日本体育学会大会予稿集
Online ISSN : 2424-1946
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第67回(2016)
選択された号の論文の881件中151~200を表示しています
一般研究発表(01) 体育史
  • 「キネマニュース」に着目して
    崎田 嘉寛
    p. 86_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     第10回オリンピック競技大会(1932、ロサンゼルス)は、国内外の情勢変化を背景に、オリンピックに対する日本社会の意識が変化する起点として位置づけられている。そのため、この変化に深く関与したメディアを視点とした先行研究が包括的に蓄積されている。ここでの主たる資料は、新聞や雑誌等の印刷メディアである。一方で、国内の映像会社やフィルムライブラリーには大会に関する動的映像(以下、映像)が散逸的に蔵置されている。また、今日では典拠を不問にすれば、インターネットを介して簡易に映像を視聴できる。そして、これらの映像からは、印刷メディアによる記述を上回る情報を導出することができよう。しかし、体育・スポーツ史研究において、映像資料を活用する方法論および史料批判に関する知見は十分に確立されているとは言い難い。そこで本研究は、第10回オリンピック競技大会に関する市販のニュース映画「キネマニュース」を対象として、フィルムの復元から映像処理過程を報告し、資料批判について試論を提示するとともに、映像内容を分析する際の歴史的視点について検討することを目的とする。

  • 『万国教育連盟報』第4号(1928-1929)に注目して
    和田 浩一
    p. 86_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     オリンピズムへの無理解に危機意識を募らせつつ1925年にIOC会長を辞任したピエール・ド・クーベルタン(1863-1937)は、その直後に万国教育連盟を創設した。本研究では、4年間に渡って発行された計4冊の連盟報のうち、連盟の活動が総括されている第4号(1928-1929)を取り上げ、IOC会長辞任後にクーベルタンが示した問題意識を明らかにし、オリンピズムの内実を再検討する。連盟報第4号によれば、万国教育連盟の活動には2つの目的があった。1)中等教育や成人教育に対して、従来とは異なる原理に基づいた新しい教育改革プログラムを示すことと、2)「現代都市」が未来の教育学の中枢機関として機能するよう、特定の仕組みや取り組みを示唆することである。オリンピズムとの関連で特に注目すべきは、(1)一般教養はすべての人間が学べるように、そして人生を通した学びとなるようにしなければならない、(2)早期からの専門教育をやめ、「全体を考慮しながら学ぶ」必要がある、という2つの指摘である。IOC会長辞任後に示されたこれらの指摘は、当時のオリンピック・ムーブメントにおいて理解に至らなかったオリンピズムの内実を描くものであると解釈できる。

  • 福田 佳太
    p. 87_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     1972年の第11回オリンピック冬季競技大会(札幌大会)に向けて、札幌市では、教育委員会発行の手引きをもとに、文部省資料等を活用した「オリンピック学習」が展開された。そこでは、「オリンピック大会の意義と内容について、児童・生徒に学習させるとともに、国際理解について関心を深めること」が目的とされ、市内学校において多様な実践が実施された。本研究では、文部省が発行した「オリンピック読本」(1968年)・「雪と氷のスポーツ」(1969年)をはじめ、札幌ウィンタースポーツミュージアムや札幌市中央図書館等の資料をもとに、札幌大会に際するオリンピック学習の特徴を検討する。また、大会後の各学校における継続の有無についても、事例的に分析する。本研究の成果は、日本のオリンピック・ムーブメントの歴史に新たな視座を与えるものとなる。

  • ベルリンに届けられた大島鎌吉の作成名簿から
    曾根 幹子
    p. 87_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     大島鎌吉はベルリンのオリンピックスタジアム側に設置される「平和の鐘」の台座に、世界の戦没オリンピアンの名前が刻印されることを聞き、日本人戦没オリンピアンの名簿を作成し、1982年7月に自らベルリンに持参した。当時の新聞記事には「世界24ヵ国280人の戦没オリンピック選手とともに、30名の日本人戦没者の名前も台座に刻印された」と報じられている。ところが現地調査では、ベルリンの「平和の鐘」の台座に戦没者名は刻まれておらず(現在は台座もない)、ベルリンスポーツ博物館が保持している日本人戦没オリンピアンリスト(5名)と、大島がベルリンに持参した名簿の名前は一致しなかった。また1964年に靖国神社で開催された展示会「五輪選手を遺品でしのぶ」に記載された戦没選手名(31名)の一部は、大島の作成名簿から除外されていた。本研究は、日本とベルリンに存在する戦没オリンピアン名の適否について可能な限り検証し、大島の作成名簿の更新を目的としている。併せて、なぜ日本人戦没オリンピアン名をめぐる混乱が起きたのか、「平和の鐘」の台座に「刻まれた」はずの戦没オリンピアン名はなぜ刻印されなかったのか、その真相の解明を試みた。

  • 新井 博
    p. 87_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     スキー競技会における滑降及び廻転といったアルペンスキー競技種目の開催は、大凡昭和5年シュナイダーの来日により始まった。新井は先の研究で、当初は距離とジャンプといったノルデック種目だけで、アルペン種目が全日本スキー選手権大会で正式種目になるのは昭和11年の第14回大会であった。その背景には、明治神宮スキー大会や1940年札幌オリンピック大会開催予定があったことを明らかにしてきた。本研究では、昭和5年以降から昭和11年のアルペン種目が正式種目になるまでの間に、スキー競技会におけるアルペン種目の地域的な広がりの特徴に触れてみたい。調べる内に、それらの特徴は歴史的にアルペンスキーの伝統とノルデックスキーの伝統を持つ地域により差があること、また地政学的な事柄やスキーツーリズムの発展が関係していたことが明らかとなった。

  • 大久保 英哲
    p. 88_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     石川県にスキーがもたらされたのは1916(大正5)年、白山麓白峰村郵便局長松原伝吉が金沢郵便局長の命を受け、高田のスキー集会に参加し、帰途、金沢の大乗寺山で滑ったのが最初といわれている。その後第九師団や四高、石川師範学校などでも行うようになり、1920年代には広く注目されるようになった。この機を捉えて行われたのが、石川県教育会主催、第1回スキー講習会(1923)及び第2回講習会(1925)であった。県内各地の郡市から教員、青年団幹部合わせて51名が、雪深い能美郡阿手及び五百峠に集まった。当時そこには尾小屋鉱山があって、軽便鉄道や採掘坑道が通じており、宿泊・飲食施設も利用できたのであった。それまで郵便逓送や軍隊あるいは同好の人々に限られていたスキーを、県内各地の学校や地域に普及・拡大する上で大きな役割を果たしたこの講習会について、報告する。

  • 1950年IOCコペンハーゲン総会の議事録の検討を中心に
    和所 泰史
    p. 88_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     第二次世界大戦終結後、日本は1948年開催のオリンピック大会(ロンドン)に招待されず、次の1952年オリンピック大会(ヘルシンキ)の参加を目指すこととなった。当時の日本がオリンピック大会に招待されるための条件の1つは、日本のNOCがIOCから承認を受けることであった。先行研究によると、日本のNOC承認は1951年IOCウィーン総会であったとされている。しかし、このウィーン総会に出席した東龍太郎の報告および総会の議事録を見るかぎり、IOCはこの総会で日本の1952年オリンピック大会参加を認めたものの、NOCを承認したという記録は存在していない。そこで本研究では、ウィーン総会の約1年前にあたる1950年IOCコペンハーゲン総会の議事録に着目し、日本のNOCがいつIOCによって承認されたかを明らかにすることとした。本研究の検討結果、日本のNOC承認に否定的な意見を述べるIOC委員が存在していたものの、IOC会長エドストロームやアメリカのIOC委員らの援助もあり、日本のNOC承認は否決されることなく、可決し、大会への参加を議論すべきとの報告がIOC副会長ブランデージからなされていたことが明らかとなった。

