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クエリ検索: "猛禽類医学研究所"
21件中 1-20の結果を表示しています
  • 齊藤 慶輔
    日本野生動物医学会誌
    2020年 25 巻 2 号 57-60
    発行日: 2020/06/23
    公開日: 2020/08/24
    ジャーナル フリー

     

    猛禽類医学研究所
    が活動拠点としている環境省釧路湿原野生生物保護センターには,絶滅の危機に瀕した猛禽類が様々な原因により傷病収容されており,一命を取り留めたものの後遺症により野生復帰が困難になったものも多い。国内希少野生動植物種については,重要感染症に罹患しているなどの特別な理由がない限り,安楽殺という選択肢が無いに等しい。動物園などに譲渡を打診しているものの,外見上明らかに後遺症がわかる動物についてはほとんど引き取り手がないのが実情だ。動物福祉の観点から,終生飼育となった個体が可能な限り快適な余生を過ごせるよう努力しているが,これらの動物の飼育管理に割り当てられる専用の予算は環境省から支給されていない。2017年4月,同研究所は終生飼育個体を環境省の事業対象から切り離す手続きを経て,個体の活用許可と引き替えに,飼育管理や餌に要する費用一切を独自に調達することを引き受けた。現在,これらの個体を用いて,事故防止器具の開発や輸血のドナーとして活用している。平成30年に種の保存法が改定された際,同法の施行規則で傷病個体の殺傷(殺処分)が適用除外行為として位置づけられた。致死的研究や殺処分が種の保存法において明文化されたものの,安易な希少種の殺傷が行われることの抑止として,根拠に基づく適切な判断が運用段階で行われるためのガイドラインの策定が早急に求められている。

  • 小林 由美, 小林 万里, 高田 清治, 蔵谷 繁喜, 小川 泉, 堀内 秀造, 馬場 浩, 渡邊 有希子, 桜井 泰憲
    哺乳類科学
    2011年 51 巻 1 号 47-52
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/27
    ジャーナル フリー
    サハリンの先住民族であるニブフ族が,ゴマフアザラシPhoca larghaの狩猟に利用していた箱罠,および北海道東部厚岸湾内で地域住民がゼニガタアザラシPhoca vitulina stejnegeriの狩猟に用いていたふくろ網罠を改良し,厚岸湾内でゼニガタアザラシの捕獲を試みた.その結果,捕獲まで至らず逃罠した事例(箱罠で1頭,ふくろ網罠で2頭)があったが,成獣のゼニガタアザラシ計3頭の捕獲・放獣に成功した.改良した箱罠は,1)捕獲効率(設置期間あたりの捕獲頭数)が高い,2)捕獲個体が罠内部で怪我や体力を消耗しにくい,3)捕獲後に個体を麻酔して不動化させるまでが容易,4)製作費用が安価,そして5)罠の設置と回収にかかる労力が少ない,といった点でふくろ網罠に比べて総合的に優れていると判断された.本方法により,人にも動物にも安全で,成獣も捕獲できるゼニガタアザラシの捕獲手法が確立された.今後は,罠の改良など捕獲効率の向上や非選択的な捕獲方法の検討が必要である.
  • 角田 真穂
    日本野生動物医学会誌
    2016年 21 巻 4 号 131-135
    発行日: 2016/12/22
    公開日: 2017/06/09
    ジャーナル フリー

    「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」によって希少種は重要感染症への罹患など,特殊な条件下以外での安楽殺を行うことはできない。そのため,希少種の傷病鳥獣救護においては,野外放鳥,放獣が困難となった個体は基本的には終生飼育となる。そのような状況の中,年間20件近い希少猛禽類の生体収容がある釧路湿原野生生物保護センター(以下WLC)ではオオワシ,オジロワシの終生飼育個体数が年々増加しており,本来の救護業務に支障をきたし始めている。現在WLCでは終生飼育個体を供血,普及啓発,事故防止対策の効果検証などに活用する努力がされているが,実際に活用されている個体は少ない。今後,施設の限られたキャパシティの中で種の保存に効果的な救護業務を実施するならば,終生飼育個体をただ継続飼育するのではなく,安楽殺の検討や,さらなる活用方法の模索など,新たな対応が求められる。

