抄録
有機合成手法の最近の進歩により, 精密分子システムの構築が活発におこなわれている。それは, 生命現象の微視的レベルにおける理解と生体機能をヒントにした材料の開拓に対する要請に基づく。そのシステムの設計にあたり, ホストーゲスト相互作用に基づく情報リレーは特に重要である。本稿では, 主にホストーゲスト相互作用と光学機能の連携によって特徴づけられる光機能性分子システムにおける, 最近のわれわれの取り組みについてまとめる。まず, ナフタレン-チオウロニウム誘導体からなる単純蛍光センサーについて記述する。電子欠損性チオウロニウム基におけるアニオン認識情報は光誘起電子移動過程の変化を介してナフタレン蛍光部位に伝達される。第二に, 分子性フォトニックシステムに適用可能な新規色素置換型カリックス [4] クラウンを合成した。当該分子は金属イオンの入力によって, 効果的な “off-on-off” のシグナル発信をおこなう。最後に, 大環状クラウンエーテルに基づく非線形光学活性レセプターを提案する。ハイパーレーリー散乱法による物性評価の結果, 二次非線形性を示す分子超分極率 (β) はそのシステムのクラウンエーテル空孔におけるゲスト認識に連携して制御された。ホストーゲスト化学の観点から色素化分子システムの新しい趨勢が議論される。