患者は, 65歳, 男性. 発熱, 背部痛, 多関節痛を主訴に来院した. 造影CTで腎動脈下腹部大動脈瘤があり, 血液および尿培養からメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin-susceptible staphylococcus aureus; MSSA)が検出された. 抗菌薬にて症状は改善していたが, 入院6日目に突然ショック状態となり, 再検したCTにて動脈瘤の急速な増大と後腹膜腔への破裂を認めた. カテコラミン投与および輸血を併用して血行動態を維持しながら, 緊急人工血管置換·大網充填術にて救命し得た. 瘤壁よりMSSAが検出され, 術後は3カ月間の抗菌薬投与を行った.
感染性大動脈瘤は, 比較的稀な疾患である. しかし, 医療の進展に伴いカテーテル検査による動脈損傷や糖尿病, 悪性腫瘍治療などによる慢性的免疫機能低下の患者人口は増加し, これらの感染性大動脈瘤のリスクを持つ患者も増すと予想される. 菌血症を呈する患者で大動脈瘤がみられた場合には常に考慮しなければならない. 内科的治療のみでの予後は不良であり, 抗菌薬と外科的治療の併用が基本である. グラフト感染予防のため, 術前の十分な抗菌薬投与が望ましいが, 感染性動脈瘤は破裂の頻度および死亡率が高いため, 適切な手術時期を見極める必要がある. 当症例は院内発症した後腹膜に限局する動脈瘤破裂であり, 速やかな手術により救命できたものと考えられた.
抄録全体を表示