獣医疫学雑誌
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13 巻, 2 号
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原著
  • 菊池 直哉, 鹿野 真純, 畑中 元希, 高橋 樹史, 森 研一, 藤井 武, 古谷 徳治郎
    2009 年 13 巻 2 号 p. 95-99
    発行日: 2009/12/20
    公開日: 2011/01/20
    ジャーナル フリー
    わが国の繁殖雌豚を対象として,顕鏡学的凝集反応(MAT)を用いてレプトスピラ抗体の検出を行い,その浸潤状況を調べた。MATは病原性レプトスピラの9血清型の生菌液を抗原として行った。2001年から2004年にかけて,20道県の140農場に飼育されていた1,121頭について血清学的調査を実施した。その結果,19道県の98農場(70.0%)に飼育されている281頭(18.0%)がレプトスピラに対する抗体を保有していた。血清型別で最も陽性率が高かったのは血清型Bratislavaで,87農場(62.1%)の202頭(18.0%)から抗体が検出された。次いで血清型Australisの45農場(32.1%)84頭(7.5%),Autumnalisの25農場(17.9%)25頭(2.2%),Canicolaの14農場(10.0%)の25頭(2.2%)であった。以上のように,わが国の繁殖雌豚においてレプトスピラ抗体が全国的に広く浸潤していることが判明した。特に血清型Bratislavaが主要な血清型であることが明らかになった。
  • 細野 ひろみ, 伊藤 繁, 耕野 拓一, 玄 学南
    2009 年 13 巻 2 号 p. 100-106
    発行日: 2009/12/20
    公開日: 2011/01/20
    ジャーナル フリー
    ベトナムの伝統的な小規模養豚農家では,ブタは裏庭の開放的な豚舎で飼育されており,ネズミを捕獲するためにネコが飼われている。このような状況の下では,重要な人獣共通感染症の1つであるトキソプラズマ症へのブタの感染をコントロールすることは難しい。本研究の目的は,ベトナム国フエ省における家ネコおよび肉用豚のトキソプラズマ抗体の血清陽性率をラテックス凝集反応(トキソチェック,栄研)により把握することにある。2007年に155匹の家ネコおよび肉用豚(と畜場から110検体,6件の養豚農家から150検体)から血液を採取した。ネコでは112検体(72.3%),養豚農家では62検体(41.3%),と畜場では76検体(69.1%)がToxoplasma gondii抗体陽性であった(1 : 64以上を陽性と判定)。ブタでは体重の増加に伴い陽性率が上昇し,15kg以下では16.7%であったのに対し,50kg以上では71%が陽性であった(OR=12.26,95% CI=3.31,45.34)。養豚農家からのサンプリングでは,2ヶ月後に同群から再度血液の採取を行った。1度目に採取した検体では陽性率が28.4%であったのに対し,2ヶ月後に実施した2度目の検体では64%に増加していた(OR=4.48,95% CI=2.14,9.39)。本調査結果により,現在ベトナムのフエ省において一般的にみられる伝統的な養豚システムの下では,肉用豚のトキソプラズマ症への感染率が高いことが示された。
  • LY Thi Lien Khai, TRAN Thi Phan, NGUYEN Thu Tam, 岩田 剛敏, 小林 秀樹, 岡谷 友三アレ ...
    2009 年 13 巻 2 号 p. 107-113
    発行日: 2009/12/20
    公開日: 2011/01/20
    ジャーナル フリー
    ベトナム・メコンデルタの牛および食品におけるEscherichia coli O157の分布を明らかにすることを目的として,2001年7月~2004年9月の間に,牛糞便571検体ならびに小売食品363検体(牛肉150検体,鶏肉50検体,アヒル肉51検体,エビ112検体)を対象に調査を行った。その結果,E. coli O157は牛糞便の2.1%(12/571)から分離され,食品からは分離されなかった。牛糞便からのE. coli O157の分離は,調査した40農場中6農場(15%)で認められ,その分離率を年齢別にみると,6ヶ月齢以下の牛で4%(3/75),6ヶ月齢以上の牛では1.8%(9/496)であり,年齢による分離率の有意な差は認められなかった。さらに,分離されたE. coli O157菌株について,PCRによる病原遺伝子の検索と,抗生物質11薬剤を用いた薬剤感受性試験を行った。供試した15株中12株(80%)がeaeおよびEHEC-hlyA遺伝子を保有しており,13株(86.7%)がstx2遺伝子を保有していた。一方,stx1遺伝子は,いずれの株からも検出されなかった。また,薬剤感受性試験の結果,15株中3株が1薬剤以上に耐性を示した。
    本研究により,ベトナム・メコンデルタの牛からE. coli O157が初めて分離され,メコンデルタに本菌が分布していることが明らかになった。
  • 金子 麻衣, 佐々木 羊介, 高井 康孝, 纐纈 雄三
    2009 年 13 巻 2 号 p. 114-120
    発行日: 2009/12/20
    公開日: 2011/01/20
    ジャーナル フリー