  • 石塚 真由美, 寺岡 宏樹
    日本野生動物医学会誌
    2017年 22 巻 4 号 55
    発行日: 2017/12/22
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー

    野生鳥類は陸上における最も身近な野生動物でありながら,

    必ずしも充分な研究が行われているわけではない。しかし,世

    界的にダイオキシン類,金属類,農薬など,様々な化学物質に

    よる野生鳥類の中毒事故が絶えない。通常,生物は環境化学物

    質に対抗するための生体防御機構を有しているが,鳥類では哺

    乳類に比較して多くの環境物質に対する感受性が高いことが報

    告されている。一方,野生鳥類が高度に濃縮する化学物質も知

    られており,事故による犠牲を含めて,回収された死体は生息

    域の汚染状況を物語る貴重な試料であるとも言える。

     本特集は,2015 年7 月30 日(木)~ 8 月2 日(日),酪

    農学園大学で開催された第21 回日本野生動物医学会大会にお

    ける学会主催シンポジウム『野生鳥類の化学物質汚染とその影

    響』(7 月31 日)を契機として企画されたものである。本シ

    ンポジウムでは,実際に頻発している中毒事故や化学物質汚染

    の実態,さらに野生鳥類の化学物質感受性のメカニズムに関す

    る最新の知見が報告された。

     特集記事は以下の4 編の総説から構成される。

    1.ダイオキシン感受性因子としての鳥類AHR1 遺伝子型と生

    態要因の関係

      Ji-Hee Hwang1),Hisato Iwata2),Eun-Young Kim1, 2)

      (1)Department of Life and Nanopharmaceutical Science and

    Department of Biology, Kyung Hee University,2)愛媛大学沿

    岸環境科学研究センター)

    2.野生鳥類におけるダイオキシン類のエコトキシコロジー

      久保田 彰(帯広畜産大学獣医学研究部門基礎獣医学分野,

    動物・食品検査診断センター)

    3.鳥類で起こっているケミカルハザードとそのメカニズム

      中山翔太,水川葉月,池中良徳,石塚真由美(北海道大学大

    学院獣医学研究科)

    4.北海道における野生鳥類の石油汚染・中毒とサハリン開発

    がもたらす脅威

     齊藤慶輔(

    猛禽類医学研究所

     本特集が野生鳥類の化学物質汚染に関する研究の発展に少し

    でも寄与することを願ってやまない。

  • *石井 千尋, 中山 翔太, 池中 良徳, 水川 葉月, 中田 北斗, 齊藤 慶輔, 渡邊 有希子, 田辺 信介, 野見山 桂, 林 光武, 増田 泰, 坂本 健太郎, 石塚 真由美
    日本毒性学会学術年会
    2014年 41.1 巻 P-188
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/26
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】北海道では、猛禽類において鉛弾摂取による鉛中毒が問題となっている。現在は鉛弾の使用規制が設けられているものの、未だに被害個体が発見されている。また、本州など他地域でも鉛中毒個体が発見されているが、北海道を除く地域における汚染実態調査は極僅かであり、鉛弾使用規制も不十分である。そこで、本研究では北海道、本州、四国において死亡した猛禽類の鉛濃度と鉛安定同位体比を測定し、鉛汚染状況と汚染源の解明を試みた。
    【方法】試料は、1993年から2014年に北海道、本州、四国で死亡したイヌワシ、トビ、オオワシ、オオタカ、フクロウ、オジロワシ、オオハヤブサ、クマタカ、サシバ、ハイタカ、ツミ、チョウゲンボウの計49個体の肝臓を採取し、誘導結合プラズマ質量分析計で鉛濃度と鉛安定同位体比(207Pb/206Pb、208Pb/206Pb)を分析した。
    【結果と考察】本研究の結果、1999‐2014年に北海道で死亡した4羽のオオワシにおいて、鉛中毒が疑われる値(11.0-29.5 mg/kg、湿重量)が検出された。北海道では2004年に大型獣の狩猟における鉛弾使用が禁止されているが、2013、2014年に採取されたオオワシにおいても高濃度の鉛蓄積が検出され、このうち1羽からはレントゲン撮影と剖検で胃内に鉛弾の破片が認められた。また岩手県で死亡したイヌワシからも高濃度の鉛蓄積(2.0 mg/kg)が認められた。さらに鉛安定同位体比を分析した結果、高濃度の鉛蓄積個体の鉛安定同位体比の値が同程度であった。このうち1羽から鉛弾が検出されたことを考慮すると、これらの高濃度蓄積個体の汚染源は鉛ライフル弾であると考えられた。
     上記の結果から、猛禽類の鉛弾摂取による中毒が未だに問題となっていることが明らかとなった。従って、北海道以外の地域における調査、また日本全国における鉛弾流通の完全禁止など規制強化の検討が必要であると考えられた。
  • 森光 由樹, 淺野 玄
    日本野生動物医学会誌
    2020年 25 巻 2 号 41
    発行日: 2020/06/23
    公開日: 2020/08/24
    ジャーナル フリー
  • 齊藤 慶輔
    日本野生動物医学会誌
    2017年 22 巻 4 号 73-78
    発行日: 2017/12/22
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー

     ロシア連邦のサハリン島では,サハリン開発と呼ばれる石油・天然ガス開発が進められている。鉱区であるサハリン北東の沿岸は希少種オオワシの繁殖地にあたる。2000年より実施してきたオオワシの生態調査では,潟湖周辺に約300つがいが繁殖していると推察され,1000個近い巣も確認されている。オホーツク海に接するサハリン北東の潟湖は極めて浅く,この浅瀬や沿岸の湿地帯に敷設されたパイプラインが破断した場合,石油は瞬く間に湖底まで汚染し,ワシの重要な餌資源を根絶するばかりか,周辺の生態系も壊滅してしまう。この島は凍結と解氷を繰り返す脆弱な土壌や活断層が多く,パイプラインが破断した場合,石油が河川,隣接する湿原や潟湖,さらにはオホーツク海へと広がることが危惧される。2006年2月,知床半島に5500羽以上の石油に汚染された海鳥の死体が漂着した。東樺太海流に乗ってサハリン沖から流されてきたと思われたが,汚染源は特定されていない。漂着鳥の多くは,石油が身体に付着したことで浮力を失い,溺死もしくは低体温症により死亡したと診断された。消化管に石油が確認された個体も多く,羽繕い等の際に石油を経口摂取したと推察された。海鳥が漂着した海岸で2羽のオオワシも死体として収容され,胃内から黒褐色の油に汚染された海鳥の羽毛や骨が認められた。消化器系病変の他,副腎や甲状腺の肥大など重油を経口摂取した際に認められる病理所見も確認された。