  • 事典用解説を念頭に
    木下 秀明
    p. 88_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     日本水泳連盟の前身である大日本水上競技聯盟(以下「水連」)は、大日本体育協会が競技団体連合体に改組するのを機に、1925(大正14)年4月24日に国際水泳競技界を念頭に置いて設立された。これに対し、その半年後の同年10月1日に武道である日本泳法の競技としての向上普及を目指して発足したのが、日本游泳聯盟(以下[游連」)で、隅田川水練場の系譜とされる。文部省が学生参加を事実上禁止した1926年の第3回明治神宮競技大会「水上競技」では、その準備委員の主体は水連ではなく游連であって、プログラムは、前回実施種目を踏襲した第1部と新規の日本泳法種目だけの第2部の二本立てとされた。ともに創立間もない時期にあった水連と游連とは、甲乙つけがたい存在だったのである。しかし、游連は1930年以降神宮大会運営から除外され、水連との協調にも失敗して弱小団体化した。その終焉は不明であるが、1941年には日本泳法の競泳と競技の第14回大会を開催している。水連は1931年に標準泳法を制定し、1933年に水泳史研究会を発足させた。発表では、これが、游連を意識しての措置であったことを明らかにする。

  • 山脇 あゆみ
    p. 89_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     本研究の目的は、日本泳法の発祥と展開、泳法を整理し、日本泳法各流派における泳法の変容及び、日本泳法の伝播事例の検討から、伝播に伴う泳法の変容を明らかにすることである。そのために、鎌倉時代から江戸時代にかけて起こった日本泳法の発祥と展開及び、各流派における泳法の変容、近代以降の日本泳法流派の成立と近代教育制度への日本泳法の導入、日本泳法の伝播、それに伴う泳法の変容について検討した。鎌倉時代から江戸時代にかけて起こった日本泳法は、泳法の変容が流派の分派を生じさせ、結果として流派としての意識を強めるとともに、流派ごとに独自に発展を遂げた過程が明らかになった。また、日本泳法は、教育制度へ導入するために生じた変容、流派の概念が取り除かれたことによって生じた変容を伴ってきたことも明らかとなった。本研究の結果から、日本泳法の変容は、野球やサッカー、柔道のように、現在、ポピュラーなスポーツの、国際的な組織化や大衆化、観衆の増加に伴う変容過程とは異なる特徴が見いだされた。

  • 小谷 究
    p. 89_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     バスケットボール競技では、競技時間が終了した時点で得点の多いチームが勝ちとなる。このことから、ゲーム終盤にリードしているチームは、得点を試みることなく、パスやドリブルで時間を消費して勝利を得ようとするストーリングという戦術を用いる。本研究では、1920年代後半から1930年代の日本におけるバスケットボール競技のストーリングに着目し、当時のルールを検討したうえで、ストーリングが採用される過程と使用の実際について明らかにすることを目的としたい。1920年代後半の日本では、5秒、10秒、30秒ルール、バックコートヴァイオレイションが規定されておらず、ストーリングを実施し易い状況であった。日本では、1926年頃より雑誌や指導書によりストーリングが紹介されるようになり、さらにはハーフコートにおいてディフェンスを展開する3-2ゾーンディフェンスが流行したことにより、ストーリングを採用し易い条件が整い、実際にストーリングを採用するチームが現れるようになった。一方、ディフェンス戦術ではストーリングに対抗してオールコート・マンツーマン・プレスディフェンスが用いられるようになった。

  • 藤坂 由美子
    p. 89_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     これまでの日本体育史では、明治初期の体操指導や実践の試みについて、各種体操図および政府直轄の学校で実施された体操や遊戯が中心に報告されてきた。一方で、当時の一部地域においては、その土地の地理的、財政的、人的影響を受けながら、独自の体操実践が見られたことも明らかとなっている。つまり、これまで未見であった地方の資料から、明治初期の新たな体操・遊戯実践の様子を窺い知ることがまだまだ可能であるといえる。そこで、本発表では、官立師範学校が置かれた地域の一つである新潟県に主に焦点を当て、初期の体操・遊戯がどのように注目され、実践が試みられたのかを考察する。新潟県では、鞦韆や縄とび等の運動器械が、教室に設置される洋式のテーブル・椅子の導入と同様に、新規な教授マテリアルとして注目され、県内の学校教員への授業法伝習を契機に伝達されていく。その情報伝達の役割を担ったのが、東京師範学校において授業法を研修した県内出身の小学教員(訓導)田中鼎らであった。新潟県は東京師範学校からの積極的な授業法研修を試み、県内への体操・遊戯の普及に努めた県の一つであったといえる。

  • 体操伝習所における体操とその音楽伴奏について
    曽我 芳枝
    p. 90_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     筆者はこれまで唱歌遊戯の成立過程について『雅楽録』をもとに研究を進めてきた。その過程で、東京女子師範学校附属幼稚園で主任保母をしていた松野クララが、1880年から体操伝習所において洋琴弾方嘱託職員として勤務していたことを知った。現代にあっては運動と音楽の結びつきの事例は豊富に展開されるに至っているが、日本の近代体育草創期にあっては、身体運動としての体操に関して音楽伴奏はどのように捉えられていたのかを究明する必要があると考えられる。この初期の段階においての体操と音楽との関係については必ずしも十分な研究がなされてこなかったといえよう。本研究は、体操伝習所のお雇い外国人リーランドが関係した体操書と、体操伝習所とほぼ同じ時期に日本の音楽教育の基礎確立の課題を負って設立された音楽取調掛の資料を保存している東京芸術大学附属図書館貴重書資料データベースの資料を検討して当時の体操と音楽伴奏の関係について考察した。その結果、日本の近代教育の創設期にあって、幼稚園での唱歌遊戯の音楽伴奏だけでなく体操(主に軽体操)においてもまた音楽伴奏は必要と考えられ、体操伝習所において取り入れられたことが明らかになった。

  • 1875年アソシエーションゲームの継承
    秋元 忍
    p. 90_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     1875年に設立されたホッケーアソシエーションは、イングランド初のホッケーの統括組織であった。この組織が制定した統一ルールに基づくゲーム(1875年アソシエーションゲームとする)は一定の普及を見たものの、組織自体は存続しなかった。同名称の別組織が新設され、新ルールが示されたのは1886年であった。この新ルール制定に至るまでの、1875年アソシエーションゲームの実態については、地域のクラブの活動を中心に検討されてきた。しかし最初の統括組織の設立には二つの学校も関与していた。これらの学校が1875年アソシエーションゲームの展開に及ぼした影響については十分解明されていない。本研究では、この二校のうちマールバラ校に焦点を当て、1886年までの同校のホッケーのゲーム実施状況を検討した。結果、1874年以降、クリケット、フットボールに次ぐ集団スポーツとしてホッケーの活動が活発化し、校内外のチーム、クラブとの対戦を通して、1875年アソシエーションゲームが継承されていたことが明らかになった。様々な校内試合が可能であったがゆえに、同校におけるこのゲームの実施基盤は、同時期の脆弱なクラブ以上に強固なものであった。