    跛行や脚弱といった四肢の問題は,動物福祉の問題に関係していると考えられる。海外では,農場導入時の未経産豚における四肢の肢勢スコアが発表されているが,これはストール飼育された雌豚において,四肢に問題がある雌豚を発見することに役立つかもしれない。本研究は,生産農場において,ストール飼育された雌豚の四肢の肢勢を観察すること,肢勢スコアと生存時間,背脂肪厚及び行動との関連性を調査することを目的とした。繁殖雌豚500頭一貫経営農場に2年間で6回訪問し,雌豚の四肢の肢勢スコアを記録した。肢勢スコアは,OKとPOORに分類した。前肢において,肘が内側に曲がっているもの,後肢において,尻・後膝・飛節が直線上に位置にあり直肢している,または飛節が鎌状に曲がっているものをPOOR, POOR以外の肢勢をOKとした。また,少なくとも1本の肢の肢勢スコアがPOORであった雌豚をPOORグループ,その他の雌豚をOKグループに分類した。四肢の肢勢スコアと生存時間の関連性には,生存時間分析を用い,その他の分析には混合効果モデルを用いた。709頭における1,560観察記録の内,肢勢スコアがPOORであった記録は6.4%(1460記録),OKであった記録は93.6%(100記録)であった。また,四肢の肢勢を複数回観察された495頭のうち,86.5%(428頭)は産次を経ても肢勢スコアが変化しなかった。0,1,2,5,6産次の雌豚は3産次と4産次の雌豚よりも肢勢スコアがPOORであった雌豚の割合が低くなった(P<0.05)。生存確率に肢勢スコアによる差は見られなかった。また,淘汰リスクに肢勢スコアによる差はなかった。背脂肪厚,行動割合と肢勢スコアに関連性はなかった。本研究において,ストール飼育された雌豚における四肢の肢勢スコアは,生存時間,背脂肪厚及び行動と関連がないことを示唆した。
解説
  • 小澤 義博
    2009 年 13 巻 2 号 p. 121-124
    発行日: 2009/12/20
    公開日: 2011/01/20
    ジャーナル フリー
    As a result of the outbreaks of pandemic influenza (H1N1/2009) in swine, some questions have been raised about the risks to humans from exposure to infected pigs and pork products. In this paper, the characteristics of swine influenza (SI) virus in pigs and the measures to be taken to prevent the spread of SI virus are reviewed. Possible risks of swine influenza virus from infected human to pig and from infected pig to human are also reviewed. According to the OIE/FAO/WHO recommendations pig meat is safe for human consumption if it is processed according to the international standards and cooked above 70°C.
  • 小林 創太, 山本 健久, 早山 陽子, 西田 岳史, 西口 明子, 筒井 俊之
    2009 年 13 巻 2 号 p. 125-129
    発行日: 2009/12/20
    公開日: 2011/01/20
    ジャーナル フリー
  • 杉浦 勝明
    2009 年 13 巻 2 号 p. 130-132
    発行日: 2009/12/20
    公開日: 2011/01/20
    ジャーナル フリー
    飼料の安全性を脅かす危害要因(ハザード)には,ダイオキシン,カビ毒,重金属,有害微生物などがある。近年,食品安全に対する消費者の関心が高まる中,ベルギーなどでの飼料のダイオキシン類汚染に起因する汚染鶏肉などの流通(1999年),中国産の小麦グルテン,乳製品などの飼料原料へのメラミン混入(2007年),養殖水産動物用飼料へのマラカイトグリーン汚染(2006年)など飼料の汚染などを原因とする食の安全を脅かす事故・事件が相継いで発生し,飼料の安全性に対する関心が高まっている。このようなハザードから飼料及び飼料原料の安全を守るため,2004年にコーデックスの適正動物飼養規範が策定され,2009年5月に国際獣疫事務局(OIE)の陸生動物衛生コードに新たな章「飼料中における動物衛生及び公衆衛生上重要なハザードの防止のためのガイドライン」が設けられた。
資料
  • 山本 茂貴
    2009 年 13 巻 2 号 p. 133
    発行日: 2009/12/20
    公開日: 2011/01/20
    ジャーナル フリー
    第15回カンピロバクター,ヘリコバクターおよび関連微生物に関する国際ワークショップ(CHRO2009)が平成21年9月2日から5日まで新潟県新潟市の朱鷺メッセで開催された。このワークショップは2年に1度開催され,世界各国から約600名のカンピロバクターおよびヘリコバクターの研究者が参加した。
    9月2日の夕方から学術総会長の山本達男新潟大学医学部教授の開会挨拶に続き,ヘリコバクターの発がん誘導における遺伝学的研究に関する基調講演が国立がんセンターの牛島俊和博士により行われた。つづいて,cagA遺伝子発見20年,CagA腫瘍誘導タンパク,カンピロバクターとギランバレー症候群に関する3題の特別講演が行われた。