  • 齊藤 慶輔, 渡辺 有希子
    日本野生動物医学会誌
    2006年 11 巻 1 号 11-17
    発行日: 2006年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    猛禽類は送配電柱を止まり木として頻繁に利用するため,感電事故は世界中で大きな問題となっており,日本でも近年頻発している。北海道でも普通種に加え,オオワシ,オジロワシ,クマタカ,シマフクロウなどの希少種においても感電事故が多発している。筆者らは過去に発生した感電事故に関して,被害鳥や送配電設備,発生現場の分析を行い,これを元に各事例の原因と傾向を検証した。さらに得られた情報を活用し,環境省や電力事業者とともに感電事故の防止に有効な対策を検討しながら順次これを実行している。2005年,「オジロワシおよびオオワシ保護増殖事業計画」が告示されたことにより,本種の存続にとって脅威となる様々な要因の軽減や除去が求められるようになったが,感電事故も早急に対処すべき大きな問題のひとつとなっている。獣医師を含む研究者,電力事業者,行政が互いの専門分野を尊重し,協力をしながらその防止活動に取り組むことが,本問題の早期解決のためには最も重要である。
  • 藤井 啓, 小林 由美, 千嶋 淳, 渡邊 有希子, 櫨山 一朗, 青木 則幸
    哺乳類科学
    2009年 49 巻 2 号 263-268
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/14
    ジャーナル フリー
    1980年代以来,北海道東部沿岸に生息するゼニガタアザラシ(Phoca vitulina stejnegeri)の一般的な上陸個体数の季節変化は,秋から冬の間は少なく,繁殖(出産・育児)期(5–6月)を通じて増加がみられ,換毛期(7–8月)に最大になるとされてきた.しかし,複数年にわたる通年の上陸個体数調査の結果,浜中町にある上陸場(浜中A)では,繁殖期に少なく,その後換毛期から秋期(9–11月)に多く,冬期(12–2月)にやや減少した後,繁殖期前(3–4月)にも増加した.十分な統計的裏付けを得るにはさらに観察例を増やす必要があるものの,浜中Aでの観察結果は,これまで北海道で一般的とされてきた本種の上陸個体数の季節変化とは異なっていた.
  • *玉城 美加子, 當間 孝子, 万年 耕輔, 比嘉 由紀子, 宮城 一郎, 齊藤 育弘
    日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集
    2011年 63 巻 A10
    発行日: 2011年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    琉球列島に生息する蚊の吸血習性を明らかにするために,2005-2010年の6年間,琉球列島の奄美大島,徳之島,伊平屋島,沖縄島,西表島の,森林・住宅地・畜舎等で抱血蚊を採集した。採集は蚊の生息場所や習性によって,4種類の方法(BLBライトトラップ法等)で行った。吸血源動物種の同定は,吸血した蚊の動物血液由来のDNAをPCRによって解析し,NCBIのデーターベースで吸血源動物種を検索した。蚊の吸血源動物には,温血動物の哺乳類と鳥類,冷血動物の爬虫類,両生類および魚類が同定され,吸血した吸血源動物種によって、吸血蚊は大きく3つのグル―プ(温血動物のみ,温血と冷血動物の両者,冷血動物のみを吸血する)に分けることが出来た。それらのグループのうち,今回は後者を除く2つのグループについて報告する。温血動物のみを吸血したグループには,コガタアカイエカCx.tritaeniorhynchus,ウィシニイエカCx.vishnui,シロハシイエカCx.pseudovishnuiが含まれ,哺乳類と鳥類の両者を吸血し,日本脳炎ウィルスの哺乳類と哺乳類間だけでなく,鳥類と哺乳類間の媒介に関係する可能性が考えられた。かつて沖縄本島でマラリアが流行した際に,媒介蚊として考えられているオオハマハマダラカAn.saperoiは高い哺乳類嗜好性を示し,沖縄本島森林内ではイノシシを吸血していた。ネッタイイエカCx.quinquefasciatusは,採集された場所によって吸血源動物の割合が異なり,鶏舎では78%が鳥類,22%が哺乳類を, 住宅地では88%が哺乳類,12%が鳥類あるいは両生類を吸血した。またリバースシマカAe.riversiは,沖縄本島,西表島,徳之島の森林地帯で採集され,哺乳類と爬虫類を吸血し,日和見的な吸血嗜好性を示した。
  • *江尻 寛子, 佐藤 雪太, 金 京純, 津田 良夫, 沢辺 京子, 村田 浩一, 齊藤 慶輔, 渡辺 有希子, 志村 良治, 湯川 眞嘉
    日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集
    2011年 63 巻 A09
    発行日: 2011年
    公開日: 2014/12/26
    会議録・要旨集 フリー
    これまでに、我々は主に関東地方において、鳥マラリアなど蚊媒介性感染症の伝播様式の解明を目的として、ベクターとなる各種蚊の吸血源動物種を推定してきた。亜寒帯気候の北海道に分布する蚊の種構成は、温帯気候の本州とは大きく異なり、吸血対象動物についても不明な点が多い。北海道は渡り鳥の飛来地が多く、鳥類由来感染症のモニタリング地点として重要で、病原体伝播リスクを検討するため、そこに生息する蚊の吸血源動物の解明が必要である。そこで今回、飛来地の一つである北海道東部の釧路湿原周辺で捕集した蚊の吸血源動物を推定し、調査地に生息する蚊の吸血行動に関する情報を集めた。 釧路湿原周辺に位置する釧路市動物園および釧路野生生物保護センターにおいて、2008年7月28、29日の2日間と、2009年8月3、4日の2日間、CDC型ドライアイス誘引トラップおよび捕虫網を用いて蚊を捕集した。腹部に血液貯留が認められた個体からDNAを抽出し、脊椎動物遺伝子を標的としたPCRを行った。増幅が見られた場合は塩基配列を決定し、GenBankに登録されている既知の配列と比較し、動物種を推定した。 エゾヤブカ、アカンヤブカ、チシマヤブカ(またはキタヤブカ)、キンイロヤブカ、アカエゾヤブカ、ハマダライエカ、ミスジハボシカおよびヤマトハボシカの8種309個体の吸血蚊が捕集され、その80%以上がエゾヤブカであった。そのうち279個体から13種類の脊椎動物の遺伝子が増幅され、80%以上がエゾシカを、約1%がヒトを吸血していると示唆された。また、ハマダライエカを除く7種が哺乳類を吸血し、そのうちの4種は鳥類も吸血していた。エゾヤブカはヒトを含めた哺乳類、鳥類および両生類を吸血源としていることが示唆され、多様な病原体を取り込む可能性の高い種であると推察された。
  • Rob OGDEN, 福田 智一, 布野 隆之, 小松 守, 前田 琢, Anna MEREDITH, 三浦 匡哉, 夏川 遼生, 大沼 学, 長船 裕紀, 齊藤 慶輔, 佐藤 悠, Des THOMPSON, 村山 美穂
    日本野生動物医学会誌
    2020年 25 巻 1 号 9-28
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2020/05/31
    ジャーナル フリー

