【はじめに】
山の斜面を転落し頸髄損傷による神経原性ショックが強く疑われる所見があったにも関わらず、通信手段が確保できないため特定行為指示要請が行なえなかった症例を体験したので報告する。
【症例】
66歳女性、山菜を採取中にめまいを起こして約3メートル下の斜面に転落したもの。
現場は急傾斜地であり、活動困難な場所であった。また、直近の集落から約7.5キロメートル離れた山中で携帯電話の不感地帯であった。
【経過】
観察の結果、意識レベルはJCS20、呼吸状態に異状は無く、脈拍は橈骨動脈で微弱であった。明らかな外傷は無いが後頸部の圧痛と四肢麻痺を認めた。
ネックカラーによる頸部固定及びスクープストレッチャーで全身固定を実施した。
救急隊のみでは搬送困難であり、救助隊の到着を待ち、現場到着から31分後に救急車内へ収容した。
富山県ドクターヘリのランデブーポイントまでの搬送時間を考慮すると心肺機能停止前の重度傷病者に対する静脈路確保及び輸液を行うべきであったが、通信手段が確保できないため特定行為指示要請が行なえなかった。
【おわりに】
特定行為は重要な処置となり得るが、本症例のように特定行為指示要請を受けられない場合は通信手段の確保に拘るのではなく、早期搬送等の傷病者にとって最も有益となることは何かを判断し活動することが重要である。
今後は同様の症例があった場合に備えて、富山県東部消防組合消防本部通信指令課及び魚津消防署内で検討を行い、より良い対応を行いたい。
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