【背景と目的】化粧品、食品、塗料などに用いられているナノサイズ二酸化チタニウム(nTiO
2)は吸入曝露による健康被害が懸念されている。nTiO
2は主にルチル型とアナターゼ型に分けられ、これまでに我々は、ルチル型nTiO
2に肺発がんプロモーション作用があること、そのメカニズムに、マクロファージの誘導、酸化ストレス、MIP1αが関与すること、さらにMIP1αがヒト肺がん細胞株 (A549) の増殖を促進することを見出した。本研究ではアナターゼ型 nTiO
2の肺内噴霧による肺組織および培養マクロファージに対する影響をルチル型と比較検討した。
【材料と方法】雌SDラットにアナターゼ型およびルチル型nTiO
2生食懸濁液を1回あたり500 ug/mLの濃度で0.5 mL肺内噴霧した。2週間に計8回噴霧した後に屠殺剖検した。肺組織を取り出し、MIP1αの発現量および8-OHdGレベルを測定し、肺組織に誘導されたマクロファージの数を定量した。nTiO
2を初代培養マクロファージに曝露させ、その培養上清によるA549の細胞増殖率を測定した。
【結果と考察】アナターゼ型nTiO
2投与群の肺組織におけるMIP1α発現量およびマクロファージ誘導数は、対照群に比べて有意に上昇していたが、ルチル型nTiO
2投与群より有意に低下していた。有意差は無いが、8-OHdG量にも同様の傾向を認めた。電顕では、いずれの型も肺胞マクロファージに貪食されていた。ルチル型nTiO
2で処理したマクロファージの培養上清はA549細胞の増殖率を有意に増加させたが、アナターゼ型では有意差は無いが増殖率の増加傾向を示した。アナターゼ型はルチル型と比べて肺組織および培養マクロファージへの影響は弱いことが示唆された。影響の違いはアナターゼ型とルチル型との結晶構造の違いに依存している可能性がある。よってnTiO
2のヒト健康への影響を考えた時、その形状を考慮する必要がある。
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