     イヌワシの一亜種であるニホンイヌワシ(Aquila chrysaetos japonica)は,個体数と繁殖状況の現状調査に基づいて,環境省版レッドリストの絶滅危惧種に指定されている。現在,国による保全活動が行われているものの,個体数減少の原因とその改善方法に関する知見は,十分とはいえない。この数十年の間に,日本を含む世界各地において,イヌワシの種の回復に関する多分野にわたる科学的な研究が行われ,本種の保全計画に必要な情報が集められつつある。しかしながら,これらの研究は個別に進められており,学際的なアプローチが充分になされていない。本稿では,生態学,遺伝学,獣医学的健康管理,生息地管理などの,ニホンイヌワシの保全に関する諸研究を総合して概観した。野生および飼育下個体群の現状と傾向を分析し,現在および将来の保全管理の活動を報告し,ニホンイヌワシの生息域内保全および生息域外保全に向けた対策について,統合的な見地から議論した。この総説では,イヌワシの生物学や健康科学に関する国内および海外の専門家グループが,学術的な情報と実用的な解決策の両方を提示した。本稿によって,ニホンイヌワシの数の減少をくいとめるのに必要な情報と技術を提供し,日本における長期的な本種の保全に応用するための枠組みを示すことを目指す。

  • 齊藤 慶輔
    日本野生動物医学会誌
    2011年 16 巻 1 号 1-4
    発行日: 2011/03/31
    公開日: 2018/07/26
    ジャーナル フリー

