経営哲学
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17 巻, 2 号
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投稿論文
  • 高尾 義明
    2020 年 17 巻 2 号 p. 2-16
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/06/08
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    Wrzesniewski and Dutton(2001)によって提唱されたジョブ・クラフティング概念は、現代の組織における仕事の絶えざる変化に対する従業員の能動性の発揮を描写するために有効な概念として定着しつつある。しかし、ジョブ・クラフティングというターム自体が魅力的であったことで多くの研究者を惹きつけた一方で、彼女らが示したジョブ・クラフティングの思想は後続の研究においては必ずしも精確に読み取られてこなかった。こうした事態はジョブ・クラフティング研究の発展を妨げている。そこで本研究では、ジョブ・クラフティング概念を提示したWrzesniewski and Dutton(2001)を学説史的な流れを踏まえて再検討し、彼女らが提示した既存研究に対する新奇性を明確にする。それらの新奇性とは、(1)従業員の能動性の強調、(2)認知的ジョブ・クラフティングの提唱、(3)仕事の意味やワーク・アイデンティティといった従業員の主観的経験の継続的な変化の焦点化である。次に、それらの新奇性を現在のジョブ・クラフティング研究がどの程度引き継いでいるかを確認する。第1の新奇性は既存研究において最も基本的な前提と見なされているものの、多くの実証研究は第2の新奇性を継承しておらず、第3の新奇性を継承している研究はごくわずかである。最後に、以上を踏まえてジョブ・クラフティング研究のいっそうの発展に向けた示唆を提示する。

  • 杜 雨軒, 張 宇星
    2020 年 17 巻 2 号 p. 17-41
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/06/08
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    「CSR・消費者」を手がかりとして行われてきたこれまでの先行研究では、様々な分野の優れた研究者が実りある研究成果を収めている。しかも近年では、科学計量学や計算機科学が進むにつれ、マクロ的視点に立ってCSR、消費者それぞれをキーワードとする計量書誌学的分析が年々増えてきた。そこで本研究は「CSR・消費者」両方に着眼し、可視化ツールCiteSpaceの活用によって1997年から2019年に至るまで当該分野における英語論文情報を俯瞰・抽出し、972本のサンプル文献における研究者や、研究機関、国家、論文自体、キーワード・名詞句間の共起表現を時間・空間的および内容的な知識マップによって捉えてみた。その上、キーワード・名詞句にバーストを検出し、サンプル文献のうち151本の高頻度被引用論文を掲載年度別・内容分類別的に解読・整理したことにより、該当分野における国内外の研究トピックス、萌芽的論点の発見とその変遷の可視化を成し遂げた。

    結果的には、「CSR・消費者」に関するテーマを取り扱っているのは、Pérezやdel Bosque、Peloza、Wang等の研究者、およびカンタブリア大学やペンシルベニア州立大学、フロリダ大学等の研究機関であり、主にスペイン、アメリカ、中国等に集中していることが分かった。そして共起分析やバースト検知によって選別された中心性の高い頻出語としては、Business Ethics、Stakeholder Theory、Citizenship、Product Response等の研究トピックスがあげられ、Credibility、Green、Communication、Disclosure等が当分野の先端的課題となっていることが判明した。また、当分野の研究は従来の財・サービス及びブランド、慈善活動等社会貢献についての考察から、ステークホルダー全体に及ぶCSRの諸側面についての横断的考察へと移行しつつあることが伺えた。一方、ここ数年、企業マネジメント自体、および消費者の認知的・心理的・行動的メカニズムに着眼する量的考察が逐年増えてきたことも分かった。

    伝統的な文献研究法とは異なり、本研究は文献レビューを大規模学術論文データに基づく計量書誌学的な頻出分析・ワード分析と結びつけ、「CSR・消費者」研究の有用性と客観性を考えようとしたものであり、これまでにない新規性と学問的意義を持っている。

  • 柴田 明
    2020 年 17 巻 2 号 p. 42-59
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/06/08
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    本稿は、ドイツの経済倫理・企業倫理において展開されている「オルドヌンク倫理学」の理論的観点から、企業倫理の実践活動、特にルール形成・ルール啓蒙活動を検討するものである。まずホーマンやピーズらの見解を中心にオルドヌンク倫理学の理論的主張を簡潔に再構成し、彼らの主張が、「ジレンマ構造」を核として、3つのレベルから企業の責任のあり方を議論していることを確認する。続いて、彼らの理論的主張から見て重要な、企業のルール形成活動やルール啓蒙活動について、ロビイングやルール・メイキング活動、パブリック・アフェアーズ活動の実態を取り上げる。そしてそれらの活動がオルドヌンク倫理学の観点から見てどう解釈できるのかについて検討を行い、最後にまとめる。

