抄録
高分子, 界面活性剤, コロイド分散系などのソフトマターは, それぞれ大きな内部自由度を有するため, エネルギー的な相互作用とエントロピー的な相互作用の微妙なバランスによって, 様々な構造を形成する。最近, このソフトマターの中でも膜+高分子複合系は, 生物, 製薬, 化粧品および食品分野においてよくみられることから, 非常に興味を持たれている。本稿ではこの複合系についてソフトマターの物理といった観点から最近の研究を紹介する。特に界面活性剤/水系においてラメラ状2分子膜の膜間に高分子を閉じ込めた場合と, 水/界面活性剤/油系の3成分系において球状マイクロエマルションの中に高分子を閉じ込めた場合の2つのケースについて解説する。ラメラ+高分子系では, 高分子鎖の閉じ込めによるエントロピーの損失と膜面に対する高分子鎖の排除体積効果 (枯渇相互作用) により, ラメラ膜間に引力的相互作用が生じる。一方マイクロエマルション+高分子系では, 高分子鎖の閉じ込めにより, 膜の弾性エネルギーと高分子鎖の閉じ込めによるエントロピーの損失との微妙なバランスの下, 多段階的な膜のモルフォロジー転移が誘起される。界面活性剤膜+高分子の複合系は, ソフトマターの物理として非常に興味深く, また生物的にも工業的にもこの系を理解することは重要である。