    9月3日からは午前中に非定型CHROの命名に関する早朝講義,続いて,自然宿主におけるカンピロバクターとヘリコバクターの保菌状態,疫学と耐性菌,ヘリコバクターのワクチンに関して全体講演があった。午後からは,8つのセクションに分かれて口頭発表が行われた。それぞれのセクションは1.カンピロバクターの疫学,2と6.カンピロバクター病原性と遺伝学的研究(1)および(2),3.カンピロバクターの動物感染モデルと治療,4.ヘリコバクターの疫学,5.カンピロバクターの遺伝子型と薬剤耐性,7.カンピロバクターの予防,8.ヘリコバクターの病原性と遺伝学的研究があり,若手の研究者を含めて発表があった。夜は学会主催のディナーに先立ち,能を鑑賞した。
    9月4日はCHROの薬剤治療と薬剤耐性について早朝講義があり,続いて,カンピロバクターとヘリコバクターに分かれてシンポジウムが開催された。カンピロバクターシンポジウムの第1部はギランバレー症候群,第2部は病理発生,ヘリコバクターシンポジウムの第1部は感染メカニズム,第2部は臨床的話題に関してであった。午後は4つのセクションに分かれて口頭発表があり,テーマは9.カンピロバクターの予防(2),10.アーコバクター,11. CHROの病原性と薬剤耐性,12. CHROの動物感染モデルであった。
    そのあと,ノーベル賞受賞者のバリーマーシャル博士よる「ヘリコバクター・ピロリと胃癌」について特別講演が行われた。
    9月5日の最終日はCHROの遺伝子解析について早朝講義があり,続いて,ヘリコバクターと胃癌について2つのシンポジウムとカンピロバクターのリスクアセスメントおよび農場でのコントロールに関するシンポジウムが行われた。
    次回は2011年にカナダのバンクーバーで開催されることが決まった。
  • 蒔田 浩平
    2009 年 13 巻 2 号 p. 134-137
    発行日: 2009/12/20
    公開日: 2011/01/20
    ジャーナル フリー
    ISVEE(イズヴィー)は,3年毎に開催される獣医疫学と社会経済学に関する国際会議で,12回目を向かえる今回の会議は2009年8月10日から14日までの5日間にかけて南アフリカ共和国のダーバンにて開催された。本稿では,概要を説明した後,5日間のプレナリーセッションから考える世界の獣医疫学経済学の今後の方向性と課題,ISVEE XIIで印象に残った世界の研究グループと研究内容,日本人参加者の発表について報告する。
トピック
  • 宇根 有美
    2009 年 13 巻 2 号 p. 138-140
    発行日: 2009/12/20
    公開日: 2011/01/20
    ジャーナル フリー
    国際自然保護連合の調査によれば(http://www.iucnredlist.org/amphibians/redlist_status),2008年現在,世界には約6,000種類の両生類がおり,そのうち,32.4%が絶滅あるいは絶滅に瀕しているとされている。両生類の個体数を減少させる原因としては,生息域の破壊がもっとも重要で,次に環境汚染,森林火災,外来種圧,感染症などが続く。このうち,感染症は1980年代以降,世界各地で劇的な両生類の個体数減少に関っているとされ,他の原因より種の絶滅を引き起こす確率が非常に高い。これは,感染症の特性に起因するもので,たとえ病原体が少数であっても,一旦,地域に持ち込まれ宿主を獲得すると,無尽蔵に増殖し,ヒト,動物や物流を介して拡散していく。自然界にあっては,病原体の拡散をコントロールする,あるいは排除することは極めて困難である。
    以上のことから,公衆衛生上および動物衛生上の問題および生態系の保全を考慮し,2008年5月国際動物保健機構は野生動物の感染症に関する提言を行い,あわせて,重要な監視すべき伝染病をリストアップした。その中には,両生類の感染症として,カエルツボカビとイリドウイルスが挙げられている。ともに両生類の新興感染症として捉えられ,カエルツボカビは,1999年に1属1種の新種のツボカビとして登録された。イリドウイルス科ラナウイルスによる両生類の感染症は,1968年にオタマジャクシ浮腫病として報告されているが,1990年後半から世界各地での流行が報告されるようになった。カエルツボカビに関しては,すでに本誌において,黒木俊郎博士(神奈川県衛生研究所)が解説しているので(11巻1号,2007年7月),ここでは,最近,国内で発見されたイリドウイルス科ラナウイルス感染症について解説する。
    イリドウイルスの「irido」は,ギリシャ語のiris, iridos(虹色)に由来し,感染細胞の中に集積したウイルス粒子が虹色を呈することから命名された。大型の正二十面体のウイルス粒子(球形ビリオン)で,直径は属によって多様で120~360nm。直鎖状の2本鎖DNA(サイズ140~303kbp)のウイルスである。ウイルスの複製には核が関与し,細胞質内にカプシドが集積して(細胞質内封入体として確認される属がある),細胞膜より出芽する。宿主細胞膜由来のエンベロープを持つもの(脊椎動物ウイルス,主としてラナウイルス属とリンホシスチス属)と持たないもの(昆虫ウイルス,主としてイリドウイルス属とクロルイリドウイルス属)とがある。後者はエーテル耐性で,他のすべてのウイルスがエーテルおよび非イオン性界面活性剤に感受性がある。
    (View PDF for the rest of the abstract.)
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