特集1 地域活性化に向けたイノベーション
  • 粟屋 仁美
    2020 年 17 巻 2 号 p. 60-74
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/06/08
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    本稿は、カープにより広島に生じた経済効果を地域活性化と捉え、その背景と要因を、ファンとカープ球団間の関係に解を求め考察したものである。

    プロ野球ビジネスの変遷は、プロ野球団を所有する親会社の産業の変化、技術の発展によるメディアの変化等、コンテクストの面より確認できる。特にプロ野球再編問題が生じて以降の親会社の産業やメディアの変化は、球団のファンへのアプローチ手法を変えた。時を同じくしてSNS等が普及したことで、ファンは多様化し、贔屓球団も偏りが低減した。これはプロ野球団のドメインが変わったといえる。

    このようにプロ野球ビジネスが変遷する中で、カープは他球団と異なる特色をいくつか持つ。個人所有の球団であり、親会社の影響を受けることもなく、個人経営者が広島に対するコミットメントを愚直に遂行していることや、球団の創設や球場の建築は、広島の経済界、自治体、住民により発意されコスト負担がなされてきたことである。考察の結果、広島に居を構えるカープファンは、株主的機能と類似した所有者意識を有していることを導出した。よってカープ球団により生じた現在の広島の地域活性化は、カープの広島に対するコミットメントとカープの株主機能的なステークホルダーにより生じたものといえよう。球団、ファン等の個の最適が、プロ野球全体のコンテクストとあいまって、広島全体が活性化され全体最適を生じているとも解釈できる。

  • 木村 隆之
    2020 年 17 巻 2 号 p. 75-89
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/06/08
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    近年、地方創生やソーシャル・ビジネスへの注目の高まりから、経営学領域においても地域活性化を事例とする研究が増えている。なかでも代表的なのはソーシャル・イノベーション(SI)・プロセスモデルに関する議論があるが、そこにおける地方自治体の存在は、正当化の源泉であり資源と事業機会を提供するという行政の役割概念と同一視されてきた。しかし、地方自治体は、法制度の整備や制度設計により、地域内外の資源を新結合し地域活性化を強力に推進し得る、強力な変革主体として分析可能である。本論文は、地方自治体をSIプロセスの中心に捉え直すことで、地方自治体が社会企業家としての行動をとることの可能性について指摘するものである。社会企業家が社会問題の解決を目指し、動員可能な資源を利用した事業を開発することで社会問題の解決を図るのであれば、地方自治体もまた、地方自治を取り巻く制度的環境の下で構造的不公平に晒されている存在であり、地域活性化のために自らの裁量で動員可能な資源を用いた事業を構想し実行する。さらには地域内で生じた草の根的なSIを、国政レベルに紐づけることにより資源動員を行うという独自の役割を果たしていくことが可能な存在である。

    そのことを経験的に裏付けるために、島根県隠岐郡海士町の島嶼活性化事例を分析する。島嶼などの閉鎖された土地や過疎化が進む地域では特に、地方自治体が企業家的役割を担わねばならない。海士町事例では、自治体が主導となり島の資源を利用し、外需を獲得するという方策をとり、海士町でビジネスを試みようとする島外起業家たちの自助努力を取り込みつつ、民間企業が設立されていった。更に、外部人材獲得を継続するために町営の事業が進められ、多数のヒット商品や新会社設立を生み出していった。この様に海士町は自治体が企業家的役割を担うという、これまでのSI研究とは異なる地方自治体の役割を明らかにしている。

  • 大城 美樹雄
    2020 年 17 巻 2 号 p. 90-96
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/06/08
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    立命館大学にて開催された第36回経営哲学学会全国大会において統一論題として報告した内容に発表後の質疑応答等にて指摘を受けたことを踏まえて、まとめた。統一論題として掲げられた「地域活性化に向けたイノベーション:民間・自治体・N P Oの取り組みに着目して」ということを基に、自治体としての沖縄県の取り組みについて紹介し、沖縄と経営哲学の関係性についても論じた。

    沖縄県の取り組みとしては、商工労働部アジア経済戦略課における、次の2つの視点から沖縄県の地域イノベーションを推進しているのであるが、1) 沖縄県アジア経済戦略構想、2) 沖縄国際物流ハブ活用推進事業、のうち今回は、1) の取り組みについて考察した。

    さらに、これらの事業を展開するうえで、次のような5つの重点戦略を策定していた。①アジアをつなぐ、国際競争力ある物流拠点の形成、②世界水準の観光リゾート地の実現、③航空関連産業クラスターの形成、④アジア有数の国際情報通信拠点“スマートハブ”の形成、⑤沖縄からアジアへとつながる新たなものづくり産業の推進、以上5つである。

