2025 年 25 巻 4 号 p. 145-150
シャンプー処方が洗髪中の毛髪の絡まりを除去する性能を評価する目的で,濡れた毛髪単繊維間の摩擦特性を評価した。毛髪の絡まり点における接触状態を考慮し,引っ張られた状態にある毛髪単繊維間の高荷重条件下での摩擦特性を計測する方法を新たに考案した。その方法を用いて,様々な溶液で処理した毛髪単繊維について,特に絡まりに重要な役割を果たす静摩擦(スティック・スリップ)特性に着目した評価を実施した。その結果,水溶性シリコーン(bis-isobutyl polyethylene glycol (PEG)-14/amodimethicone copolymer, BIPA)の水溶液が静摩擦を効果的に抑制すること,BIPAを配合したシャンプー処方が静摩擦を抑えて洗髪時の絡まり除去に優れることを確認した。BIPAの高い絡まり除去能の機構を解明する目的で,表面力測定装置を用いた分子スケールの摩擦計測を実施した。平滑な雲母表面間にBIPA水溶液を注入して垂直荷重により押し付け,その摩擦係数を測定したところ,10-5オーダーと極めて小さい値が得られた。この超低摩擦は「水和潤滑」という機構によるものである。BIPAは水中でアミノ基の解離により正に帯電しており,負に帯電する雲母表面に吸着膜を形成する(毛髪表面も水中で負に帯電する)。BIPA吸着膜の最表面には高い流動性を有する水和水の層があり,それが優れた潤滑性と巨視的な静摩擦の低減に寄与したと考えられる。