     現在,日本を含む東アジア諸国において,野生動物医学に関する国際交流をより活性化させ,野生動物と人間のより良い共生を目指すことを目的に,各国の現状と問題意識の共有を図ることが強く求められている。第16回日本野生動物医学大会では,各国に存在する野生生物への脅威や,越境する恐れのあるさまざまなリスクに対する各国の取組みへの理解を深め,国際協力ネットワークを構築することを目的に,シンポジウム「東アジアにおける野生動物医学活動のネットワーク化」を開催した。シンポジウムには,中国,韓国,台湾より各1名ずつの外国人演者を招聘し,渡り鳥が運ぶウイルスの確認状況や存在する野生生物への脅威などが紹介された。多くのパネリストが各国の現況について情報を共有することの重要性を指摘し,特に渡り鳥が運ぶさまざまな感染症については,モニタリング項目(ウイルスなど)や対象種について,ある程度の共通項が必要との認識を示した。また,越境する重要感染症などに対処するため,可能な限りリアルタイムで正確な情報交換を行うための体制整備についても,今後早急に確立すべき課題であるとの認識で一致した。

     さらに,渡り鳥のフライウエイに位置する国同士が連携して野鳥の保護活動を行うためには,各国におけるさまざまなリスクをハザードマップ化しておくことが重要である。

  • 高見 一利, 渡邊 有希子, 坪田 敏男, 福井 大祐, 大沼 学, 山本 麻衣, 村田 浩一
    日本野生動物医学会誌
    2012年 17 巻 2 号 33-42
    発行日: 2012/06/29
    公開日: 2018/07/26
    ジャーナル フリー

     

     2010年度に,日本各地で野鳥から高病原性鳥インフルエンザウイルスが確認され大きな問題となるなか,発生地や調査研究機関など各所で体制作りが進められた。日本野生動物医学会も,野生のツルへの感染が確認された鹿児島県に専門家の派遣を行い現場作業に貢献した。これらの取り組みから一定の成果が得られ,情報収集や体制構築の検討も進んだ一方で,様々な課題や問題点も明らかとなった。一連の活動や検討を踏まえた結果,野生動物感染症対策を効果的に促進するためには,感染症の監視と制御に役立つ体制を構築することが必要であると考えられた。従って,本学会は体制整備として,以下の取り組みを進めることを提言する。

    1.野生動物感染症に関わる法律の整備

    2.野生動物感染症に関わる省庁間の連携

    3.野生動物感染症に関わる国立研究機関の設立

    4.野生動物感染症に関わる早期警報システムの構築

    5.野生動物感染症に関わる研究ネットワークの構築

    6.野生動物感染症に関わる教育環境の整備

    この提言は,本学会の野生動物感染症に対する方向性が,生態学的健康の維持にあることを示すものである。

  • 淺野 玄
    日本野生動物医学会誌
    2016年 21 巻 4 号 111-113
    発行日: 2016/12/22
    公開日: 2017/06/09
    ジャーナル フリー

    公共事業として行われる傷病鳥獣救護事業では,「種の保存法」で国内希少野生動植物種(国内希少種)に指定された傷病個体が救護されることがある。「種の保存法」の目的から,野生復帰は不可能と判断された国内希少種の傷病個体は,種の保存に資さない限りは致死が認められていないものと解釈される。野生復帰不可能な国内希少種を保護している傷病鳥獣救護施設では,種の保存を目的とした保護増殖や生物多様性保全を目指した啓発普及などに野生復帰不能な個体を活用する努力が行われているが,予算,人手,飼養設備などには限界がある。また,増え続ける野生復帰不能な国内希少種は,傷病鳥獣救護事業や保護増殖活動そのものを圧迫するだけではなく,終生飼養される個体の福祉やQOLの低下などが現実問題として生じている。苦痛が大きかったり致死が明らであったり,獣医学的にも福祉の観点からも安楽殺処分が最善の策であると結論づけざるを得ない事例や,同時多発的に傷病が発生した場合のトリアージなどについても,国内希少種の傷病個体の取り扱いに関して明確な指針は整理されていないのが現状である。野生復帰不可能な希少種に関わる課題について整理を行い,未来思考的に保全と福祉の両立に配慮したガイドラインの整備が求められている。