  • 連邦政府スポーツ報告書を手懸りに
    寳學 淳郎
    p. 90_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     わが国のドイツ連邦共和国(以下、ドイツ)のスポーツ政策に関する研究の多くでは、スポーツ政策の基本方針、競技スポーツ、特定の施策(ゴールデンプラン、第二の道、トリム運動等)などに焦点があてられ、連邦のスポーツ政策の全般的な内容及び変容の分析などが不十分と考えられる。本研究では、連邦政府スポーツ報告書(以下、報告書)を手懸りに、1970年代の連邦のスポーツ政策の全般的な内容及び変容を検討した。1970年8月に連邦内務大臣によって提出された報告書は、連邦政府のスポーツ支援に関する最初の包括的な報告書であり、それは以降継続的に出され、その資料的価値は大きいと考えられるにもかかわらず、従来の研究では殆ど使用されていない。本研究では、主に1970年代の四つの報告書(第1次1970年、第2次1973年、第3次1976年、第4次1978年)を使用した。結果、報告書からは、1970年代の連邦及び関係各省等のスポーツ政策の内容、スポーツ支援を協力的、円滑に行うための組織づくり、ヨーロッパスポーツ代表者会議、ユネスコ会議等の国際会議における連邦の対応、西側諸国との協調などが明らかとなった。

  • 木村 吉次
    p. 91_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     学校運動会の歴史的変遷を明らかにする上において学校運動会がアジア・太平洋戦争の戦前と戦後においてどのような変容を遂げたのかということがひとつの重要な関心事である。運動会は昭和の15年戦争の敗戦を境にして日本の政治的経済的社会的変化と教育体制の再編を経験する中で一時的には中断したこともあるが種々の課題をかかえながらも生きのびて今日にいたっている。本研究は、愛知県南設楽郡千郷(ちさと)尋常高等小学校の昭和6(1931)年から同30(1955)年までの運動会について考察した事例研究である。学校運動会の歴史は学校により地域によりさまざまな差異をもって展開しているので、これを単純に概括して把握することはできない。ここに事例研究をつかさねなければならない理由がある。本研究では千郷尋常高等小学校が「大運動会記録」綴に残した資料を分析し、それをさきに研究した愛知県大野尋常高等小学校や茨城県菅間小学校の事例と比較しながら小学校運動会の戦前と戦後の変容を考察した結果を報告する。

  • 『諸學校職員録』、『中等教育諸學校職員録』を手懸かりに
    掛水 通子
    p. 91_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     本研究の目的は、戦前における女子師範学校・師範学校女子部体操科受持ち教員の実態を明らかにすることである。1903(明治36)年度『諸學校職員録』、1906(明治39)年度から1937(昭和12)年度『中等教育諸學校職員録』を手懸かりとした。1903(明治36)年度には、女子師範学校は11校、師範学校女子部は26校、他に男子のみや男女生徒混合の師範学校があった。次第に女子師範学校として独立し、1937(昭和12)年度には北海道以外の46府県に各1校の女子師範学校が設置された。1903(明治36)年度7校、1937(昭和12)年度43校の女子師範学校に体操科受持ち女子教員が配置されていた。1937(昭和12)年度には男子師範学校への体操科受持ち女子教員の配置はなかったが、体操科受持ち男子教師は44女子師範学校に配置され、男子教師数の方が多かった。出身校を明らかにできた体操科受持ち女子教師中、1903(明治36)年度は一人を除いて女子高等師範学校卒業生で、他教科と併せて体操科を受け持つ場合が多かった。1937(昭和12)年度には第六臨教体操家事科卒業生と体操学校卒業生がおよそ半々となった。

  • 1920-30年代を中心に
    藤川 和俊
    p. 91_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     近代日本の学校体育では、「学校体操教授要目」等において「技術の末に走る」ことが繰り返し戒められていたにもかかわらず、実際には「技術」習得を追求する授業が行われていたとされる。なぜ再三の注意喚起にもかかわらず、学校現場は「技術」習得を重視したのか。この問題について明らかにするためには、実践者である教師が「技術」習得についてどのように考え、授業を行っていたのか検討する必要がある。そこで本発表では、東京高等師範学校附属小学校で訓導を務めていた斎藤薫雄の実践を取り上げた。具体的には、指導案や授業記録、授業参観記等、実践に言及した史料を主たる手がかりとして、斎藤が「技術」習得の意義や指導法についてどのように考えていたのか、そのうえでどのような実践を行っていたのかを検討、考察した。斎藤は、特に尋常五年生以降の授業実践において、興味の喚起という観点から「技術」習得を重視していた。また、反復練習し熟練させること、優れた児童を褒めること、出来栄えを競わせること等を有効な指導法として実践していたことが明らかとなった。

  • 五賀 友継, 李 燦雨
    p. 92_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     日本武道文化の原形は、江戸時代まで伝わっていた武文化が、明治維新以降生まれ変わった近代武道にあるといえる。弓術は、いわゆる近代化政策の一環で、西洋式軍隊の導入に伴い無用の物となり、一時は絶滅の危機に瀕した。また、剣道や柔道と比べて、その運動量的観点から学校体育にも採用されなかった。このような状況の中、大日本弓道会は「体育」としての弓道に注目し、従来師弟関係の下で伝承されてきた流派弓術を否定、万人に対して普遍的な身体教育を目的とした。弓道の普及を積極的に進め、その規模を拡大し、戦前武徳会に匹敵する弓道統括団体に成長した。大日本弓道会機関誌『射道』及び『弓道』を中心とした関連資料から、同会の行った事業を分析した結果、会の創設者である根矢鹿兒が、元教師の知見を活かして学校教育の現場、特に女学校に対して積極的に弓道宣伝活動を行っていたことが明らかとなった。また、結核予防を念頭に、胸郭の発達及び身体強壮を唱え「弓道体操」の推進者でもあったことがわかった。

  • 永吉 由季, 榊原 浩晃
    p. 92_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     本研究は、リチャード・マルカスター(1530-1611)の『提言』(1581年)にみるexercise関連用語の用例とその意味・内容について明らかにした。同書の中でマルカスターは、英語(母国語)によって、子どもたちの訓練と身体運動のあり方にについて言及している。当時、マーチャント・テーラーズ校校長として学校教育におけるそれらの重要性や同時代の宗教教育の一端として、心身のあり方を論じていた。イギリス近代初期の当時の教育については、知性や精神(mind)の教育が想定されていたが、マルカスターは身体(body)の訓練と運動の必要性・重要性をいち早く主張していたことになる。exercise関連用語の用例として、(1)exerciseの規定詞(主に形容詞)にはどのような用例がみられるか、(2)exerciseの用語に伴う名詞句や複合語にはどのような用例がみられるか、そして(3)動詞のexercise(exercised)は、どのような用例がみられるか等を吟味した。その他にtraining、education、game(s) 、play等の用語と具体的な運動内容を示す用語についても検討した。