    また、特に島袋は「生命の尊厳を最高の価値基準とする」という表現にもあるように、「生命」に対する畏敬の念は強く持っていた。その思想、信条、哲学は、どこからきたのか、どこへ行くのか、について説明を丁寧に行なった。

    沖縄出身の島袋にとって、「ぬちどぅ宝(命こそ宝である)」ということは、沖縄が経験した「唯一の地上戦」ということのみならず、自らの戦争体験から出陣の際に「死」を覚悟したことにより、さらに強く「生命」への想いが強くなり、その「想い」は、経営哲学学会へと結実するのである。

    また、今年は、図らずしも本学会創設者の島袋嘉昌の生誕100周年(1920年 大正9年生まれ)という記念の年となっており、その意味でも、沖縄と経営哲学に関する創設者の「想い」を論ずるにふさわしい年となっている。

特集2 地域経営における経営哲学
  • 小田切 康彦
    2020 年 17 巻 2 号 p. 97-109
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/06/08
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    パブリック・ガバナンス(public governance)論は、従来の政府中心の統治体制ではなく、多元的な統治の担い手を政府に代えて設定する視点を強調するが、そのような公共における担い手のいち主体として期待されてきたのがNPOである。しかしながら、既存研究では、NPOが果たす役割は多様・多義に論じられ、その定義に合意が得られていない。また、議論が個々の国の文脈に強く依存していることや、実証的研究が乏しいこと等、多くの課題が指摘されている。本稿は、NPOの果たす役割について、その「機能」の視点から、日本の実態を体系的に捉えることを目的とした。まず、日本の実態を分析するための枠組みの検討を行い、NPOの機能として、サービス提供、アドボカシー、コミュニティ構築、という3つを設定した。つづいて、この分析枠組みを基に、日本におけるNPOの機能の実態を、独立行政法人経済産業研究所が実施した「平成29年度日本におけるサードセクターの経営実態に関する調査」のデータを用いて定量的に明らかにした。分析の主要な結果として、(1)特定非営利活動促進法や公益法人制度改革等による新しい制度の下で活動する脱主務官庁制の法人は、サービス提供に加えアドボカシー等のマルチな役割を果たしていること、(2)大規模なNPOほどサービス提供の比重が大きいこと、(3)所在地が都市部のNPOほどアドボカシー活動に注力していること、(4)NPOの代表の経歴が活動内容に影響していること、(5)日本の実態としてはアドボカシーの比重が極めて小さく、サービス提供とコミュニティ構築の2つが主たる役割であること、等が明らかになった。

  • 森 裕之
    2020 年 17 巻 2 号 p. 110-123
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/06/08
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    グローバル経済と国民国家による巨大な政治経済システムが不安定化し、人口の少子高齢化が進んでいる。これらの社会状況は地域の社会経済主体が相互に協力し合うことを通じて、地域を持続的に発展させていくことを求めている。それを政策的に取り組んでいくためには、コミュニティをベースにした政策実践が不可欠である。この動きは世界的に共通したものとなっている。

    しかし、合理的個人主義を基礎におく主流派経済学をはじめとする社会科学においては、コミュニティが理論の中へ位置づけられてくることはなかった。その例外としてのメリット財概念は、コミュニティと経済学をつなぐ論理を有している。

    コミュニタリアニズムでは、コミュニティを構成するものとして個人のみならず企業等も位置づけている。そして、コミュニティにおける地域経済の独自の重要性についても主張されてきた。

    これらの実践は日本においても進められてきた。その典型例として、地域の経済自立化を追求してきた長野県飯田市の取り組みがある。また、国全体としてみても、コミュニティに基礎をおく地域政策を求める公共サービスの制度改革がなされてきた。

    このような状況は、それを支えるための理論としての地域経営論の構築を求めている。

  • 高橋 勅徳
    2020 年 17 巻 2 号 p. 124-134
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/06/08
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    本論文の目的は、民間企業が地域経営に果たす役割について、ソーシャル・イノベーションのプロセスにおける第2のダイナミズムという新たな理論的視座から、分析していくことにある。このために本論文では、Mulgan(2006)、谷本(2006)らによって提唱された、ソーシャルイノベーション研究におけるプロセスモデルを企業家精神のもたらすダイナミズムの観点から再検討を行い、地域活性化における民間企業の役割を捉える理論的視座を提示する。その上で、沖縄県島尻郡座間味村におけるダイビングを中心としたエコツーリズム事業の形成事例の分析を通じて、地域活性化に求められる民間企業の新たな役割と求められる行為を考察していく。

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