東海社会学会年報
Online ISSN : 2435-5798
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  • 北海道礼文島の島内・島外出身者の差異に着目した計量分析
    片桐 勇人
    2021 年 13 巻 p. 89-102
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー
    少子高齢化・人口流出等を背景として,過疎地域の持続可能性が問題となっており,地域おこしの必要性が叫ばれている.地域おこしは住民の主体性が重要であると先行研究は指摘している.そのため本稿では住民が居住地域の地域おこしに関心を持つ要因について,先行研究より社会関係資本論の仮説を採用したうえで,2017 年に北海道礼文島で実施した質問紙調査の順序ロジスティック回帰分析を行った.その結果,(1)住民が持つ地域おこしへの関心には,住民の地域への信頼という社会関係資本が正の影響を与えていること,(2)回帰式における島内出身者ダミーと地域への信頼の交互作用項と主効果の分析により,住民が持つ地域への信頼が地域おこしへの関心に影響を与えるのは島内出身者のみであり,島外出身者にはそのような効果は見られないことが明らかになった.以上より,地域おこしのための重要な社会関係資本として従来捉えられてきた地域への信頼が,地元住民か移住者かによって地域おこしへの関心に対して持つ効果が質的に異なる可能性があり,その性質についてさらなる研究が必要であると本稿は結論づけた.
  • 三重県四日市市の地域イメージをめぐって
    丹辺 宣彦, 三田 泰雅, 高 娜
    2021 年 13 巻 p. 103-117
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー
    三重県四日市市では産業構造の転換が進み,公害判決後50 年近くが経過している.本稿では2019 年に実施した質問紙調査のデータをもとに,住民たち自身が現在の生活環境と市のイメージをどのようにとらえているのを検討した.その結果,生活環境は内陸側地区で評価が高く,利便性は臨海側で高く,開発・公害をめぐって形成された東西の都市軸が現在もはっきりと刻印されていることが示された.また「公害のイメージ」は臨海側地区でなお強く,それは「空気のきれいさ」という知覚・感覚を通し,世代的経験や地域的紐帯など複数の社会的要因によっても規定されていることが明らかになった.さらにこのことが,臨海側からの若い家族の流出を再生産していること,地域へのコミットメント,まちづくりに悪影響を及ぼしていること,を地区レベルのデータから検討した.二酸化硫黄,窒素酸化物の濃度,直接の健康被害といったレベルでは環境改善が著しいとしても,住民の感覚レベル,意味付与のレベルとまちづくりにおよぼす影響という点では,開発と公害の負の遺産はなお払拭されていないことが明らかになった.
  • 鳥羽市相差町の海女漁の事例から
    吉村 真衣
    2021 年 13 巻 p. 118-132
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー
    近年ではモノや環境,時空間が限定された行事等だけでなく,日常的な営みである生業が遺産化されている.文化遺産や歴史的環境に関わる先行研究では,遺産化による脱文脈化・再文脈化や序列化,文化遺産の活用における保存の論理と商品化の論理との矛盾をめぐる諸問題が指摘されてきた.しかし生業は第一義的には生産活動であるため,その時々の社会経済的動向に適応しながら成立しつづけなければ,その「保存」は難しい.また担い手の身体や生活と不可分であり,生業の遺産化を既存の理論枠組みでとらえるには限界がある.そのため海女漁の事例を取り上げ,遺産化において生業・生活の主体としての海女や地域住民が,水産業,観光業,文化遺産など複数の側面をもつ海女漁といかに関わっているか,地域の社会経済構造との相互関係にも注目しながら明らかにし,理論枠組みの再考を目指した.相差町は高度経済成長期以降,民宿と漁業の両立というかたちで観光地化を受容してきた歴史があり,海女漁の遺産化はこの文脈上で受容された.相差は一見すると漁業を主幹産業とする伝統的な漁村構造から変容したが,それによって家業としての海女漁の継承という伝統的なしくみが維持されていた.また遺産化は制度政策的なスケールでは価値や関わり方の脱文脈化・再文脈化,序列化をもたらしていたが,地域社会のスケールでは,海女や地域住民の生業・生活に適応したかたちで受容され,海女漁の継承を支えるはたらきをしていた.
  • 山田信行の産業社会学からレギュラシオン・アプローチの動態論へ
    稲葉 年計
    2021 年 13 巻 p. 133-141
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー
    本稿は,日本において規制緩和や「構造改革」として話題となる産業構造の問題に対し,フランクフルト学派のレギュラシオン・アプローチに着目することによって,理論的なアプローチを模索するものである.一般にレギュラシオン・アプローチは,各国の歴史的,制度的な特徴を分析し,経済的な蓄積体制を様々な広義の制度がいかに調整(レギュラシオン)し,循環を形取っているのかを分析対象とする.それに対し,ヨアヒム・ヒルシュにみられるフランクフルト学派のレギュラシオン・アプローチは,国内要因と世界システムを結びつけようとしながら,国家の権力理論を企てる.とりわけ日本において,経済分析における制度の歴史的特徴は,山田信行の「総体性」を構成する弁証法的歴史社会学による産業社会学理論をふまえても,重要であると分かる.世界システムあるいはグローバル経済において,(フランクフルト学派の)レギュラシオン・アプローチが,日本の資本主義論争や「企業社会」,企業的レギュラシオンといった歴史的な制度形成やその研究史をふまえ,静態論というよりは動態論として日本等の国家を分析することに展望がある.
  • 長澤 壮平
    2021 年 13 巻 p. 142-149
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/04/05
    ジャーナル フリー
    現代社会において食と農は巨大で複雑なフードシステムに取り込まれ,有害な化学物質,グローバルな流通によるエネルギーの浪費,食品の大量廃棄など,数々の矛盾が生じている.こうした危機的状況への対応として,1970 年代以降,有機農業運動が広まり,その流れを受け継いだ動きとして,現在,ローカル・フードムーブメントが展開している.それはローカルを拠点とした食と農の取り組みによって,適正な食と農,人間と人間のつながり,そして人間と環境のつながりの回復を目指す運動である. 本稿では,こうしたローカル・フードムーブメントの一例と見られる愛知県豊田市旭地区の「押井営農組合」に注目し,この活動が現代社会の食と農においてどのような意義を持つのか,そして,どのようなつながりを生み出しているのかという問いに基づいた調査資料を報告する. 押井営農組合は,過疎高齢化が著しい押井集落の農地の維持を目的としているが,安全でおいしい米の全量自給を目指すポリシーのもとに活動を行っている.販売体制として,消費者が購入する米の代金を作付け前に支払い,リスクや収穫のよろこびを共有する「自給家族」の仕組みを展開している.それは他地域の消費者を顔の見える食と農のつながりへと組み入れる仕組みであり,失われた食と農のつながり,および人間と人間のつながりを新たに構築する活動となっている.
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