  • 1945年12月~1947年4月までのGHQ民政局及び対日合衆国人事行政顧問団の議論を通して
    岩佐 直樹, 來田 享子
    p. 92_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     日本の公務員制度は、GHQ民政局の意向を踏まえ、対日合衆国人事行政顧問団(以下、顧問団)が主導し、国家公務員法(以下、国公法)制定議論の中で確立された。1947年10月に制定された同法とこれに基づく公務員制度の形成過程を検討した研究は多岐にわたるが、同法第73条に記された能率増進の1つであるレクリエーション活動に着目した研究はみられない。本研究ではこの点に着目し、国公法制定過程におけるレクリエーション活動に関する方針について、GHQ民政局及びそこでの方針を引き継いだ顧問団における議論を検討する。検討の結果、(1)47年1月以降、顧問団の第4委員会は、公務員に対する個人の尊重の観点からレクリエーション活動を推奨し、もって職務遂行の効率を高める必要性を指摘したこと、(2)同委員会はレクリエーション活動の実施体制等を提言したことが明らかになった。GHQ民政局及び顧問団が国公法にレクリエーション活動を含めた背景には、公務員個人が社会的承認を得て職務にあたるという民主的な公務員制度の確立と「公務員を含むすべての労働者の雇用条件の改善」(竹前、1974)というGHQの労働政策があったと考えられる。

  • 赤澤 祐美, 來田 享子
    p. 93
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     従来の女子野球に関する歴史的検討では、大正期に高等女学校を中心に行われた女子野球は、女子には不適・過激であるとされ、1920年代半ばに衰退・消滅したと指摘されている。しかし、1931年発行の雑誌『野球界』において横井春野は、女子野球を奨励し今後普及に尽力する旨を述べている。女子野球が批判や禁止をされるなか、これを普及させようとした横井春野とはどのような人物であったのだろうか。横井春野は『野球界』の主幹を務め、少年野球・軟式野球の普及発展に寄与したことで知られているが、女子野球に関する活動については明らかにされていない。そこで本研究では、横井春野という人物に焦点を当て、著書や雑誌記事などから、その人物像と女子野球普及活動について検討した。その結果、横井春野は早稲田大学文学科史学科卒で、能楽や商業史などに精通した人物であり、野球だけでなく登山の大衆化にも尽力したことが明らかになった。女子野球普及活動としては、女子野球団結成を計画し『野球界』上で選手を募集したり、自身も主事として携わる大日本軟式野球協会や大日本少年野球協会が主催する大会で、女子の出場を認めるなどしていた。

一般研究発表(02) 体育社会学
  • 小副川 滉太, 原 祐一
    p. 96_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     体育の授業を指導するのが苦手な教師が一定数いることは、従来から指摘されてきた。体育授業に対する教師の苦手意識をめぐる研究には、性差の問題(宮尾ら、2015)や知識量・指導に関わる力量不足の問題(加登ら、2010)等が挙げられる。しかし、教師が過去の経験も含めて、なぜ苦手になったのかについては十分に検証されていない状況にある。デューイ(1934、訳書:2003)は、経験について「連続性の原理」について言及する。それは、現在の経験が過去の経験から何かを受け取ると共に、将来の経験に何らかの影響を与えるということである。このことは、就学期の快・不快経験が現在の運動・スポーツ態度に影響を及ぼしている(西村ら、2003)こととも関連が強い。以上のことを鑑みると、体育の指導をめぐる得意不得意という教師の意識は、過去の感情が多くの影響を及ぼしていると考えられる。そこで本研究では、体育授業が苦手な教師を対象に、その教師達が過去にどのような感情経験をしてきたのかということと、現在の指導場面における感情について結びつけながら検討するために再生刺激法を用いながら、苦手意識を持った原因とその内実を明らかにすることを目的とする。

  • HATOプロジェクトにおける調査結果から
    石澤 伸弘
    p. 96_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     教員の高齢化や体罰事件などに端を発した、部活動やクラブ活動など課外活動(以下、部活動)への問題点や限界説が叫ばれて久しい。最近では「部活顧問はブラック過ぎる」とのことで、中学・高校の部活動を巡り、顧問を務める教員の多忙さや、休日返上の活動などの問題点を改善しようと、若手教員らのネットによる署名活動も行われている(氏岡、2016)。北海道教育大、東京学芸大、愛知教育大、大阪教育大の4教育系大学が連携して、教員養成の高度化支援システムの構築を目指す「HATOプロジェクト」において、全国の小・中・高校の教員を対象に「教員の仕事と意識に関する調査」を実施し、5,373名より回答を得た。本調査では、上記した部活動に関する問題点を裏付ける結果が示され、「部活動・クラブ活動の指導が負担である」と回答している教員が小学校で約35%、高校で約60%、そして中学では約70%存在することが明らかとなった。

  • 中澤 篤史
    p. 96_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     発表者は、日本の学校運動部活動が歴史的にどのように形成され、拡大してきたのか、そして現在においてどのように維持されているのか、というその形成・拡大・維持過程を探究している。本発表の目的は、その一環として、全国中学校体育連盟の形成過程を明らかにすることである。中学校体育連盟は、各中学校の運動部活動およびそれらが参加する各種競技大会を統轄する団体であり、市区町村・都道府県・全国レベルで組織されている。運動部活動の歴史を明らかにする上で、中学校体育連盟の存在と影響は重要であるが、先行研究はそれらを十分に検討できていない。そこで本発表では、全国レベルの団体として1955年に結成された全国中学校体育連盟(現在は日本中学校体育連盟と名称変更)が、どのような歴史的背景の中で形成されたのかを記述する。資料は、各年度報告書の『情報交換誌』『会報』を主に用いる。

  • 4人の学生アスリートによる語りの分析
    金森 史枝
    p. 97_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     研究総合大学の学生は、学生生活において高度な内容の勉強や研究に取り組む必要がある。その中で大学公認の体育会運動部に所属し週3日以上活動に取り組んでいる学生は、その活動から何を修得しているのであろうか。学生アスリート4人の語りの分析から大学生活における体育会運動部の位置づけを明らかにし、活動の意義を考察した。データ採取については半構造化インタビューを用いて音声記録から作成した逐語録をデータとし、分析手法は、大谷(2008、2011)のSCATを採用した。その結果、4名は勉強を優先させつつ日々練習し、単にアスリートとして競技成績を伸ばすことのみならず、部活動を通して必要な専門的知識を修得し実践に努めていた。例えば、ロールモデルとなる先輩から、Aさんは組織マネジメントを、Bさんは行動力の必要性を学んだ。また、Cさんはコーチとの衝突を通して議論の仕方を修得し、Dさんは研究テーマを見つけるなど自分の将来に向けて必要な学びを修得していた。さらに、競技成績向上のため自炊による栄養管理を実践し学生アスリートとして日々求道的に己を律しており、文武両道の実践が人間的成長に繋がっていることが明らかとなった。

