流の成人空手修行者を対象とした探索的検討──
    菅谷 麻衣, 清水 安夫
    2023 年 57 巻 1 号 p. 1-15
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/23
    ジャーナル フリー

    【問題と目的】

     近年,日本固有の武道である空手は,世界中で広く普及するに至った。しかし,多くの人々が空手の修行を続ける,具体的な心理的な要因や動機づけに関する研究は限定的である。そこで本研究では,自由記述式の質問紙法により,空手の稽古を継続させる心理的動機づけの要因を抽出及び類型化し,将来的に空手修行者に特化した動機づけを測定する心理尺度を作成するための探索的研究を目的として実施した。

    【方法】

     2022年7―8月に,「成人の空手修行者の動機づけに関する質問(空手を修行する理由や意欲)」について,Google Formを用いた自由記述式によるオンライン調査を実施した。調査対象者は,都内の全日本空手道連盟和道会支部の成人空手修行者11名(男性7名,女性4名,年齢20―40歳)であった。サンプリングしたデータは,テキストマイニング法により分析され,文章を単語の単位に区切り,品詞を判別することで頻出単語を抽出する「分かち書き作業(形態素解析)」及び頻出語の関連性とクラスター構造を図式として可視化する「共起ネットワーク分析」を行った。さらに,共起ネットワーク分析の結果と空手や柔道における先行研究の結果を統合して,武道修行者の動機づけに関する統合モデルを構築した。

    【結果】

     分析の結果から,総単語数572語から頻出語である20語を抽出した。さらに,共起ネットワーク分析より,成人の日本人空手修行者の修行動機に関する記述は,1)Coaching and Instruction, 2)Awareness for Body and Mind, 3)Collective Effort, 4)Anti-Aging, 5)Learning and Trainingの5つに分類されることが示された。

    【考察】

     本研究の結果,空手修行者の動機づけの要因として,1)指導者との関係や社会的な繋がり,2)心身の健康や成長の感覚や学び,3)仲間との協同や競争心,4)若さの保持,5)鍛錬から得られる学びなどが,修行の動機として類型化された。本研究結果は,従来の武道研究では見られなかった分析方法により,空手道特有の修行継続に関する動機づけの要因を見出すことに成功した。今後は,さらに幅広い年齢層や修行経験を持つ対象者を含む調査を行い,空手修行者に特化した心理的測定指標を開発することにより,定量的に実証する必要がある。

  • 小林 牧人, 竹政 潤, 藤沼 良典, 吉冨 友恭, 清水 安夫
    2024 年 57 巻 1 号 p. 17-36
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/08
    ジャーナル フリー

    [緒言]

     海洋マイクロプラスチックごみの問題は,世界規模の環境問題のひとつである.マイクロプラスチックの発生源はさまざまであるが,我々は,これまでに人工芝競技場の表層構成物である人工の芝葉およびゴムチップが,マイクロプラスチックごみとなりうることを示した.そこで本研究では,人工芝競技場からの芝葉およびゴムチップの環境への流出を防止するための装置(トラップ)を作製し,その効用性について検討した.

    [方法]

     1)はじめに,下水管へとつながる排水枡を模したプラスチックコンテナを用いてシミュレーション実験を行った.コンテナの壁面に穴をあけ,実際の下水口のパイプと同じサイズの塩ビパイプをコンテナ壁面の穴に取り付けた.このパイプに種々のメッシュ数の金網で作った籠状のトラップをコンテナの内側にはめ込んだ.コンテナ内に芝葉あるいはゴムチップを入れ,水を注入し,芝葉およびゴムチップのコンテナ外への流出をどれだけ阻止できるか,トラップをつけない場合のコンテナ内の残存量と比較した.なお,トラップの作製費用は,使用した金網のメッシュ数(網目の細かさ),材質により異なるが,1つのトラップを作製するのに要した材料の費用は,360円−11,000円であった.

     2)次に,前述の要領で制作したトラップを実際の人工芝競技場の排水枡の下水口のパイプに装着して実証試験を行った.競技場の芝葉およびゴムチップは,雨水により競技場周囲の水路を経て排水枡に流れ込む.そして,排水枡の芝葉やゴムチップは,雨水とともに下水口から下水管へと流れる.ここでは,トラップをつけた場合とつけない場合に,排水枡に溜まる芝葉とゴムチップの残存量を計測して比較をした.

