在宅医療は患者の人生を支える医療であり,医師に対する患者・主介護者の信頼は不可欠である。しかし,我が国の医学部教育では医師と患者との間のコミュニケーションは重視されておらず,臨床の場で初めて,患者・主介護者とのコミュニケーションの課題に直面する医師は多い。本研究では“ソーシャルスタイル理論”(Merrill & Reid, 1999)に着目し,患者・主介護者が「この医師に最期まで診てほしい」と認識するために必要な医師のコミュニケーション要件を明らかにした。分析の結果,医師が患者・主介護者から強固な信頼を得るには,(1)診療技術,(2)診療思考,(3)ヒューマンコミュニケーションのピラミッドの構築が必要であり,全体に対して(4)ソーシャルスタイルのマッチングという条件が影響することが明らかになった。中でも,医師と患者(主介護者)の関係における「ソーシャルスタイルのマッチング」で特に気を付けるべきは,ドライバー同士の組合せである。ドライバー同士は互いに会話の主導権を握ろうとするため,ハレーションが生じる可能性が高い。医師には,意識的に患者・主介護者のソーシャルスタイルのニーズに合わせて対応する「バーサティリティ」能力が必要とされるのである。
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