育児にまつわる感情 (特に負の感情) を夫に訴えたとき, 夫たちがどのような態度をとっているのか, それによって妻の育児感情が影響されるのかを調べたところ, 次のような結果が得られた.
1) 育児感情を訴えたとき, 夫たちは不機嫌になったと妻は受けとめているのに対し, 夫たちは気が向けば相談に乗ったり, 一緒に考えたとしている.
2) 妻無職家庭の夫は, 有職家庭の夫より一緒に考えるという態度をとる人が有意に多い.
3) 家族構成別には明らかな違いはみられない.
4) 妻が認識している夫の態度と夫がとったとする態度とは約半数は一致していない.
5) 妻有職家庭の夫は妻の育児感情の訴えに不機嫌になるということで, 妻の受けとめ方と夫のとった態度が一致している.
6) 育児を女の仕事と考える夫の妻は, 妻が育児感情を訴えたときに夫が不機嫌になったと受けとめている.
7) 育児を男女平等の仕事と考える夫は, 妻の育児感情に一緒に考えるという態度を示し, 妻もそのように認識している.
8) 訴えたとき夫が不機嫌になると認識している妻は, 疲労感や負担感を他のグループの妻より強く持っている.
以上である.妻から育児にまつわる感情を訴えられたとき, 夫たちは不機嫌になると妻からみられており, 夫がとったとする態度と一致していなかった。また, 不機嫌になる夫の態度が妻の負の感情を強めるのではないかと推測された.
人の感情を正確に捉えることは難しい.また, 日本の男性は特に, わかっていてもそれを態度や言葉で表現することに抵抗を示しやすく, 自分の感情を素直に表現できない, ということを考慮しても, 育児を軽く考えている夫たちへの妻たちの不満は大きいのではなかろうか.親があっても育ちにくい社会で少ない子どもを健全に育てねばならないという使命感に押しつぶされそうになりながら, 子どもの成長は楽しみであるが毎日毎日同じことの繰り返しで自分が駄目になってしまうのではないかという不安, 自信の持てない育児, 子どもが育児書どおりに育っているかの不安など, 毎日いくつかの感情に揺れながら子育てをしているのが現状である.こうした悩みを聞いてくれ共感してくれるだけでも妻の心の負担は軽くなるであろう.このことを, 育児は男女平等とする夫が妻の育児感情を受けとめた態度と妻が認識した夫の態度とが一緒に考えるということで一致していること, 一緒に考えるという態度をとった夫の妻が疲労感や負担感等で他群の妻より弱かったことが示している.
前報でも触れたように, 様々なレベルの育児支援がとられている。専門家からのアドバイスは不安を解消し知識や情報を得ることはできるであろう.しかし, 妻たちの一人で子育てしているという圧迫感までは解消されないのではなかろうか.
また, 妻無職群の夫は妻の育児感情を低く認識していたのであるが, この夫たちが妻たちから一緒に考えるという態度をとっていたと受けとめられていたのは, まわりに援助者がいない場合, 夫たちも子育てに必然的に関わらねばならなくなるからであろう.が, 男性の育児に対する意識は本音の部分ではまだ旧態依然としたところがあり, 男が仕事上の悩みを自分で解決しているように, 育児の悩みも女自身で解決すべきことと思っている男性はまだまだ多いのが実状である.
「女性の意識の変化は確実に家事や育児に対する考え方を変えていること.このことが, 育児をどんなにすばらしいやりがいのある仕事と捉えても, 女性はそれにのみ満足できなくなっていること.人と人との関わりには, 予想だにしない事態が起こりわずらわしい人間関係を嫌う現代人には育児は想像以上に大変な仕事であること」を, 共同責任者である夫たち (男性) に理解されるにはどのような有効な方法が存在するのであろうか.
このことを考えるために, 人間らしく生きるとはどういうことか, その一つとして「子育て」を位置づける視点で今後考察していきたい.
また, 仕事を持つ妻と持たない妻とでは夫に対する要求の質が異なっているのではないかと思われる結果がみられた.妻が夫に要求する質に焦点を当て, この点を明確にしつつ育児の共同化を考えていく必要性を痛感している.
これらを今後の検討課題としたい.
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