動揺状況を[numerical formula]で現わす時,この不規則度示数は[numerical formula][numerical formula][numerical formula][numerical formula]で定義される。この値は長時間の動揺記録全体を通じての平均値であって,一般にはε^2≒1というGauss-Laplace型分布に対応する値を示し易い傾向かおる。しかるに,動揺記録は波形がだいたい同一と見受けられる長短種々の時間間隔で区分し得る多数の波群から構成され,これが順に接続されている。もちろんその中には振幅の極端に大きい単一共振波動も存井し,また周期が一定なRayleigh型分布を呈している部分も混入している。したがって不規則度示数は上述二例のε^2=0から前述のε^2=1の範囲に入り,任意の時間区分域で自由な値をとり得るのであって,しかもN個の成分中一個或は任意の数個の組み合わせがこれまた自由に発現していることになるのである。不規則度がほぼ定常的に類似とみられる持続時間は意外に長く,台風津浪の周期と同じ数十秒以上十数分にも及び,この期間中に完全な同調動揺が十分考えられる。スペクトル分布から得られるε^2の値は,断片的に発現する共振の性質を直接には理解できぬことになる。ここでN=3すなわち台風津浪の上に共振波が載った例を選ぶと,_3C_3+_3C_2+_3C_1=7種の重複状況が記録のどこかに発現し得ることになり,動揺記録としては最も波面傾斜の小さい台風眼津浪を略すればN=2,_2C_2+_2C_1=3種の混合が出て来ることになる。共振成分の周期は数秒〜十数秒に対し誘振成分は数十秒〜数分であれば,基本波の波峯部には共振波が波底部には基水波自身が単独に発現し,その中間波面傾斜が最大となる平均水位の付近は,両者の混合状況を呈しているようである。海面に常時存在する基本波の成分数を調べると,風浪,うねりより長い周期を有する位置でスペクトルの山の数は数個であるから,音響学のいわゆるwhite noiseよりもむしろ音楽学のdrownに近く,これらの波動群はあたかも和音の如き比率を形成した時,その旋律に乗ったかの如く風浪やうねりが極度に発達するように考えられる。
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