  • 青山 将己, 山口 泰雄
    p. 97_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     本研究の目的は、障害者スポーツ指導者の活動満足に影響を及ぼす要因を明らかにすることである。具体的には、活動満足に影響を及ぼす要因について説明する仮説モデルを設定し、障害者スポーツ指導者(有資格者6名、無資格者6名)に対するインタビュー調査を実施した。また、本研究では統計的データとして質問紙調査を同時に行った。インタビュー時間は一人あたり30分から45分であった。統計的データで得られた活動満足感を得点化し、高満足群・低満足群で比較した結果、高満足群では「活動内容」、「達成感」、「ソーシャル・サポート」が活動満足に強い正の影響を及ぼしていた。低満足群においては、強い負の影響要因として「技術志向性」、「ストレス」がみられた。また、高満足群・低満足群に関わらず、多くの指導者が指導技術よりも障害特性の理解について苦労していた。特に、知的・精神障害者に対する指導において、「パニックになったときの対処法」や「コミュニケーションを図りにくい」という意見があった。このことは指導活動におけるストレスにもなっていた。指導員養成講習会のカリキュラムを見直すなど、「障害特性」を学ぶ機会を提供していく必要がある。

  • 達成目標理論を用いた検証
    高松 祥平, 山口 泰雄
    p. 97_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     本研究の目的は、高校運動部活動における監督のコンピテンシーに対する選手の認知が、選手の達成目標を媒介として、競技パフォーマンスの認知に及ぼす影響を明らかにすることである。高校運動部に所属する330名の選手を対象に質問紙調査を実施した。監督のコンピテンシーに関しては、Myers et al.(2010)が作成したコーチングコンピテンシー尺度を援用し、達成目標に関しては、Conroy et al.(2003)が作成したスポーツ用の達成目標尺度を用いた。競技パフォーマンスの認知はMarsh et al.(1997)を援用した。監督のコンピテンシーに対する選手の認知は、選手の「遂行接近目標」を媒介として、選手の競技パフォーマンスの認知に正の影響を及ぼした。また、選手の「熟達回避目標」は競技パフォーマンスの認知に負の影響を及ぼした。すなわち、選手やチームに影響を及ぼす監督の行動が、他の選手と比べて優れていたいという選手の気持ちへと繋がり、自分自身の高いパフォーマンス認知に結びついている。一方、自分にはできないかもしれないと上達することに対して不安を抱いている選手ほど自分自身のパフォーマンスを低く認知していることが明らかになった。

  • 千葉 直樹
    p. 98_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     本研究では、2012年の「体罰」事件以降の時期に焦点を絞り、高校のバスケットボール指導者の暴力行為の実態を明らかにすることを目的にする。2015年の高等学校総合選手権大会でベスト32以上に進出した19都道府県の指導者を対象に、2016年3月に郵送調査を行った。回答者の40.1%は、選手時代に指導者からの暴力行為を受けていた。22.1%の指導者が「体罰」事件以前に暴力行為を選手に行ったことがあると回答した。一方で、2013年1月以降の時期では、5.8%の指導者が暴力行為を行っていた。この結果から、「体罰」事件以降に、暴力行為を行うバスケットボール指導者の数が少なくなったと考えられる。しかし、暴力行為の範囲を「ボールを投げつける」、罰走、暴言という項目まで拡大すると、28.8%まで暴力行為を行った指導者の比率は高くなった。以上の結果から、「拳で殴る」や「平手打ち」等の暴力行為は少なくなった一方で、暴言や身体的な苦痛を伴う懲戒などは依然として一部の高校バスケ部で行われていることが示唆された。さらに、先行研究の指摘通りに、暴力指導を受けた指導者ほど、選手に暴力行為を行う傾向が確認された。

  • 大学バレーボール部員に対する高校運動部をめぐる回顧的調査から
    村本 宗太郎, 松尾 哲矢
    p. 98_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     学校運動部活動(以下「運動部」とする)における体罰問題の従来の調査研究では、生徒に対する被体罰経験の有無や、その態様を問う研究が多くみられた。しかし、部員の運動部指導と体罰に対する考え方や、部員が指導者からの体罰を指導の一環と捉える意識の変容といった点に着目して行われた研究は少ない。運動部員は、入部した段階では指導者による暴力的な行為を体罰であると捉えていたが、運動部の活動に参加し指導者からの指導を長く受けることで、指導者による暴力的な行為を指導の一環であると捉えるような考え方の変容がみられるのではないだろうか。筆者が以前、体育会に所属する大学生を対象として行った調査結果から、バレーボール部員の被体罰経験は他の競技よりも高い割合でみられた。そこで本研究では、全国各地区のバレーボール1部リーグに所属する男女の部員を対象に、主に高校運動部に関する質問紙調査を行い、競技歴、競技実績、スポーツ観、被体罰経験、指導者に対する評価、体罰の捉え方及び意識変容等を質問した。それらの調査結果から、運動部員が体罰を指導の一環と捉えるようになる意識の変容に関する様相及び、その要因について検討を行った。

  • 明治から昭和初期の資料を対象として
    津吉 哲士
    p. 98_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     アスリートのコンディショニングとパフォーマンス向上にとって、トレーニングはもちろんのこと、栄養・食事が重要であることを疑う余地はない。トップアスリートを対象とした栄養サポートが開始されたのは、ソウルオリンピック(1988年)以降であり、その後は2001年に開所したJISS(国立スポーツ科学センター)の栄養スタッフによるサポートが積極的に展開され、2007年度からは公認スポーツ栄養士の認定制度が開始されたと報告されている。アスリートに対する栄養教育について田口(2013)は、選手のみならず、指導者はその重要性を認識してみずから学び、栄養と食生活についての知識と実践力を選手が養えるような栄養教育のプログラムを企画、立案する責任があると述べている。しかし、体育・スポーツの現場に目を向けると、選手の栄養教育に熱心な指導者がいる一方で、選手の食習慣にすら関心をもたない指導者も存在する。本研究では、そのような差異が生じる原因を検討する第一段階として、体育・スポーツの現場に科学知として「栄養」がいかにして関わってきたのかを明治から昭和初期の資料を対象として、社会的背景を踏まえながら明らかにすることを目的とした。

  • 原 祐一
    p. 99_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     「なぜあなたはエベレストに登りたかったのですか」という記者の質問に対して「それ(まだ誰も登頂したことの無いエベレストという世界で一番高い山)がそこにあるから」と答えたのは、かの有名な登山家マロリーである。ところで記者は、なぜこのような質問をしたのだろうか。それは、行為者にとって自明ともいえるスポーツが持つ「本質的な問い」が、必ずしも広く一般に共有されているわけではないからであろう。このことは、体育授業のようにスポーツを共に学ぶような場においても「本質的な問い」が明確にならないままスポーツ実践が行われているという問題を生み出すことにつながっている。さらには、行為者である子ども達が、どのような問いに取り組んでいるのかが分かっていない状態であっても教育評価がなされるといった問題をも内包してしまっている。よって本研究では、体育授業における評価研究の問題点をより明確にすると共に、「本質的な問い」を子どもと共有した上で教育評価をすることが、子ども達のスポーツ実践に対する意味づけにどのような影響があるのかを明らかにすることを目的とする。

