1.目的
食品の安全・安心に対する消費者意識が高まっている。その中でも各種アンケート調査結果によれば、「
食品添加物
」は不安項目の上位に挙げられることが多い。
本来、あらゆる食品にはリスクとベネフィットの両面が存在する。
食品添加物
もその例外ではない。「
食品添加物
は健康に悪い」というイメージがつきまとうが、
食品添加物
は科学的な安全性評価に基づき健康影響の出ない使用基準が定められている。また、
食品添加物
は食品の保存性を高める効果がある等、消費者の食品選択の幅を広げる。したがって、
食品添加物
について正しく学習することは、消費者教育上重要であると言える。
家庭科教育における
食品添加物
に関する従来の研究では、実際の教育現場での教育例や、大学生や児童の意識調査についての報告が多数を占めている。したがって、
食品添加物
について現在の消費者の理解や認知状況を把握することは、今後の家庭科教育プログラム作成に少なからず貢献するものと考えられる。
本研究では一般消費者を対象にしたアンケート調査を実施し、
食品添加物
に対する知識や態度について現状を把握すると同時に、消費者の
食品添加物
に対する認知構造について分析および考察を行った。
2.方法
アンケート調査は、東京都および大阪府在住の20歳代以上から70歳代までを対象にして行い、インターネットを通じてサンプルを回収した。回収数は合計で400件であり、実際の年齢構成に依拠したアンケートサンプルの割り付けも実施した。
本研究では、消費者の認知構造を明らかにするために、共分散構造分析を行った。共分散構造分析とは、直接観測できない概念を潜在変数として導入し、その潜在変数と観測変数との間の因果関係を同定することにより社会現象や自然現象を理解するための統計的アプローチである。ここでは、標準的に用いられる多重指標モデルを用いて、
食品添加物
に関する正確な知識を示す潜在変数(知識潜在変数)とネガティブな態度を示す潜在変数(態度潜在変数)との因果関係を検証した。
知識潜在変数および態度潜在変数を構成する観測変数はそれぞれ7個である。なお、
食品添加物
に関する知識観測変数(使用基準の設定や遵守の必要性、体内への蓄積性がないこと、複合反応が健康に影響を与えないこと、アレルギーの原因でないことなど)は「知らなかった=1」「聞いたことはある気がする=2」「聞いたことはある気がするがよくはしらなかった=3」「知っていた=4」とする4水準のカテゴリカル変数である。また
食品添加物
に対する態度観測変数(安全性への懸念、科学的根拠への不信、食品メーカーへの不信、過去の記憶など)には、「とてもそう思う=1」「そう思う=2」「どちらとも言えない=3」「そう思わない=4」「全くそう思わない=5」とする5水準のカテゴリカル変数を用いた。
3.結果
共分散構造分析の結果、まず、モデルの適合度はGFIが0.958、RMSEAが0.06となった。一般に、GFIは0.9以上、RMSEAは0.08以下であれば、適合度が高いモデルと判断される。したがって、本モデルを用いて考察することとした。
次に、知識潜在変数「添加物に対する正しい理解」と態度潜在変数「
食品添加物
に対する不信」間の因果関係について考察した。両変数間のパスの推定値は-0.05(P=0.246>0.10)となり、10%水準で統計的に有意ではなかった。したがって、今回の推定結果から、
食品添加物
について正しい理解が伴えば、消費者は
食品添加物
に対する不信の態度を形成しないことが示唆される。
なお、本アンケートでは、
食品添加物
に関する情報源を過去も含めて調査した。その結果、400名中「学校での教育(家庭科)」を挙げたのは14名(3.5%)しかみられなかった。それ以外では情報源はテレビや新聞記事といったマスメディアが多数を占めており、消費者団体や行政からの情報提供の利用についても一部にとどまっている。したがって、家庭科は
食品添加物
を科学的に学習できる重要な機会であるため、量・質ともに適切な
食品添加物
の教育が今後必要になってくることも示唆される。
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