2022 年 29 巻 4 号 p. 141-148
通常の走査型電子顕微鏡(SEM)観察のための試料作製には試料を乾燥させる過程がある.生物試料のような含水試料を乾燥させる方法であるt-ブチルアルコール凍結乾燥法は高圧装置を必要とせず,処理も簡便であるという利点がある.しかし,ヒラタケ子実層托を電子顕微鏡観察のための一般的な固定法であるグルタルアルデヒドと四酸化オスミウムによる二重固定をし,t-ブチルアルコール凍結乾燥を経てSEMで観察すると,細胞は著しく収縮して変形を生じるという問題があった.そこで子実層托を四酸化オスミウム,タンニン酸,四酸化オスミウムによる三重固定をするとt-ブチルアルコール凍結乾燥を経ても細胞の変形が大きく抑制され,細胞表面の微形態を観察することが可能になった.本法で固定した子実層托を透過型電子顕微鏡でも観察し,細胞表面の形態保持性と細胞内構造との関連性について考察した.