獣医疫学雑誌
Online ISSN : 1881-2562
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ISSN-L : 1343-2583
26 巻, 2 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
第60回 獣医疫学会学術集会
セミナー“感染症の数理モデル”
原著
  • 森口 紗千子, 細田 凜, 牛根 奈々, 加藤 卓也, 羽山 伸一
    2022 年 26 巻 2 号 p. 90-107
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2023/08/05
    ジャーナル フリー

    飼養鳥および野鳥の救護個体の高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)サーベイランス体制と防疫対策について調査した。飼養鳥の簡易検査は動物園水族館で実施されることが多かったが,遺伝子検査機関が決まっていない自治体は30%以上みられた。動物園水族館の約40%が野生動物の救護個体を受け入れており,HPAIが国内発生した時点でその80%以上の施設が受け入れを停止した。一方,野生動物の救護施設では,施設から半径30km圏内でHPAIが発生した場合でも50%以上の施設が救護された野生鳥類を受け入れていた。動物園水族館では,HPAI感染が疑われる飼養動物は隔離飼育される傾向にあり,HPAIが確定した時点で安楽殺が検討されることが多かった。野鳥のHPAIサーベイランスでは,家きんや飼養鳥でのHPAI発生よりも前に野鳥でHPAIウイルスを検出することが必ずしもできていないことを鑑みると,動物園水族館は国内におけるHPAIが発生の有無に関わらず,渡り鳥の飛来時期に野鳥の救護を停止することが望ましい。飼養動物におけるHPAIの感染防止対策や封じ込めを効果的に実施するには,自治体と動物園水族館など関係者間の定期的な関連手順の確認や,自治体内での遺伝子検査機関の確保を推奨する。また国や関係機関は,動物園水族館や野生動物の救護施設を支援するために,移動式の隔離施設やリスクマネジメント手法の整備が求められる。

  • 西角 光平, 稲永 敏明, 西 明仁, 米澤 隆弘, 野口 龍生, 鳥居 恭司, 今川 和彦, 小林 朋子
    2022 年 26 巻 2 号 p. 108-115
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2023/08/05
    ジャーナル フリー

    牛伝染性リンパ腫(Enzootic Bovine Leukosis : EBL)は,牛伝染性リンパ腫ウイルス(Bovine Leukemia Virus : BLV)に起因する牛の悪性リンパ腫である。これまでに,ウシの主要組織適合遺伝子複合体(Major Histocompatibility Complex : MHC,ウシにおいてはBovine Leukocyte Antigen : BoLA)のDRB3領域におけるアリルタイプが感染症の抵抗性や感受性に関連していることが報告されている。褐毛和種は集団規模が小さいという遺伝的な背景から,他の品種と比較して,特定の疾病に対して異なる感受性を示す可能性がある。そこで本研究では,熊本系褐毛和種および高知系褐毛和種において,BoLA-DRB3遺伝子の多様性を解析し,その遺伝的構成を明らかにした。

    褐毛和種184頭のBoLA-DRB3遺伝子のアリルタイピングの結果,熊本系褐毛和種および高知系褐毛和種でそれぞれ16および13種類のアリルが検出された。アリル頻度をもとに褐毛和種の平均ヘテロ接合度の観察値(Ho)およびその期待値(He),さらにそれらの値を用いた集団内の近交の程度を示すFisを解析したところ,両集団間でBoLA-DRB3の多様性が異なることが示された。また,BoLA-DRB3遺伝子のアリル頻度を基に集団間の近交の程度を示すFstを求めたところ,熊本系および高知系褐毛和種の集団は,黒毛和種,日本短角種,ホルスタイン種およびジャージー種の集団との遺伝的距離よりも,フィリピン在来種およびミャンマー在来種の集団との方が近かった。さらに,BLVに感染した際の低プロウイルス量と関連すると報告されているアリルを少なくとも一つ以上保有していた個体の割合は,熊本系褐毛和種においては15.7%(127 頭中20頭),高知系褐毛和種においては63.1%(57頭中37頭)と有意な差が認められた。今後,BLV感染個体ごとにBoLA-DRB3遺伝子の各アリルタイプとプロウイルス量を直接評価する必要がある。また,国内で飼養されている他品種と比較すると,熊本系褐毛和種では感染牛のプロウイルス量が低いとされていることから,当該品種についてはアリルタイプに基づくものとは異なる,別のプロウイルス量制御機構が存在する可能性についても検証していく必要がある。

    以上のBoLA-DRB3遺伝子の多様性やアリル頻度の解析結果から,褐毛和種は和牛の中でも黒毛和種や日本短角種とは違った遺伝的背景を持っており,集団が小さいながらもBLVへ感染した際のプロウイルス量に関連するアリルを保有していることが明らかとなった。今後,褐毛和種においてプロウイルス量とBoLA-DRB3との関連を解析することにより,本品種におけるBLVの感受性を明らかにする必要がある。

解説
  • 山本 健久, 早山 陽子
    2022 年 26 巻 2 号 p. 116-125
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2023/08/05
    ジャーナル フリー

    Animal health surveillance has been conducted for a long time targeting a variety of livestock infectious diseases in Japan. For example, surveillance of Brucellosis and tuberculosis for cattle has been conducted more than 70 years for the eradication purpose. Meanwhile, after the emergence of novel infectious diseases such as bovine spongiform encephalopathy (BSE) and highly pathogenic avian influenza (HPAI), these diseases are added to routine surveillance. Animal health surveillance is important for decision-making in planning prevention and control measures for infectious diseases. However, to sustainably conduct animal health surveillance under limited human and financial resources, building an effective and efficient surveillance planning scheme is essential by clarifying the goal of the surveillance targeting the important diseases in animal health. In this paper, we introduce the recent initiatives to improve the animal health surveillance system in Japan, which are closely collaborating with the animal health authority. Specifically, the following contents were described in detail : 1) a renewed framework to review the surveillance systems, which involves experts of epidemiology and animal infectious diseases, local and national animal health authorities, and stakeholders ; 2) evaluation of disease-free status for Brucellosis and tuberculosis in cattle and establishment of new surveillance programs for these diseases ; and 3) establishment of new arbovirus surveillance program of cattle for enhancing early warning against arbovirus infections ; and 4) development of an animal health surveillance database system.

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