  • 日本野生動物医学会・教育委員会, 浅川 満彦, 外平 友佳理, 皆川 智子, 野村 愛, 渡邊 有希子, 加藤 智子, 石塚 真由美
    日本野生動物医学会誌
    2009年 14 巻 1 号 85-95
    発行日: 2009年
    公開日: 2018/05/04
    ジャーナル フリー
    獣医系大学において,野生動物に関してどのような教育が実施されているのかアンケート調査を実施した。1996年に行われた同様の調査の結果と比較すると,講義については多くの大学で改善が見られている。しかし,実習に関しては,人材や設備の不足から十分な教育が実施されていないことが明らかとなった。一方で,各大学からは,野生動物医学に関して,これ以上の教育体制の改善が望めないとの意見も出された。獣医学における野生動物医学の教育の現状を報告する。
  • 藤井 薫, 中村 神騎
    日本鳥学会誌
    2022年 71 巻 1 号 45-49
    発行日: 2022/04/22
    公開日: 2022/05/11
    ジャーナル 認証あり
  • 三宅 志穂
    日本科学教育学会研究会研究報告
    2014年 29 巻 3 号 61-66
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/04/07
    研究報告書・技術報告書 フリー
    野生動物の保護・保全を目的とする組織や施設が提供する、一般向けの普及活動とはどのようなものなのか。本研究では子どもから大人まで幅広い年齢を対象にするプログラムにおいて、何がどのようなやり方で提供されているかについて実地調査した。実地調査によって、いかに一般の人々に野生動物の保護・保全を身近に感じてもらうかという工夫がなされていることが分かった。
  • 小林 由美, 風呂谷 英雄, 石川 恭平, 桜井 泰憲
    野生生物保護
    2013年 14 巻 1-2 号 53-60
    発行日: 2013/07/01
    公開日: 2017/09/07
    ジャーナル フリー
    We used a questionnaire survey to gather information on the damage caused by seals to fishing gear and captured fish during 2004-2007 around Akkeshi Bay in Eastern Hokkaido, Japan. The damage to the fishing gear consisted of damage to the small fixed shore net and the gill net. Nine seal-damaged fish species reported are as follows: ice fish (Salangichthys microdon), Pacific herring (Clupea pallasii), Arctic rainbow smelt (Osmerus eperlanus mordax), righteye flounder (Pleuronectidae), Japanese surfsmelt (Hypomesus japonicas), capelin (Spirinchus lanceolatus), sailfin sandfish (Arctoscopus japonicus), saffron cod (Eleginus gracilis), and Japanese fluvial sculpin (Cottidae). These fish species were damaged by Kuril harbor seals and spotted seals. The percentage of fishery damage reported by local fishermen was 2.75 ± 3.53 % (range 0.39-7.92%) of the total catch of each damaged fish in Akkeshi Bay. Two main peaks were observed: one during early spring from March to April and the other during autumn from September to October.
  • 長  雄一, 宇野 裕之, 吉田 剛司, 小林 聡史
    湿地研究
    2018年 8 巻 33-44
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    釧路湿原国立公園内のニホンジカ捕獲候補地は,希少鳥類であるタンチョウの生息域でもある.タンチョウの保全に配慮したニホンジカの管理を考えるために,捕獲候補地として検討されているコッタロ湿原の道道クチョロ原野塘路線及び釧路川右岸堤防周辺を対象に,タンチョウの分布様式の把握を行った.コッタロ湿原に関しては定点からのタンチョウの観察及び踏査による足跡確認を行った.また,釧路川右岸堤防周辺では,自動車あるいは徒歩により一連のカウント調査を実施した.タンチョウの個体及び足跡の位置を地理情報システムに入力して,位置関係を明示することで空間解析を行った.2015 年及び2016 年における12 月から2 月までのコッタロ湿原では,湧水地あるいは河川のどちらか一方から200m 以内で,タンチョウを頻繁に確認した.また,2015 年及び2016 年における釧路川右岸堤防周辺で,12 月から2 月までは湧水地から500m 以内で,3 月から10 月までは河川から200m 以内で,タンチョウを頻繁に確認した.ニホンジカ捕獲に際しては,これらの湧水地や河川周辺で,タンチョウの存在を事前に確認することが,その保全のために重要である.
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