  • メガスポーツイベントに焦点をあてて
    久保 和之
    p. 99_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     日本では、2019年ラグビーワールドカップ、2020年東京オリンピック、パラリンピック、2021年ワールドマスターズゲームズ関西とメガスポーツイベントの開催を控えている。いずれの大会も開催によって、スポーツを「する・観る・支える」社会の実現を目指している。スポーツ人口の増加に関しては、行動レベルまでスポーツへ社会化することが重要であり、「個人的属性」「重要なる他者」「社会化状況」の社会化要因を整えることが必要である。これまでのスポーツ的社会化研究では、スポーツへの社会化に至る要因として重要と考えられる「社会化状況」についてのフレームワークが欠如しており、社会的資本論の視点から「社会化状況」について研究したものは皆無である。本研究は、メガスポーツイベントを「社会化状況」の一要因と捉え、スポーツへの社会化と関連があるのかを検証することを目的として、全国の成人に対しアンケート調査を実施し、スポーツの実施および観戦、メガスポーツイベントの認知度などについて分析を行った。その結果、地域によってスポーツへの参与度や認知度などの「社会化状況」が異なることが明らかとなった。

  • 過去のスポーツ経験に着目して
    大勝 志津穂, 來田 享子
    p. 99_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     近年の調査結果によれば、成人期以降の運動・スポーツ実施率は、種目により増加・低下の傾向がみられる。成人期以降の実施種目に影響する要因を明らかにした研究では、個人的属性、過去のスポーツ経験が種目により異なることが示されている。これらの研究における過去のスポーツ経験の変数をみると、学校部活動所属の有無を取り上げる場合や、種目経験の有無を取り上げる場合があり、変数により結果が異なることが示されている。そこで本研究では、学校部活動所属の有無、種目経験の有無の2つの変数に関し「集団球技系」「ラケット系」「エクササイズ系」「レジャー系」の種目を対象に、各種目の実施を従属変数、個人的属性、過去のスポーツ経験を独立変数として重回帰分析を行った。分析の結果、性別、種目により影響する要因に違いがあることが明らかとなった。過去のスポーツ経験については、種目経験の有無が影響する種目と、学校部活動所属の有無が影響する種目が存在した。過去のスポーツ経験が影響しない種目について、それら種目を実施するに至った背景を明らかにできれば、成人期以降に新たに運動やスポーツを始める人々の増加に貢献できると考えられる。

  • 高見 彰, 水沢 利栄
    p. 100_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     婚活事業が実施されている中で、近年ではスポーツ事業も参戦し、「スポーツ婚活」や「スポーツ観戦婚活」が行われている。本研究では、スポーツ体験型婚活イベント参加者のイベント参加前後の対人コミュニケーションによる期待と満足、スポーツ婚活特有の不安に対する意識の変化を量的に明らかにした。調査は、2015年に4会場にて開催されたスポーツ婚活イベント参加者計163名を対象とした。平均回収率は93%である。スポーツ婚活イベントの効果をみるために、現在の気持ちの状態を事前、事後ごとの変化をみた。事前では「落ち着いた」、「活気にあふれた」、「リラックスした」、「イキイキした」の項目が比較的高い得点を示したことから安定度と活性度が比較的高い状態にある。事後では同様の傾向を示しているが、ポジティブな項目はより高く、ネガティブ項目もより改善の傾向を示した。イベント参加前後での期待と満足度では「相手と親しくなりたい」、「一緒に楽しみたい」、「スポーツの技術を高めたい」、「注目されたい」などの8項目のうち、スキンシップを図るなど親和性をたかめる項目に比較的高い満足が見られた。

  • 津川 美香
    p. 100_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     今日、日本全国各地で多様なランニング・イベントが開催されている。市民マラソンや駅伝などはもちろんであるが、近年、「カラーラン」「バブルラン」「スイーツラン」など、従来のいわゆる「スポーツ」としてのマラソンやランニングの枠におさまりにくい、タイムを競わず自由に楽しみながら走ることを目的としたランニング・イベントが様々に開催されている。今日のようなランニングとエンターテイメントの要素を掛け合わせたような多様化する「ランニング」とは、一体、どのような社会的背景から生まれているのだろうか。そこで本研究では、このように多様化しているように見える今日のランニング・イベントに着目し、ランニング・イベントの特徴や参加者の特性など様々な実態をまずは各種調査の二次的検討やヒアリングから明らかにしてみたい。その上で、従来のタイムを競うマラソンやランニングとは異なる今日のランニング・イベント特有の面白さとその社会的背景を明らかにすることが目的である。そして今日の社会的背景から、生涯スポーツのあり方についても考察してみたい。

  • 緒方 勇気, 川西 正志, 北村 尚浩
    p. 100_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     本研究では、青少年としての中学・高校生の日本のバレーボール競技力向上に向けた期待と満足度を明らかにし、普及への課題となる基礎資料を得ることを目的とした。熊本県の県大会でベスト8以上に進出した中学校1校169名、高等学校1校216名を対象にバレーボールの競技力向上に関する所定の質問紙調査を実施した。調査期間は2015年10月~11月である。分析の結果、日本のバレーボールに対して、ネガティブなイメージを女性の方が強く抱いていることや男性において体格への意識が強いことが分かった。その背景には、男子のナショナルチームの競技成績、リベロ制度等が影響していると考える。また、日本のバレーボール競技力への期待度と満足度という項目からメディア力の重要性が明らかになった。更にバレーボールに対する女性の期待度が男性よりも高いことから女性ファンを増やしていくような対策は有効だといえる。現在のNEXT4といったメディアを上手く使った対策は、とても理にかなったことだといえるだろう。従って、競技力だけではなく、メディアに取り上げられるためにはといったところに焦点を当て、対策を練っていくことも重要な課題といえるのではないだろうか。

  • 久保 雄一郎, 山口 泰雄
    p. 101_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     本研究の目的は「体操のまち」を掲げるS市の体操競技振興政策の検証を行うことである。具体的には、S市の体操競技振興の経緯を明らかにし、S市民による「体操のまち」に関する認識の実態を検証する。調査方法は、関係資料の収集を行った後、県体操協会役員を対象に半構造化インタビューを行った。また、県学童体操競技大会に参加した児童の保護者(n=342)を対象に「体操のまち」に関する認識について質問紙調査を行った。分析の結果、S市の体操競技振興には、国体の開催による体操競技選手の強化、全国初の公共施設としての体操専用体育館の設立とそれに伴うS体操スクールの開設、世界体操選手権大会を開催したことが契機となっていた。質問紙調査の結果より7割以上の保護者がS市を「体操のまち」と認識していた。「体操のまち」に関する認識について居住地域別(S市内3つの中学校区別)と出身地域別(S市内、S市を除く県内、県外)によるクロス集計を行った結果、地域差は見られなかった。一方で「体操のまち」に関する認識理由についてKJ法を用いて分類した結果、居住地域別において体操専用体育館のある地域には「施設・設備」に関する理由が他の地域よりも多く見られた。

  • 松本 和也, 山口 泰雄
    p. 101_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     本研究の目的は、大学生のスポーツ・ボランティアへの参加形態の違いによるスポーツ・ボランティア意識の差異を比較検討することである。神戸マラソン2015にボランティアとして参加した大学生(n=270)を対象に集合法による自記入式の質問紙調査を活動前、活動後に実施した。分析方法としては、単純集計、参加形態(自主参加・グループ参加)ごとの差を検証するためにχ2検定を実施し、スポーツ・ボランティア意識はボランティア・イメージ、ボランティア活動への期待及び満足を参加形態ごとにt検定を用いて比較した。χ2検定の結果、女性が男性に比べて自主参加の傾向がみられた。活動前の結果からは、自主参加の人ほど、大会支援や自己成長に対する期待が強く、ボランティアに対するポジティブなイメージが強いことが明らかとなった。自主・グループ参加ともに活動を通してボランティア・イメージをポジティブに変化させているものの、活動後の活動満足においては、活動前の期待と比べてさらに両群の差は広がる結果となった。ボランティア活動に対する魅力を理解し、自主的に参加を決めることでより満足感の高い充実した活動が実施できると考えられる。

