抄録
高度不飽和脂肪酸(PUFA)のような機能性脂質の応用研究は,「健康」 や 「栄養」 に関わる様々な分野で行われてきた。特に注目されてきた炭素鎖長20以上のPUFAの供給源は,鶏卵に含まれるアラキドン酸や魚油に含まれるn-3 PUFAが主なものであった。炭素鎖長20以上のPUFAを生産する微生物スクリーニングにより,アラキドン酸を豊富に含むトリアシルグリセロールを生産する油糧微生物Mortierella alpina 1S-4が見いだされた。M. alpina 1S-4において,油脂の生産量は20 g/lに達し,総脂肪酸に占めるアラキドン酸の割合は30~70%を占める。これまでに,M. alpina 1S-4から様々な変異株が誘導され,多様なPUFAが生産されるようになった。さらに,M. alpina 1S-4の形質転換系の開発により,PUFA生合成に関わる酵素遺伝子の解明やPUFA生産の向上が可能となった。本稿では,M. alpina 1S-4の育種(変異株育種と分子育種を含む)によるアラキドン酸とその関連PUFAの実用的な微生物生産について報告する。