はじめに
低酸素性虚血性脳症(hypoxic ischemic encephalopathy:HIE)は,脳性麻痺,精神発達遅滞,てんかんなどの神経学的後障害の原因となる疾病であり,周産期医療においては,最も重要な疾病の一つである。
2012年に日本周産期・新生児学会の周産期学シンポジウム運営委員会が中心となり本邦における中等度〜重度のHIEの発症状況ならびにそのリスク因子の解析を行うことを目的としてアンケートによる全国調査を行った。第31回周産期学シンポジウムプレコングレスにて,調査結果の一部を「周産期学シンポジウムアンケート調査報告 〜本邦における
新生児低酸素性虚血性脳症
の現状と病態に関する研究〜」として,在胎37週以上の児の概要について報告した
1)。わが国における在胎37週以上の中等度〜重度のHIEは出生1,000に対して0.38であり,中等度〜重度のHIEにおける予後は,臍帯異常,院外出生,蘇生の程度,Apgarスコア,入院時血液ガス所見,入院時検査における白血球数,乳酸値,LD値,CK値,AST値,頭部MRI所見と関連があることを明らかにした
2)。
在胎34〜36週出生の児は,正期産に近いためほとんどの症例で出生体重が2,000gを超えており,near-termとよばれて正期産児と準じて管理されていた。しかしながら,これらの児は正期産児と比べ新生児合併症が多く,発達予後が悪いことが報告されており3,4),早産児であることを認識するためにlate pretermとよばれるようになった3)。HIEにおいても,late preterm児と正期産児に差異があることが予想されるが,late preterm児におけるHIEの報告はわずかに散見されるのみである5,6)。今回は,「周産期学シンポジウム運営委員会報告 Late preterm児(在胎34〜36週)の低酸素性虚血性脳症」として,late preterm児におけるHIEの概要について検討した。
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