  • 英国におけるスポーティング・レガシーへの「予見」から
    大沼 義彦
    p. 101_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     本研究の目的は、2012年ロンドン大会を前に、研究者によって「予見」されていたレガシーを検討することで、オリンピック・レガシー「論」が抱える課題を明らかにすることである。主たる先行研究は、Vigor, A., Mean, M., and Tims, C. (2004)及び、Mangan, J. A & Dyreson, M. (2010)である。オリンピック大会のスポーティング・レガシーについては、以下の点が指摘されていた。一般的に大会開催は、財政とそれまでのスポーツの優先順位の変更をもたらす。その中で、競技団体や自治体はオリンピック開催に伴う各種政策に対応していく。そこで指摘されていたのは、(1)競技団体においては、強化と普及への努力の傾注と大会後の維持、(2)自治体、コミュ二ティでは、大会時点がゴールとなってしまい、その後のレガシー構築を正当化することの困難、そうであるが故に(3)ボトムアップ的なコミュニティレベルのスポーツ支援を引き下げるべきではないこと、であった。競技力強化と市民スポーツの振興との間で何をスポーティング・レガシーに設定するのかという論点が示唆されていた。

  • 東明 有美, 野川 春夫, 高橋 季絵, 上代 圭子, 趙 倩穎
    p. 102_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     公共スポーツ施設は、一般的に採算性が低く、補助金や運営費交付金という名目の「金喰い虫で稼げない」施設と位置付けられ、他の公共施設同様に『指定管理者制度』が導入されて市場原理が導入されてきた。経済の減速化と税収の落ち込みが世界的に拡大する中、生涯スポーツの振興の基盤となるスポーツ施設の新築・改修に積極的に取り組んでいるのが、英国・台湾・シンガポールである。また、スポーツ活動の場の確保という観点からオランダでは生涯スポーツ予算の約90%がスポーツ施設の改修に費やされており、ドイツも大同小異である。経済発展が続く東アジアでは、スポーツシンガポールが外郭団体を使って21の公共スポーツ施設を整備し、馬英九・現台湾総統が台北市長選挙に立候補した際に公約した公共スポーツ施設の新設・改修が台北市から隣接する新北市及び台湾全土に広がりを見せている。両国ともOT方式とRO方式による運営方式を採用し、地域住民のスポーツ・健康ニーズに対応している。管理運営方式は、日本の補助金による『指定管理者』制度とは異なる制度設計がなされていることから、今後の日本の公共スポーツ施設政策への基礎資料としたい。

  • 木村 良輔, 川西 正志, 北村 尚浩
    p. 102_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     本研究では、スポーツを通じた国際開発(以下:SDP)を扱う研究のレビューを通して、この分野における今後の研究課題を明らかにすることを目的に着手した。文献データベースより検索し、収集した論文数は、日本における論文は7件、海外における英語論文は87件であった。収集した論文の研究目的の類型化から、SDPの活動研究に関する論文が近年研究論文として多く扱われていることが明らかとなった。海外における英語論文では、SDPについて多面的に論じている論文は存在するが、日本における論文において特徴的であったのは、スポーツを通じた国際開発に関する修士プログラムについての論文であった。日本の政策として、この分野における人材を育成し、新しいスポーツの分野として確立していこうという志向を推測した。海外から学び、実際に行っているSDPに関する活動に焦点をあて、そこではどのような結果が得られたかということと、SDP活動の効果やプログラムの評価基準の作成の研究が必要であると考えた。また、スポーツ国際開発の定義や概念の確立をし、それに基づく研究をしていくことが今後の課題となると結論づけた。

  • 近藤 誓
    p. 102_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     近年、プロ野球選手が野球賭博に関与していたり、バドミントン選手が違法カジノに出入りしていたりして、スポーツと賭博に関わる出来事が社会問題となっている。しかし、同じ賭博行為でも、競馬、競艇などの4種目は「公営ギャンブル」と呼ばれ、特殊法人や地方公共団体による施行が許可されている。その中でも競馬については、戦前から行われていた実績や欧米を中心に国際的にも広く行われていることもあり、日常生活の中に溶け込むとともに現在も大きな人気を有している。競馬については、これまで公営ギャンブル(賭博)の賭け容認過程やギャンブル(賭博)の社会的影響、さらにはスポーツのルールとギャンブル(賭博)の関係などについての研究がなされてきた。こうした研究の成果を捉えつつも、しかし、いわば社会に飼いならされ「飛び地」として合法化された「賭博」は、なぜ競馬という対象の中に成立し、またそれは、例えばニュース番組などでは決まって「スポーツコーナー」で取り上げられるように、どうして「スポーツ」との関係を強く示唆されるものとなっているのだろうか。競馬、スポーツ、賭博の関係を、現代社会が写る鏡の一つとして本研究では明確にしたい。

  • スポーツに現れた身体加工の社会性
    高水 あゆみ
    p. 103_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     近年、例えば「ハロウィンの仮装」のように、「仮装」という行為を集合的に行い楽しむ現象が見られるようになってきている。スポーツの場においても「仮装」は多く見られ、社会現象となっている。東京マラソンでは様々な仮装をして走るランナーが世間を賑わした。このような、衣装や化粧等によって身体加工を行い、普段の自分とは別の姿へと変身する「仮装」という行為はどのような行為であるのか。中でも、スポーツの場に現れた「仮装」とはどのような行為であるのか。この問いには、「仮装」に関する議論を整理し、「仮装」という行為を、身体との関係からより丁寧に読み解くことが必要である。そこで本研究では、これまでの「仮装」の議論を整理し、マラソンにおける「仮装」に着目して、スポーツの場に現れた「仮装」とはどのような行為であるのか明らかにすることを目的とする。

  • 斎藤 貴博
    p. 103_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     本研究の目的は、近年取り上げられることの多い「子どもの貧困問題」が、現実の学校体育の問題としてどのように現れているのかについて、フィールドワークを通して事例的に検討するところにある。国民生活基礎調査(厚生労働省、2012)によると、「子どもの相対的貧困率」が16.3%で過去最悪を記録している。こうした状況を受けて、政府は2014年8月に「子どもの貧困対策に関する大綱」を作成し対策を急いでいる。一般に貧困問題は、保護者の所得等の経済的資源が大きく関与するイメージでとらえられがちであるが、教育社会学者の耳塚らも述べるように、貧困問題は、人や環境等の社会的資源、生活全般や、芸術・スポーツ等に関わる文化的資源などの問題も大きい。このような視点からは、学校体育が「教育」であるとともに、「スポーツ」の問題とも深く関わるために、社会的資源や文化的資源の問題として、様々な側面を持つ事象であることが予測できるところである。こうした学校体育に現れる貧困問題のひとつの特徴を本研究では切り出していきたい。

