本実践は、高校家庭科に於いてエシカル・ファッションを題材に、IT による遠隔地や企業との連携を伴う体験を中心とした学習を行い、動画作成やプレゼンテーションを通じて学びを振り返り他者へ伝えることにより、消費者市民的な視点の育成を試みたものである。
エシカル・ファッションとは、エシカル消費=倫理的消費、のアパレル分野の取り組みである。消費の背景へ着目し、衣服の生産から、消費されるまでの全過程において環境や人権、社会貢献に配慮する衣生活のことを意味する。このエシカル・ファッションを扱った研究としては、内村(2012)や、生駒(2010)のものがあるが、それらはエシカル・ファッションの社会的意義を論じたものであり、高校普通科の教育実践としては管見の限りでは無い。
そこで、2011年のお茶の水女子大学附属高等学校公開教育研究会では、「エシカル・ファッションについて考えよう」というテーマで、衣服の選択を通して、商品の持つ「背景」への眼差しを広げる授業を提案した(葭内,2011)。これは、エシカル・ファッションの教育実践としては全国初のものである。
2011年の研究を踏まえて、本実践では、まず2013年4月の学習前の生徒の意識調査をおこなった。この時点では、本校高校1、2年生240名中、エシカル・ファッションの認知度は皆無に等しかった。消費行動では、「価格」と「好み」が衣服の選択理由として最初に上がり、消費の「背景」へ配慮する様子は乏しく、安ければ安いほど良い、とする回答も散見された。その後、高校2年必修「家庭総合」で初夏から秋にかけて授業実践を行い、その成果を12月に環境展示会エコプロダクツ2013にて一般向けに高校生がプレゼンテーションを行い、その前後に学習内容と消費行動がどのように定着・変化したか分析した。授業では、エシカル・ファッションの題材と言える完全天然製法の
藍染め
液を高校で製作し、徳島の
藍染め職人と連携しインターネットで高校藍染め教室と徳島をビデオ通話で繋いで藍染め
実習を行った。さらに、生徒自作の天然素材のシャツと組み合わせた
藍染め
の服を題材にカタログ製作やワークを通じてエシカル消費についての学習を行った。さらに全国の高校生へ発信するために、2年生全員でエシカル宣言を考え、PCタブレットを用いて動画作成を行った。エコプロダクツ展 では、(株)Lee Japanと、エシカルアクセサリーブランドFelizと連携し、生徒自作の
藍染め
の服に、提供されたオーガニックコットンの服やフェアトレードアクセサリーをコーディネートしたファッションショーを行い、児童労働などのクイズを交えてエシカル・ファッションのプレゼンテーションを行った。
以上のような学習を行った後の調査では、エシカル・ファッションの認知度は100%となり、消費意識に変化があった、とする者が多数であり、自発的な消費者市民的行動も見られた。ここでは産業界との連携を交えた実体験に基づく学びと、他者へ発信するために生徒自身が学びを振り返り工夫し考えることが効果的であったことが、過年度の調査との比較で明らかとなった。
今後の課題として、具体的な消費行動とより関連する教育手法や実践の開発が挙げられる。 尚、本実践は平成25年度「文部科学省消費者教育推進のための調査研究事業」に採択されて行われた研究成果の一部である。
参考文献
生駒芳子(2010)「エコとファッション 「エシカル」ファッションは心のエコロジー」『環境会議』(34),110-115、内村里奈(2012)「エシカル・ファッションにみる今日的課題」『家計経済研究』(95), 38-45、葭内ありさ(2011)「エシカル・ファッションを考えよう—「背景」への眼差しを育てる消費者教育—」『お茶の水女子大学附属高等学校研究紀要』(57),15-25、 葭内ありさ(2013)「消費者教育におけるエシカル・ファッションの有用性」,日本教育学会第72回大会,口頭発表,於一橋大学.
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