本稿では日本語-ベトナム語機械翻訳システムにおける日本語の名詞修飾構造「N
1のN
2」の翻訳処理について述べる.日本語では名詞が名詞を修飾する場合は必ず「の」を介して「N
1のN
2」という形を取る.「の」によって結びつけられた2つの名詞の意味関係は, 連用補語の連体化, 述語名詞の連体修飾語化, 所有/全体・一部の関係など多様である.ベトナム語ではこの構造は, N
1とN
2の意味関係に依って様々な前置詞 (
σ, có, cua, 等) を使い分けたり, いくつかの異なった語順の多様な形で表現される.日本語を英語に翻訳する場合もほとんど同様の問題があり, 様々な前置詞 (
at, in, with等) を使い分ける.「N
1のN
2」については, これまでに言語学上の研究としても, 機械翻訳に関する研究としても多くの研究がなされてきたが, 研究対象とされてきた言語対はほとんどが日本語-英語である.本稿で対象とするベトナム語については, 日本語-ベトナム語機械翻訳という観点からの研究はまだほとんど無い.本稿では, ベトナム語の名詞-名詞修飾構造を日本語の名詞-名詞修飾構造「N
1のN
2」との比較対照において6種類に分析整理し, 日本語の「N
1のN
2」のベトナム語への翻訳規則を提案した.また, これらの規則を日本語-ベトナム語機械翻訳システムjaw/Vietnameseに実装して, 翻訳実験を行った.270例の「N
1のN
2」に対して約70%の正解率を得ることができた.構文的特徴や意味属性を手がかりに「N
1のN
2」の訳し分けの規則を考えるという点では, 対象が英語である場合と比較して特に異なる手法を必要とするというわけではない.重要なことはベトナム語の言語事象の収集と分析であり, 日本語との対応関係の分析である.本稿はこれらの点についての研究を行ったものである.
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