  • 学習者のスポーツ選択行為の意味とは
    清水 友輔
    p. 103_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     近年、学校における体育科・保健体育科においては、生涯スポーツの実践者を育成することが求められおり、山本(2012)は、主体的・積極的にスポーツに親しむ生徒の姿は、体育の重要な評価の観点のひとつであると論じている。この主体的なスポーツへの参加に関連して、学習者の特性が一層拡大・多様化する中学校・高等学校段階において「選択制授業」が行われている。学習者が興味・関心のある種目を選択することで、主体的に運動に親しむことにつながり生涯スポーツの実践者の育成が期待できるというのである。確かに、好きな・得意な種目を選択するというのは、生徒の主体性が発揮されているように見える。しかし、これを学習者の「意味」の観点から見たときに、スポーツへの主体的な参加から生じる学習者の意味の充実という事態に、本当にすべて結びついているのであろうか。ここには、そもそも「選択する」という行為に対しての、自明視と無関心が存在しているということはないだろうか。そこで本研究では、スポーツ種目を選択することの行為が持つ意味についてフィールドワークを通して明らかにし、体育における選択制授業について考察を行うことを目的とする。

  • 自他の境界化と脱境界化
    佐藤 聖
    p. 104_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     北田(2002)は、現代の若者はメディア環境の変化の影響から接続志向のコミュニケーションを行っていると指摘している。また、北田はこのコミュニケーションの世界は受け手による排除が起こる過酷な世界であると述べ、限定的な空間で行われるスポーツ観戦も他者接続の場でしかないと言う。しかし、スポーツの予測不可能性からスポーツ観戦における「意味」というものは主体それぞれで異なる。作田(1993)の言う「生成の世界」であると予想されることからも、そこでのコミュニケーションは他者接続という固定的な意味に回収されないと考えられる。ここから、それぞれ固有の意味を生成するスポーツ観戦者は一体スポーツの「何」を見ているのだろうかという視点が導かれる。スポーツは混沌とした事象であるがゆえに多様な類似性を内包しており、同じシーンを切り取っても観戦者が見ているものはそれぞれ異なると考えられる。すなわち、スポーツ観戦者の意味生成のプロセスは多様だと予想される。本研究では、若者のスポーツを「見る」という行為に着目して、そこでの意味生成のプロセスを明らかにする。当日はさらに詳細に「スポーツを見る」という行為ついて報告する。

  • 上代 圭子, 野川 春夫, 東明 有美
    p. 104_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     日本の成人女性の週1回以上のスポーツ実施率は39.4%(文部科学省、2015)と、目標である65%には程遠い。日本人女性のスポーツ参加には、育児や家事などの性役割で「時間がない」という阻害要因が多く(新谷、1992、2003;女性と余暇研究会、1999;佐藤、2004)、また、結婚や出産を機に競技スポーツだけでなく日常のスポーツ活動から離脱する既婚女性が多く、特に中高年女性は定期的なスポーツ活動から離れることからスポーツへの再社会化が生起し難い(久保、1999)とされる。トップレベルの女性サッカー選手のキャリアプロセスに関する研究(上代、2013)でも、育児や家事などが大きな影響を及ぼしたことから、日本人女性のスポーツ活動は、性役割に支障をきたさないことがポイントとなると示唆される。そこで本研究は、「再社会化説」を援用し、性役割を視座として既婚女性のスポーツ参加要因を明らかにすることを目的とした。フィールド調査は「再社会化説」の先行研究を踏まえ、紙面調査により、関東・東海で開催された地域大会、関西で開催された全国大会の参加全女性サッカー選手・女性スタッフ445名を対象として、2015年5月から11月に直接配布・回収により実施した。

  • 学生との協働によるコミュニティースポーツ形成に向けて
    橋本 剛幸
    p. 104_3
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     地震など災害に対して避難するためには、体力が必要である。自分の命はまず自分で守ること(自助)は災害時の基本であり、そのうえで周りの人々と協力をして避難すること(共助)が人的被害ゼロをめざすうえで重要である。地域の人たちのつながりも重要であることを過去の教訓から学び、そのいずれも会得した街を作っていくことが重要であり、防災における自助、共助の観点は、健康のために個人の体力を向上させ、周りの人々とスポーツを楽しんで行うコミュニティースポーツのめざす方向と一致したものである。また、災害時、大学が地域に対して何ができるのか、学生たちが地域の人々と協力して避難生活を支えていけるのかということも非常に重要なことであるが、起きる前から地域の人々とのつながりを持っていることは、その力を何倍にもする原動力となりうるものであろうと考える。本研究ではスポーツへの意識と防災への意識の融和をめざした地域コミュニティースポーツの創造を目標に、学生との協働によるコミュニティースポーツづくりを行うため、その基礎研究として意識調査などの分析、検討を行い、実際の活動につなげていくことを目的とするものである。

  • 大学準硬式野球部員に着目して
    種谷 大輝, 松尾 哲矢
    p. 105_1
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
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     従来の運動部の補欠に関する研究は、補欠の運動部への参加や継続の動機、補欠であることの原因帰属意識について検討した研究が見られるものの、補欠が部活動を行う上でどのような葛藤を抱えているのか、また、その規定要因に着目した研究は少ない。そこで本研究では同一の対象に対して相反する傾向、態度、感情が同時に存在する精神状態を意味する「アンビバレンス」の概念に着目し、補欠が抱える葛藤状態の様相とその発生要因を検討する。研究方法としては、高校期に部活動として行われておらず高校期の硬式野球部において補欠を経験した選手が多いと予想される東京六大学準硬式野球連盟に所属する全大学の部員235名を対象として質問紙調査を行った。その結果、補欠部員(159名)の69.8%が「ライバルが怪我をしたり不調になったりした際、喜んではいけないと思う一方で、試合に出られるチャンスが増え心の中では喜んでしまう」と思った経験があると回答する等葛藤を抱え込む様相が看取された。また、調査を行った部の監督6名へのインタビュー調査を実施し、監督と選手の回答を連動させることで、補欠のアンビバレンスの要因について詳細に検討を行った。

  • スポーツ漫画のキャラクター分析から
    竹内 秀一
    p. 105_2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/02/24
    会議録・要旨集 フリー

     運動部活動などを舞台に物語が紡がれるスポーツ漫画は、我々とスポーツとの関わりを映し出すひとつの鏡といえる。例えば、1990~96年に井上雄彦氏によって連載された『スラムダンク』は、多くの若者をバスケットボールへと駆り立てた。このような現象を松田(2009)は、「マンガに描かれたスポーツ世界のリアリティが、逆に現実世界のスポーツのリアリティ感覚の受皿となる」と述べる。すなわち、スポーツ漫画は単なる表象文化ではなく、他方スポーツに新たな現実を生起させる循環装置にもなっているのである。ところで、漫画が世代ごとの「アイデンティティ」を確認する役割を担うという報告(諏訪、1989)もある。ここより、スポーツ参与者の同一性(=プレイヤー・アイデンティティ)を基底している言説、あるいは揺らぎのダイナミクスをスポーツ漫画から捉えることができるのではないか。そこで本研究では、スポーツ漫画におけるキャラクターの表象について、「アイデンティティ」という補助線を用いて考察していく。そして、そこから透けてみえる運動部活動における現代的な力学の様相を明らかにすることを目的とする。

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