【目的】片まひ者のエス
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タ利用に関する先行研究は少なく、適応や訓練方法は明らかではない。当センターでは外出訓練の一部としてエス
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タ乗降訓練を行なうことが多いが、訓練を実施するか否かは各担当の判断に依る部分が大きい。そこで、乗降訓練を実施した症例と、実施しなかった症例の身体機能を比較し、さらに訓練を実施した症例のうち、自立に至った症例と、至らなかった症例についても比較検討したので考察を加えて報告する。
【方法】2006年11月から2007年9月に、当センターの理学療法部門を利用した屋外歩行可能な片まひ者のうち、エス
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タ乗降訓練を実施した群(以下エス
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タ群)24例(平均年齢47.9±9.0歳)、実施しなかった群(以下非エス
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タ群)27例(平均年齢56.0±10.9歳)を対象に、下肢片まひグレード、片脚立位保持時間、歩行様式、歩行速度、屋外歩行距離を調査した。
【結果】下肢片まひグレードの下限は、エス
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タ群7、非エス
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タ群4であった。片脚立位保持時間は、非まひ側ではそれぞれ33.7±13.0秒、14.5±11.9秒で有意差が認められた(p<0.01)が、まひ側では有意差はなかった。エス
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タ群では全例前型の歩行様式で、非エス
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タ群は前型88.9%、揃い型11.1%であった。歩行速度は、57.6±13.2m/min、41.4±21.6m/minで有意差が認められ(p<0.01)、エス
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タの通常運行速度は30m/minであるが、エス
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タ群は全例これを上回った。屋外歩行距離は、1104.6±478.4m、835.2±546.3mで有意差はなかった。エス
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タ群のうち、乗降自立16例、要監視8例であったが、有意差のある項目はなかった。
【考察】エス
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タに乗る時は、先行足の接地面が前方へ移動するため、後方の足で推進力を生み両足を揃える必要がある。揃い型や後型の歩行様式ではこの動作は困難であるため、エス
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タ群は全例前型であったと考えられる。また、非まひ側片脚立位で有意差が認められ、乗降時のバランス保持や前方への推進力を生むことにおいて、まひ側下肢機能を非まひ側下肢で代償できれば乗降が可能であると考えられる。歩行速度は、エス
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タの通常運行速度を上回ると乗降可能である可能性が高いが、非エス
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タ群でも30m/minを超える症例が存在した。同様に各項目でエス
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タ群と同等の値を示す症例もあったが、1項目でも劣ると乗降訓練は実施しない傾向がみられ、今回の調査では、前型の歩行様式、十分な非まひ側下肢機能、30m/minを上回る歩行速度の全てを満たすことが乗降訓練適応の目安と考えられた。エス
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タ群の中でも要監視に留まった症例が1/3あったが、身体機能面では自立群と要監視群に差異は認められなかった。監視を要する原因として、周囲の状況把握能力の不足や実地場面での手順の混乱などが挙げられ、注意障害など高次脳機能障害の影響も検証することが今後の課題である。
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