     3)最後に,排水枡の深さにより,芝葉やゴムチップの流出に与える影響についてもシミュレーション実験を行って調べた.その際,トラップは使用せずに,排水枡の下水口までの深さを2段階に設定したコンテナを作製し,排水枡の深さの違いにより芝葉とゴムチップのコンテナ外への流出量が変化するかどうかを調べた.

    [結果]

     1)トラップをつけることにより,コンテナ内の芝葉とゴムチップの流出は,トラップをつけない場合と比べて大きく阻止された.

     2)実証試験においても,トラップをつけることにより,排水枡内の芝葉とゴムチップの流出は,トラップをつけない場合と比べて大きく阻止された.

     3)水深の深いコンテナでは,水深の浅いコンテナよりも芝葉とゴムチップの流出が少ないことが示された.

    [考察]

     今回,我々が作製した金網製のトラップは,人工芝競技場からの芝葉とゴムチップの環境への流出を防止することが可能であると考えられる.また,排水枡の深さを深くすることにより,より多くの芝葉とゴムチップが排水枡内に滞留することも明らかとなった.本研究で作製したトラップには,特別な技術や材料を必要とせず,材料の購入費用も安価であった.今後は,トラップの実用化に向けて,トラップの耐久性や維持管理方法およびその制作・設置にかかる労力について検討する必要がある.

  • ──競技経験,ボールメーカー種が与える影響──
    三野 桃子, 石原 正規
    2024 年 57 巻 1 号 p. 37-51
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/08
    ジャーナル フリー

     現在,日本国内のバレーボールでは,主に2種類のボール(A社製品:ボールA,B社製品:ボールB)が公式に用いられており,使いやすさ(例えば,色,弾み具合,表面の摩擦等)の認識に大きな差があり,ボールBの方が使いやすいと感じる学生選手が多い(和所ほか,2018).本研究では,プレーに与える影響が極めて大きい予測能力に着目し,競技経験とボールメーカー種の影響を明らかにすることを目的とした.実験では,条件ごとの動画を用いて参加者(経験者,初心者)にサーブの落下地点の予測と確信度評定をさせ,実際の落下地点との距離と確信度をそれぞれ分析した.分析の結果,経験者群の方が,初心者群よりも距離の誤差が小さく,確信度も高かった.また,平均半径誤差(直線距離)には,遮蔽タイミングの効果もみられ,視覚情報の獲得に伴う予測精度の向上が示された.ボールメーカー種要因に関する分析により,直線距離では,ボールAの予測の方がボールBの予測よりも誤差が小さく,それは競技経験とは無関係であった.この誤差について座標系を用いて検討したところ,何れのメーカーのボールも,実際の落下地点よりy軸方向に関してマイナス側(手前)に予測されており,その予測バイアスは,相対的にボールAがエンドライン寄りであり,使いやすいとされるボールBはセンターライン寄りであった.ボールBはボールAと比べて予測精度が低いことが示されたが,これらメーカーの異なる2種類のボールは,奥行き方向に関する予測バイアスが異なることも示唆された.

研究上の問題提起
  • 山口 裕貴
    2024 年 57 巻 1 号 p. 53-62
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/08
    ジャーナル フリー

      This study delves into a legal case involving an injury sustained by a student in a public high schoolʼs baseball club, shedding light on the appropriate conduct expected of a teacher in the role of a club advisor.

      The aim of this study is to provide educators with insights that encourage them to carefully acknowledge their duties as club advisors, which include providing guidance and supervision aimed at safeguarding studentsʼ wellbeing and physical safety(a duty to maintain safety)and anticipating and preventing accidents(a duty to avoid consequences).

      The outcome of the trial went against the school(club advisor). The school(club advisor)was found to have breached its duty to maintain safety(please refer to the main text for details).

      Teachers should keep a notebook or use the notes app on their smartphones to check for and handle any “negligence” or “laxity” on their part, such as “doing things as usual carries no risks” or “accidents wonʼt happen.” They should also check for and handle any “omissions” in terms of guidance and any “oversights” from the perspective of preventing accidents. In the event of an accident resulting in legal action, teachers should be aware that these notes could be used as “evidence” in their defense.

書評
feedback
Top